四日目の鐘
市場の中を通る道を抜ければ、市内中央の広場にあたる。城下町のどこからでも見える鐘楼は、この広場の中心に建っている。
アウロラとカエルムは鐘楼の真下へ近づいた。厳かな守りの塔を前にすると、忙しくてなかなかゆっくり眺める時間がなかったことに改めて気がつく。
鐘楼は複数の層から成っている。文字盤を載せる蔓の冠に沿って木彫りの鳩が飛翔している。それはいますぐ動き出してもおかしくないほど生彩な姿。文字盤にも細かく装飾模様が彫り込んであり、水晶のような薄紅の丸石が中央に嵌め込まれていた。遠目で眺めたときには、この石が眩く光るのだ。
シレアの時計台。この国の宝。
厳かさをもって迫ってくると同時に、触れるのを憚はばからせる冷たさではなく、どこか安心させる温かみも感じさせる。
アウロラは最下層にある扉に近づくと、扉の脇を固める石造りの壁にそっと手を置いた。
いまからさほど遠くない秋、けして止まることのないこの時計台が動きを止めた時がある。
「また止まれば、と思っている?」
慈しみを感じさせながら兄が問う。
その意を汲み取って、アウロラは微笑んだ。
「止まれば、とは思わないけれど……」
するとカエルムはアウロラの横に並び、扉に指を当てて鐘楼を見上げた。
「アウロラにとっては、そう思いたくもなる出会いではなかったか」
「そう、ね」
そのときに起こった、奇跡のような邂逅を、アウロラは思い出していた。どこからかも分からぬ世界から自分の前に現れ、時計台の奇跡が守られた時に消えた、自分とそっくりの少女を。
時計の危機が繰り返されるのは何に替えても避けたい。
だが、彼女はどうしているのか、それは知りたい。
「でも不思議な気持ちもするの。なんだかもう一度、声が聞きたいなって。今日ここに来たいと思ったのも、何か起こる気がして」
秋から冬に変わるシレアの美しい自然が、森を守る精霊の導きが、ここに来させたのだろうか。
朝日が一瞬、雲に隠れた。ちょうどその時。
アウロラの身体のうちで、妙なる響きがあった。
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