第2話 XRの猟師

僕はムーンライト3型の設営を完了すると、ディスカウントショップで買った折りたたみテーブルと折りたたみ椅子を広げ、ひと心地つく。

なにをするわけではないが、林道の終点でテントを張って、一夜を過ごす。

当時はこれだけの行為にハマっていた。


準備を済ますと、僕が来た林道から、オートバイの排気音が響いてきた、

最近よく聞く、軽く甲高い音の2ストロークではなく、重低音の響く4ストロークのものだった。

入口が視認しにくいとはいえ、ときどき、迷い込んでくるオートバイはおり、行き止まりと見ると、僕の前でUターンして、そそくさと帰っていく。


姿を見せたオフロードバイクは、行き止まりとわかってもUターンはせず、そのまま僕の近くまで来て止まった。


白いタンクのオフロードバイク。

タンクには青の文字で「XR」と書かれていた。


「こんにちは。ちょっと聞きたいんだけど・・・・。」


オフロードバイクのライダーは白いジェットヘルメットにかけたゴーグルを取り、バイクのスタンドを立て、バイクを降りて、人懐っこい笑顔で僕に話しかけてきた。


「君、ここにいつごろからいたの?」


林野庁の関係者かな?ここでのキャンプは禁止とか言うのか・・・。と僕が警戒していると、その表情を読み取ったのか


「いや、違う違う!犬を見なかったか聞きたいんだ。」


彼はジェットヘルを取ると、白髪交じりの髪の毛をかきながら、そう言った。


「犬?」


「そう、犬。僕は猟師でね。最近手に入れた猟犬の訓練をしてたんだが、朝、どっかに行っちゃってね。あっちこっち探してて、ここに行き当たったんだ。」


そういえば、さっき、犬の鳴き声が聞こえたような、野犬だと怖いな。と思っていたから、この猟師の言葉に、ちょっとほっとする


「そういえば、さっき、犬の声が聞こえましたよ。もしかしたら、それかな?」


「そうかも知れない。趣味を楽しんでるとこ、悪いけど、少しここで待たせてもらっていいかな?」


彼はたすき掛けにした黒いレザーのケースをバイクにかけながら言った


「構わないですよ。どうぞ、」


僕はそう言って、折りたたみ椅子をもう一つ、ADバンから取り出し、彼に勧める。


「いやあ、助かった。じゃあ、お言葉に甘えて。」


そう言うと彼は、レザーケースから猟銃を取り出し、銃身を2つに折ると赤い弾丸を押し込む


「失礼」


ガアン!ガアン!


そういうと、谷側に向けて、いきなり、2発発砲した。

驚いた僕が耳をふさいで椅子に倒れ込むと、


「いきなり申し訳ない。空砲なんだが・・・。」


流れるような動作で、銃身を再び2つに割り、薬莢を排出すると、銃をバイクのシートに載せて、驚く僕に話しかける


「ちょっと荒療治なんだが、犬は銃の音を聞いて、ここに来ると思う。このまま迷って、野犬にでもなると、かわいそうだからね・・・。」


いきなりの発砲に驚いたが、当時の僕は、驚きよりも「猟銃」の発砲を始めて見た興味のほうが勝った


「いえ、大丈夫です。それより、その銃。見せてもらってもいいですか?」


立ち上がって、バイクに載っている銃を興味しんしんで見廻す僕に、彼はちょっと考えたあと、


「いいよ。」と言って、銃を渡してくれた


受け取った銃はずっしりと重く、火薬の匂いがした


僕はさっき彼がやっていたように、ほおを銃身にあて、森に銃を向ける。

照星と言われる照準器越しに適当な樹木に照準を合わせると、引き金に指をかけた


「おっと、ちょっと待った。打つ瞬間まで、引き金に指をかけてはいけないよ。」


そう言うと、彼は一旦僕から銃を受け取り、さっきやったように銃身を2つに割って、弾丸が入っていないことを確認したうえで、銃身の脇のレバーを操作した。


「これでいいよ。」


そう言って、僕にまた銃を渡す。


僕はさっきやったように銃を構えてみる。

言われたとおり、今度は引き金には指をかけない。


「それでいいよ。もう少し、脇を締めたほうがいいな。」


そう言うと、僕の右肘を拳でちょっと押した。


「そう、その姿勢でいい。標的はあの赤いリボンだ・・・。銃身の先端の突起・・・照星と、あの赤いリボンが一直線になるように狙え・・・。」


樹木の伐採か何かの目印だろうか。この周辺の樹木に時々取り付けられているピンクのリボンに向け、僕は銃を構える。


「まず、目標よりちょっと上に銃身をあわせるんだ。そう、それでいい。少しづつ銃身をおろして・・・・。」


彼は僕の指を引き金にかける


僕は黙って従い、銃身とリボンの軸線があったところで、


「・・・・今だ。」


彼のつぶやきとともに僕はゆっくりと引き金を引く。


「カチン」と音がして、撃鉄が落ちた。


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