第24話 オスカルとアンドレ! って「ベルばら」かっ!

 その様子を見ていたもうひとりの黒ローブがあきれた声でたしなめた。

「エロエロえっさいむ! エロエロえっさいむ! おい! オスカル! そんな汚いものを触るな! 今はエウア様へ生気を送っている儀式の最中だ!」

 その言葉にオスカルと呼ばれた黒ローブが勢いよく顔を上げると、ローブがはらりと落ちていった。

 そこに残るは金色に輝く長い髪。

 その見た目はベルばらに出てきてもおかしくなさそうな美しさだった。

「え~wwwアンドレwwwだって、これだってセイキじゃないですかぁ~www」

 一方、アンドレと呼ばれた黒ローブは、その言葉に怒ったのか語気を強めた。

「お前は馬鹿か! そんな汚いセイキとエウア様の生気を一緒にするな!」

 ローブから見えるその顔は黒髪の凛々しい顔。

 こらまたベルばらに出てきそうな雰囲気……とは、少々違った。

 というのも……ベルばらにしては、その肩幅が大きいのだ。

 いや、肩幅だけではない、身長もゆうに2mを超えていそうなのである。

 いうなればこの体形はプロレスラー!

 アンドレ・ザ・ジャイアント!

 あ!ちなみに、この黒フードをかぶったアンドレはプロレスラーではなくて、仮面ダレダーに出てくる怪人役の俳優なのだ!


 そんなアンドレの太い腕がオスカルの細い手を握ろうと近づいた時の事であった。

 タカトのコカンがピクリと反応した。

 という事は! タカトはやっぱり生きていた!

 生きていたよ! タカトきゅ~ん!

 そして、地に落ちていたタカトの手がゆっくりと上がっていくと、目の前に伸びてきたアンドレの手首をぎゅっと握りしめたのだった。

 もしかして、タカトきゅん!このごっつい怪人の魔の手から美少女の貞操を防ごうというつもりなのであろうか?

 かっこいい!

 タカトきゅん!超カッコイイ!

 死にかけている状態にも関わらず美女を助けようとするなんて、もう!イケメン要素を発揮しちゃてますぅ?

 だが、タカトの背が押し付けられている祭壇の上にはビン子が横たわっていた。

 そんなビン子の前で、他の女の子に気をまわそうものなら、なぜかビン子の機嫌が悪くなってしまうのだ。

 ――うぐっぐうぐぐぐ! タカト! こんな時に! 何してんのよ! ひっ! ひっ! フーーーーーー!

 だが、ビン子の四肢は祭壇にしばりつけられて動けない。

 しかも、胸にのせられた石によって生気を吸い取られ続けているために、体中に激痛が走って仕方ないのだ。

 ――うぐっぐうぐぐぐ! イタタタタ ひっ! ひっ! フーーーーーー!

 ビン子の表情は苦悶にゆがむ。

 だが、それにもかかわらず、顔だけはしっかりと横に向け、祭壇の影からわずかに見えるタカトの手に向かって唾を飛ばしだしたのだ!

 ぺっ! ぺっ! ぺっ!

 ――うぐっぐうぐぐぐ! くたばれ! タカト! ひっ! ひっ! フーーーーーー! 


 ビン子が飛ばした唾の一つがタカトの腕にポトリと落ちた。

 雫が表皮をつたって垂れ落ちていくに従い、アンドレアの手首を握っていたタカトの手にギュッと力がこもっていったのだ。

 そして、うつろな目をした表情でアンドレアをにらみ上げ声を絞り出す!

「お……」

 お? ということは、コレに続く言葉は「お前!」なのか!

 よっしゃぁぁぁ! タカト君! ここは一発!男らしく決めたれや!

 ――って、何がよっしゃーよ! この浮気者! うぐっぐうぐぐぐ! 

 まぁ、そんなビン子をほおっておいて、タカト君の男らしいセリフをお楽しみください!

 それではどうぞ!

「お……おっぱい揉ませてください……」

 ……

 ……

 ――って、なんでやねん!

 これにはさすがのビン子も痛みを忘れて突っ込んだwww

 しかも、オスカルもアンドレたちも目を点にして固まってしまっているwww


 これは……まぁ仕方ない……のだ……

 だって、目の前に膝まづくオスカルはベルばらに出てくるほどの美しさ。

 作者だって、「おっぱい揉ませてください」って言いたいぐらいだwww

 でも、それを言ったらおしまい。

 そう! それこそ変態さんだ。

 だから、作者などの健常者は、こみ上げてくるその言葉をグッと飲み込んで日々日常を送っているのだ。

 だが、意識がもうろうとするタカトにはそんな常識を考える余裕などなかった。

 タカトのもう一つの手がオッパイを揉もうと伸びていく。

 伸びていく……の……だが……

 だが……

 なぜか……その手は目の前のオスカルにではなく、横に立つアンドレアの胸元へと……伸びていったのだ。

 って、それはプロレスラーの胸筋!

 いくら胸がデカいといっても筋肉だ!

 そんな硬い胸を揉んでうれしいと思うだろうか?

 いや思わない! 思うわけがない!

 だが、百歩譲って、仮にタカトがプロレスファンであれば可能性がないこともない。

 考えてみろ! 誰だってアントニオ猪木の胸を自由に揉みしだいていいと言われたら、きっと興奮するだろ? 少なくとも作者は興奮する!

 実際にプロレスラーの胸を自由に揉めるチャンスなどはめったにないのだ。

 だがしかし……タカトはプロレスファンではなかった。

 まぁ、女子プロレスであれば見ないことはないが、男と男が肌をぶつけ合っている姿など見ているだけでもむさくるしいと思う奴なのである。

 ――そんなタカトなのに、なぜ……うぐっぐうぐぐぐ! やっぱりこれ痛いって! 早く助けてよタカト!


 タカトがプロレスファンでないことに気づいたのだろうか、胸を触られようとするアンドレアの反応は凄まじいものであった。

「きゃぁぁぁぁぁあぁ! 変態っぃぃぃぃぃぃい!」

 と、アンドレ・ザ・ジャイアントばりの全体重をかけたエルボードロップ!

 足を延ばして座っているタカトのコカンは、その肘をよける暇はなかった!

 そして、凄まじい一撃が落ちたのである。

 ぽこっ!

 チーン! ガク⤵

 それを見ていたオスカルがすかさずタカトの横に飛び込んで、勢いよく床を叩いた。

「ワン! ツー! スリー!」

 カン!カン!カン!

 持っていた棒で祭壇を叩く。

 そして、おもむろにアンドレの腕をつかみ取ったかと思うと、高らかに天へと突き上げたのだ。

「勝者! 怪人山脈ア~ン~ド~レぇ~」


 そして、手に持つ棒をマイクに見立ててアンドレにヒーローインタビューを行いだしたのである。

「え~それでは、本日、勝利を収めましたアンドレさんにお話を聞いてみたいと思います。アンドレさんよろしくお願いします」

「よろしくです」

「アンドレさん、あの時、なぜ、この男に胸を揉ませなかったのでしょう? というか揉ませてやったらwww」

 それを聞くアンドレは急に照れだし両手で胸を隠しながら身をよじりだしたのだ。

「え~www だってぇ~ 怖いじゃないですかぁwww 見ず知らずの男に人にいきなり胸を触られるなんてwww」

「だいたい、もまれたぐらいで、お前の胸が小さくなるのかよwww減るもんじゃないしさ、死ぬ前に揉ませてやれよwwww」

 という、オスカルの言葉に、アンドレは言葉を荒立てた。

「何言ってんだよ! だいたい!お前は男だから胸を揉まれる恐怖が分かんないだ!」

 うん?

 え……?

 うーんと……確か……ベルばらではオスカルが女でアンドレは男だったはずだよね。

 でも、もしかして……目の前のオスカルは男で、アンドレが女だったってことなのかな?

 ザッツライト!

 そうなのだ!

 女子高生のようにほっそりとしたオスカルが男で、アンドレ・ザ・ジャイアントのような筋肉もりもりのプロレスラーが女だったのだ!

 だからこそ!

 だからこそ、タカトは目の前にオスカルがいても全く反応を示さなかった。

 そして、逆に女のアンドレが近づいてくると無意識に動いたのである!

 恐るべし! タカトの本能!

 というか、タカトのストライクゾーン広すぎ!


 だがいかにタカトの女性に対するストライクゾーンが大きかろうと、コカンの大きさは小さいのだ。

 そんな小さなタコさんウィンナーにアンドレの肘が直撃!


 当然、タコさんウィンナーがタコさんハンバーグと化したタカトは動かない。

 いや動けない。

 この痛み、男なら分かるはず……

 しかも、1300ccの大型バイクが猛スピードで衝突したのだ……

 タコさんウィンナーの心臓が止まっても仕方ない。

 というか、死ぬ……

 これで、動けという方が無理筋の話なのだ。

 しかし、世の中そんなに甘くない。

 動けないものに鞭うつのがこの世知辛い世の中。

 ということで、当然。

「立て! 天塚タカト! それでも男か!」

 と、大きな声がタカトの耳を貫いた。


 うっすらと開くタカトの視界。

 そのぼやけた世界に、偉そうに見下す女が一人立っていた。

 ――この女……

 タカトには、その女に見覚えがあった。

 軍服に包まれた巨乳。

 蔑むような冷たい視線。

 そして、手にもつ短鞭がSの雰囲気を強くする。

 そう、この女、屋上で出会った秘密警察のお菊であった。

 そのお菊の背後から覗き込むようにコウエンが顔を出した。

「やっぱり……嫌な予感が当たった……」


 コウエンの必死な懇願によってお菊たちは地下へと降りてきた。

 鼻をつく異臭。

 ――ホルマリンか?

 お菊と付き従う二人の部下はとっさに防毒マスクを顔につける。

 そして、異臭の発生源であろうと思われる奥の部屋へと足を進めたのだ。


 部屋の中を覗き込む面々。

 その中にいたのは当然、荒れ狂うサンド・イィィッ!チコウ爵。

 だが、それを見た彼女らは当然ビビった。

 だって、しょうがない。

 軍服を着てようが、中身はかわいい女の子。

 そんな彼女たちが首なしの動く体を見たのだ。

「なんでこんなところにゾンビが!」

「魔物なの?」

 付き従う二人の部下はさすがに足がすくんだ。

 だが、お菊は意に介さずズカズカと部屋に足を踏み込んでいく。

 そして、サンド・イィィッ!チコウ爵の体に近づくと、

 バチィィィン!

 短鞭をしならせた。

 部屋の壁へと吹き飛んだサンド・イィィッ!チコウ爵の体がひっくり返っていた。

 そして、部下たちの方に向きを変える。

「お前たち! この豚が動かないように拘束しておけ!」

「え! このゾンビをですか?」

「魔物かもしれないんですよ!」

 そして、お菊はきつい言葉をつづける。

「こいつは、この病院の副院長だ!」

「えっ⁉ 副院長?」

「だって、ぞんびですよ!」

 納得できない様子の部下二人。

 そんな二人に見えるように、お菊は短鞭でサンド・イィィッ!チコウ爵の白衣を持ち上げた。

 胸には副院長とかかれたバッジが……

「どうして、こんなゾンビが、この病院の副委員長?」

「でも、ということは……魔物や魔人の類ではないのかも?」

 徐々に納得し始める部下たちからお菊は目を放す。

「大方、ケテレツにでも師事した狂人の仕業だろう」

 そして、まるで何かを探すかのように部屋の周囲を見渡しはじめた。

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