第22話 ヤマダのオロチョン!

「いやあゃぁぁあぁぁぁぁぁあぁ!」

 そう、というのも玉座からの声に少々遅れてビン子の悲鳴が上がったのだ。

 それは先ほどまでの棒読みのセリフなどではなく、マジモンの悲鳴。

 ミーニャに付き従っていたはずの二人の黒フードたちが、祭壇に戻り中断していた作業を始めていたのだ。


「ビン子ぉぉお!」

 その悲鳴を聞くタカトはミーニャから目をそらしビン子へと目を向けた。

 横たわる貧乳の胸の上には握りこぶし二つ分ぐらいの輝く石。

 その石からは先ほどまで、そうめん束ほどの光が上へと伸びていたにもかかわらず、今やその幅は風呂おけほどにまで広がっていた!

 しかも、なんと!まだ広がり続けているではないか!

 おそらく、あれはビン子から吸いだされた生気の光。

 天井の装置によって集められた光が伸びる管を通って玉座に送られていた。

「甘露ww甘露wwwこのノラガミの生気は実に甘露であるぞよwwww」

 いまだ成長し続ける光の柱に伴い、ビン子の体は苦痛によってのけぞり始めていた。

「助けて! タカトォォォ!」


 あまりの痛みに耐えかねるビン子。

 だが、ビン子もまたタカトに頼ってばかりではない。

 タカトが助けてくれるまで耐えきる! その覚悟ぐらいはあるのだ。

 だが、胸に乗った石によって吸いだされる生気の量が半端ない。

 ちょっとでも気を抜けば、あっという間に気を失ってしまいそうになるのである。

 ならば! こんな時こそ! 呼吸法!

 タカトが深呼吸でしのぐのであれば、ビン子またそれでしのぐのだ!

 ひっ! ひっ! フーーーーーー!

 ひっ! ひっ! フーーーーーー!

 ひっ! ひっ! フーーーーーー!

 って、それはラマーズ法www

 言わずもがな出産時に推奨される呼吸法だ。

 だが、不思議なことに呼吸をするたびに痛みが和らぐような気がする。

 まぁ、おそらく、どちらも体から放出される痛みを緩和するということで似ているのだろうwww

 だが、一方、タカトはガクンと膝をついていた。

 まだ、何もしていないにもかかわらずである。

 ――なんだ……やけに体が重い……

 目の前がかすむ……

 ――もしかして、これは睡魔?

 だが、ここで寝るわけにはいかない!

 タカトはつぶれそうになる眼をゴシゴシとこすり再び立ち上がる。

 ならば!

 ――匠の呼吸!一の型 深呼吸!

 大きくすってぇ~~~ はい! 吐いてぇ~~~

 そう、眠たくなったときには新鮮な空気を吸い込むのが一番手っ取り早いのだ!

 そのせいか、タカトの睡魔は若干、和らいだ。

 さすがは匠の呼吸 深呼吸!


 そうはいっても、タカトの動きは緩慢のまま……

 そんな彼の頭に無数の鞭先が落ちてきた。

 ロープの先には尖った票のようなものがついている。

 一見すると、それはまるでメデューサの頭の蛇のように見える。

「あの時の恨み! 今!晴らす! 死ねや!天塚タカトォォォ!」

 それはミーニャによって打ち下ろされた縄鞭!

 だが、タカトはミーニャをじっと見たまま動かない……

 いや、動けないのだ……

 ――こ……これはもう……

 迫りくる鞭先……

 これがHITすれば、かなりのダメージになることは間違いない!

 だが、タカトの目はいやらしく緩んでいた……

 しかも、口からは……よだれまで垂らしながら……

 ――ご褒美じゃないかwwww

 だって、目の前にいるのはあのエロエロコスチュームを身に着けたミーニャである。

 そんな彼女が無数に分かれた縄鞭を打ち付けるのだ……

 ならば……これはもう……

「天塚タカト!私は誰だ!言ってみろ!」

 ビシ!

「いた~い♡ 悪のロリコン首領ミーニャさまでございますぅ~♡」

「そうだ! 私は悪の首領!ミーニャさまだァぁぁ!」

 ビシ! ビシ!

「ミ~ニャさまぁ~♡」

 ……そう……まるでSMの世界♡

 って、タカト君……何やっとんねん!

 ――だってwwwコレwwwマジで痛くないもんwww

 そう、タカトに打ち付けられた縄鞭は、ただのビニールヒモ。

 しかも!

 先端についた票のような三角の武器は……

 なんと! な~んと!

 ただの洗濯ばさみwwww

 ――こんなものを打ち付けられたところで痛いもくそもあるもんかwwww

 だが、そんなタカトの様子に気づいたのかミーニャはニヤリと笑う。

「ふふふ! 今こそ見せてやろう! 悪の首領の必殺技!ライオンヘッドを!」

「何! ライオンヘッドだと! もしかして!それは!」

「そう! 貴様が思い描いているそれだ!」

 ライオンヘッド! それは仮面ダレダーシーズン4に出てくる悪の首領が使う必殺技!

 その威力はまるで獅子王のごとく、ありとあらゆる人間たちを吹き飛ばしてきた!

 ――そんな攻撃を俺は受けきれるのか?

 だが、あの技は仮面ダレダーによって破られたはず!

 ――ならば、俺にも防げるかもしれない……だが……しかし……

 タカトは一瞬何か違和感を感じ躊躇した。

 だが、すでに……時、遅し……

 もう、ミーニャはライオンヘッドの構えを取っていたのである!

 その手からは一本のひもがタカトに向かって伸びていき、近づくにつれ無数に分岐していたのだ。

 ――あれ?

 そして、その先端はタカトの顔につけられた無数の洗濯ばさみにつながっていたのである。

 ――いつの間に⁉

 と、タカトが思った瞬間!

 ミーニャが必殺仕事人に出てくる三味線屋の勇次のごとく指に掴んだ糸を引っ張った!

 キュルキュルキュル!

 ヒモと共に一気に引き抜かれる洗濯ばさみ!

 挟み込まれたタカトの皮膚が伸びていく!

 だが!それは一つだけではない!まるでライオンのたてがみように顔一面に広がていたのだ。

 そして!ついに!

 バチーン!

「うがぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!」

 悲鳴と共にタカトの体が吹き飛んだ!

 ライオンヘッド!炸裂!

 タカトは思う……

 仮面ダレダーはあの技を破ったというのに……なぜ……俺は……破れなかったのだ……

 それは仕方ない……だって、彼は仮面ダレダーとは違っていたのだから。

 そう、タカトは、ただの人……

 というより、仮面ダレダーのようにフルフェイスのヘルメット被っていなかった。

 だから、無防備な顔面は洗濯ばさみで挟み放題になっていたのである!

 ――しまったぁぁぁぁぁ! そうだったのだかぁぁぁぁあ!

 しかし、後悔先に立たず……今や顔を真っ赤にはらしたタカトは地面に尻もちをついていた。


 再びミーニャの手が大きく振りぬかれた。

「今度こそ! 死ね! 天塚タカト!」

「待て! いったい俺が何をしたというのだ!」

 だが、ミーニャからの答えよりも早く無数の洗濯ばさみが飛んでくる。

 その様子を見たタカト。

 ぴきーん!

 ――刻が見える!

 別の世界線には時間を超えた世界を見ることができるニュータイプと呼ばれし人がいたという……

 そして、そのニュータイプのワムロ・レイがのったという伝説の機体νガンダム!

 そのガンダムから繰り出されるファンネル!

 もう……目の前に迫りくる洗濯ばさみは、それと瓜二つではないか!

 いや、有線という事を考えれば、それはインコム。

 であれば、目の前のミーニャは量産型νガンダムということになるのか……

 ぴきーん!

 ――ならば!俺は! 戦える!

 目の前の女がアイドルのミーニャたんであれば、アイドルおたくのタカトではさすがにシバけない!いや、シバくことなど絶対に不可能なのだ!

 だが、ミーニャがミーニャであってミーニャではないという事であれば、ミーニャをシバいてもタカトの心は痛まない!

 ――という事で!俺の勝だ!

 反撃と言わんばかりに勢いよく立ち上がったタカト!

 だが!

 その顔には無数の洗濯ばさみが!

 ――いつの間に!

 タカトはとっさに洗濯ばさみを外そうと手を伸ばす。

 だが、それよりも早く! キュルキュルキュル!

「ライオォォォォンヘッド!」

 バチーン!

 ミーニャの声と共に再びタカトの体が背後へと吹っ飛んだ。


 タカトは顔をこすり膝をつく。

 ――あれを何とかしないと……

 先ほどからビン子のうめき声が小さくなっていた。

 だからこそ、早く祭壇の元へ駆け付けたいのだがミーニャのライオンヘッドがいつの間にか顔に引っ付いているのだ。

 そんな洗濯ばさみが、三度、タカトに向かって襲い来る!

 ――今度……また……あれを食らったら……

 さすがにタカトは怖気づいた。

 ライオンヘッドを3回も食らうとなれば、その蓄積されるダメージ量は計り知れないのだ……

 ――俺のイケメンが……不細工なザクレロになってしまうじゃないか!

 うん?

 もしかして、タカト君……自分の事をイケメンだと思ってる?

 今まで、女の子にもてたことなどないというのに、自分の事をイケメン?

 笑ってしまうわ!

「ハハハハハハ!」

 と! その時! タカトの背後から笑い声が凄い勢いで近づいてきた。

「ハハハハハハ! 面白いじゃないか! このクソ女!」

 そして、無数の金属音が洗濯ばさみを弾き飛ばしたのである!

 

 タカトの前に仁王立つ一人のナース!

 そう! それは褐色のナースルリ子!

 ガンっ!

 仁王立つルリ子は手に持つ金属バットを地面にたたきつけた。

 そして、目の前のミーニャをにらみつけたまま、背後でしりもちをつくタカトに声をかけるのだ。

「おい! タカト! このクソ女は私に任せな!」

「ルリ子さん! 俺だって!」

「クソ野郎のタカトには荷が重い!」

「なんでだよ!」

「わかんないのか!あの女の武器はただの洗濯ばさみなんかじゃない!」

「なに!」

「あれはまさしく! 伝説の武器『ヤマタノオロチ』!」

「なんだと!」

 伝説の武器といえばあのエメラルダが持つ黄金弓と同じぐらいレアではないか!

 という事は性能も抜群ってことに!

 とてもじゃないが、貧弱タカトには勝てる気がしなかった。

 だが、目の前に立つルリ子だって持っている武器といえば、ただの金属バット。

 こんなもので伝説の武器に立ち向かえるというのだろうか……

 ――いや……ガラの悪いルリ子さんといえども、それは無理だ……

 ならば、自分と二人なら何とかなるかもしれない……

「なら! 俺も!」

 と言いかけたとき、ルリ子は言葉をつづけた。

「の……量産型『ヤマダのオロチョン』!」

「……へ?」

 意味が分からないタカト。

 だが、ものは考えよう!

 そう! 量産型はミーニャたんではなくて、あの武器の方だったのだ!

 という事は、ミーニャたん本体は、まぎれもなくνガンダム!本物ということになるではないか!

 そんなミーニャたんがエロコスチュームをまとい目の前に!

 もう、こんな幸せ! 怖いくらい♡

 だが、そうなると……アイドルおたくのタカトにミーニャをどつけというのは酷な事。

 だが!

 だが!しかし!

「『ヤマダのオロチョン』ってなんやねん!」

 その言葉に、ルリ子は少しためらいながら小さき声で答えた

「……そこのコンビニで1個800円(税別)で売っている代物だ……」

 (ちなみに言わずもがな、コレも株式会社ツョッカーの売れ筋商品である!)

 ――そこのコンビニ?

 おそらく女店主ケイシーが切り盛りしている店の事だろう。

 あの店の中にビニールひもに結びつけられた洗濯ばさみなど売っていただろうか?

 必死に自分の記憶を探るタカト。

 確かに生活必需品コーナーには洗濯ばさみはあった。

 だが、9つの洗濯ばさみに長いビニールひもをつけたうえで、一つにまとめた物などありはしない。

 という事は……置かれている場所は生活必需品コーナーではないという事。

 ――どこだ!

 ⁉

 タカトは、ふと思い出した。

「18歳未満は立ち入り禁止」と書かれたカーテンで目隠しされた一角の奥……

 ――確かに、その奥の棚で見たことがある……

 というか、なんで16歳のタカト君がそんなことを知っているんですかねwww

 ――あほか! 男子の探求心を舐めんなよ!

 見るな見るなと言われれば見たいもの!

 押すな押すなと言われれば押したいものなのだ!

 ということで、ダチョウ倶楽部の上島さんようにニコニコと平静を装っていれば意外とお店の人は何も言わないものなのである。

 で、確か……棚に描かれていたポップには……

『これで引っ張り合えば!お互いの体は火祭り(おろちょん)パーティー! 今夜はフィーバーナイト! フォッォオオ!(山田君の超おすすめデス!)』

 って、山田君って誰やねん! 笑点の山田君か!

 おしい!

 笑点の山田君だと、いろいろとまずいだろwww

 だから、この山田君はAV男優の山田君なのだ!

 もうwwwこれで分かっていただけたことだろう。

 そう!この『ヤマダのオロチョン』の使い方が!

 暗い部屋。

 中央に置かれた丸いベッド……

 その上に大の字で裸体の山田君は縛り付けられていた。

 そして、彼の体には無数の洗濯ばさみ!

 そのひもの端はベッドを見下ろすように立つ女王様の両手へと伸びている……

「山田ァぁぁ! 今日も! 豚のようにブヒブヒ泣いてみせなwwww」

 そして、ひと思いに引き抜かれるビニールひも。

 繋がれた洗濯ばさみが山田君の皮膚を引っ張っては次々とはじけていく。

 ばち! ばち! ばち! ばち! ばち!

「ブひぃぃぃいぃぃいいぃ! 女王様ぁぁぁぁぁぁ!」

 って、ちょっと待てええぇぇぇぇぇ!

 百歩譲って『ヤマダのオロチョン』がSMグッズだとしてだな!

 なんで、そんなことをルリ子さんが知ってんだよ!

 しかも、しっかりと値段まで!

 ――もしかして……ルリ子さん……夜な夜な自分の体を洗濯ばさみで挟んで……

「あああ! 痛い! 痛い!」

 タカトの妄想の中で乱れるルリ子の裸体……

「でも、イキそう!」

 感極まりそうになった瞬間、自ら持つヒモを引っ張ると、連なる洗濯ばさみがはじけるのだ。

 バチン! バチン!バチン!バチン!

「イクウゥゥゥウゥ!」

 ――そうか……そうか……もしかしたらルリ子さんって……Mなのかも……ならば、今度、バシッとwwww

 などと、よからぬことを考えるタカトのズボンには立派ながテントが勃っていた。

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