第21話 トイレに行かないアイドル!ミーニャたん!
――確か、あの数字は……
お登勢の誕生日など知らない&興味ないタカトにとって、それはただの四桁の数字。
しかも、何気にチラッと見ただけだった。
普通の人間だったら、思いだせと言われてもなかなか思いだせない。
少なくとも作者だったら絶対無理だ。
だが、この時のタカトは違っていた。
全集中の深呼吸。
あの死体安置室の状況を、まるで映像を巻き戻しするかのように脳内に映し出していく。
そして、はっきりと思いだすのだ。
「0831!」
タカトの指がドアキーのボタンを押していく。
そして、ついに
ガちゃん!
目の前のドアから鍵の外れる音がした。
タカトは急いでドアを引き開ける。
重い!
だが、今のタカトは炭治郎も驚くほどの頑張り屋さん!
全力で扉を開けるのだ
「ひらけぇぇぇぇえぇぇ!」
そこにルリ子も加わった。
「このクソがぁぁぁぁぁ!」
二人の力で徐々にドアが開いていく。
あっ! ちなみにドアキーにはちゃんとドアの開閉ボタンがついていたのだが……頑張って、力任せでドアをこじ開けた二人には言わないでおいた方がいいと思うw
そして、ついにドアが開ききった先に大きな空間が現れたのだ。
煌々とした松明の明かりに照らし出されたその部屋大きさは学校の教室3つ分ほど。
その奥、数段高くなった玉座らしき場所から声がした。
「このエウアに力を! もっと力をよこしたもれ!」
中心に置かれた偉そうな椅子。その椅子には、これまた偉そうな女が着物の裾からなまめかしい素足をのぞかせながら金色の瞳で見下していた。
その視線の先、すなわち部屋の中止には祭壇らしきものが横たわり、黒いフードをかぶった怪しそうな数人の人影がその周りを取り囲んでいた。
「エロエロ~エッサイム! エロエロ~エッサイム! エウア教徒はイブ様の忠実なるしもべ!」
「エロエロ~エッサイム! エロエロ~エッサイム! イブ様の完全なる復活のために生贄を!」
「エロエロ~エッサイム! エロエロ~エッサイム! このノラガミの生気をお受け取りくださいませ!」
その言葉の終わりとともに、祭壇の上からまばゆい光の柱が立ち上った。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
激しい悲鳴!
それは紛れもなくビン子のモノ!
遠く離れた入り口に立つタカトの位置からでは良く分からないが、あの祭壇に仰向けに縛り付けられているのは……おそらくビン子に違いない!
「ビン子ォォォォォォォォォォォォォォォ!」
その時にはすでにタカトは反射的に走り出していた。
だが、玉座に腰掛ける女の声が制止する。
「何ものぞ! あのものを取り押さえよ!」
それに呼応するかのように祭壇の周りに立つ黒いフードたちがタカトへと向きを変えた。
祭壇に向かって真っすぐに走るタカト。
マジでコイツこんなに早く走れるのかよ!と驚くぐらいのスピード。
しかし、そんな彼の前に三つのフードが立ちふさがる。
「そこをどけ!」
タカトは声を張り上げた。
けんかで勝ったためしなどないのにもかかわらず。
だが、今のタカトにはそんなことを考える余裕などなかった。
目の前でビン子がうめき声をあげながら耐えているのだ!
「うぐぅぅぅうぅ……タ……カ……ト……助……け……て……」
――ならば! 何人であろうとも立ちふさがる者はぶちのめす!
タカトはこぶしを振り上げて、体のスピードを伴い打ち下ろす。
バシっ!
だが、その拳は目の前にいる黒いフードからのびた手によって受け止められた。
しかも、この腕……女のようにか細い、いや……小学生の子供といったところか……
「放せ! 放しやがれ!」
腕をつかまれたタカトは必死に抵抗するが、握られた腕は一向に自由にならない。
そんな時、黒いフードの中から女の声がした。
「もしかして! 貴様! 天塚タカトか!」
ギク!
タカトは驚いた。
というのも、なんでコイツは俺の名前を知っているんだ?
もしかして、知り合い?
だが、顔はフードに隠れてよく見えない。
下からそれとなく覗いこもうとしたとき、黒いフードがめくられ女の顔が出てきたのだ。
「天塚タカト! この私を忘れたとは言わせないぞ!」
「あああああああああ♡ アナタ様は♡」
その女の顔を見た途端、タカトの目はハートになった。
苦しむビン子の事などそっちのけでピンク色に染まったのだ……
そんなものだから、祭壇で横たわるビン子ですら、うめき声を出すことを忘れ、白い目でしらけていた。
――タカトの奴!……後で絶対!殺す!
って、ビン子ちゃん……苦しいのではなかったのですか?
――いやwwwwなんか、さっきから生気は吸い取られているような気はするんだけどwwwこれぐらいだったら、まだまだ大丈夫! 日ごろ、ちゃんとご飯を食べてるからwww
……ということは、さっきからのうめき声は……
――えっ? あんなの演技よ!演技! せっかくタカトが助けてくれそうなんだからお姫様役に徹しないと損じゃない!
だが、そんなビン子の決意など梅雨知らずタカトは自分の判断を肯定するのだw
――だって仕方ないじゃないかwww
そう目の前の女、いやビン子はこちらをじーーっとコチラを見ながら、助けてくれるのを心待ちにしているように見えた。
しかも! その叫び声は大根役者顔負けの棒読みセリフ……
もうね……なんか……なえてしまう……
それに対して!
目の前の女は!なんと!
大根役者どころか! ロリロリ美少女アイドルだったのだ!
そう!それは!先ほどまでタカトが読みふけっていエロ本の表紙を飾っていたミーニャたん!
いわずもがな!トイレに行かない美少女アイドルである。
しかも!しかぁ~も!仮面ダレダーシーズン4において、主人公よりも絶大な人気をはくしたという悪の組織ツョッカーのロリコン首領様なのだ!
悪の組織ツョッカー?
そしてここはツョッカー病院?
何か関係があるというのか?
などと言う、疑問が生じるため、念のために解説しておこう!
ツョッカー病院と悪の組織ツョッカーは全く関係ない!
いや、関係ないことはないのだが……やっぱりまったく関係ない!
というのも、悪の組織ツョッカーは子供向け特撮ドラマ仮面ダレダーに出てくる架空の組織なのだ。
だが、ツョッカー病院と同じツョッカーを冠しているのはどういったことなのか?
それはね……ツョッカー病院を経営している株式会社ツョッカーが仮面ダレダーを作っているのだ。
いわゆるスポンサーっていうやつねwww
本来であれば、正義の味方側でツョッカーの名前を使いたかったのだが……仮面ダレダーは悪に改造されし正義の味方……孤高の戦士を助ける仲間はごくわずか。
そんな少人数ではツョッカーの製品を番組内で宣伝するには心もとない……
そう、これでも株式会社ツョッカーは融合国内では一二を争う大企業!
取り扱う商品も多いのだ!
毎回毎回、バイク屋のオヤッサンに「今回のご紹介する商品は~」などと取ってつけたように宣伝するよりも、毎回、番組ごとに代わる怪人に宣伝させた方が効果が高い!
ということで、取締役会の満場一致により株式会社ツョッカーは悪の組織ツョッカーに肩入れしたのであるwwww
そんなミーニャの身に着けるコスチュームは当然!ツョッカー製!
SM女王様向けに開発されたコスチュームは、大事な部分をちょびっと隠すだけ!
そのラインのきわどいことといったらありゃしない!
そんなエロエロコスチュームで小悪魔的なポーズを取りながらミーニャが上目づかいでお願いをしてくるのである!
「エロおやじのお兄ちゃん……ミーニャと一緒に悪いことしてくれたら……ミーニャが……エロおやじどころか、この!超キモキモ変態エロおやじ!って後ろ指さされるぐらい世間的に超悪いことを……もっと♡もっと♡教えてあげるよ♡……きゃっ♡言っちゃったぁ♡」
このセリフでどれだけの大人たちが道を踏み外したことだろう……いまだに神民街の治安悪化の一因として、多くのおばさま方の語り草になっているぐらいなのだ。
そんなミーニャたんが目の前にいる。
しかも! 黒フードの中にはあの伝説のエロエロコスチューム!
もう、タカトでなくとも、まさによだれものであることは分かっていただけたことだろう。
「だから♡僕も♡悪いことしちゃいま~す♡」
タカトはミーニャたんに飛びつこうとするのだ。
だが、そんなタカトのあごをミーニャの手が押しのけるのだ。
「貴様! 天塚タカト! どの面を下げて私に近づこうというのだ!」
「どの面♡……こんな面ですけどwww♡」
「腹立つわ! 貴様のせいで私はどんだけ苦渋……臭渋を舐めさせられたとおもっているのだ!」
何やらこの言い分。タカトと浅からぬ因縁があるご様子。
だが、タカトには一向に思い当たる節がない。
「はて♡ いったい何のことでしょうwwww♡」
「はぁ? 忘れたというのか! いや、忘れたとは言わせんぞ!」
「いやいや、一度ミーニャたんとお会いすれば決して忘れるわけはございません♡ そう♡この瞬間は♡もう永遠♡」
と、タカトはミーニャの手に頬ずりを始めた。
ひぃぃぃ!
のけぞるミーニャはタカトを払いのける!
「ええい!放せ! 汚らしい! 貴様のような男に触られるだけで、エウア様に捧げしこの身がけがれてしまうではないか!」
それをキョトンとした様子で聞くタカトは、ポンと手をうち納得したようで、
「そうなんだ♡ミーニャたんはエウア教徒なんですね♡さすがは悪の首領ミーニャ様それ♡♡ミーニャ♡ミーニャ♡ミーニャさま♡」
それに気をよくしたのかミーニャの口がなめらかになった。
「そうだ! 私はエウア様の忠実なしもべ! そして!悪の首領ミーニャさまだぁぁぁ! エウア様の完全なる復活のために!ありとあらゆる生気を集めているのだぁぁぁ!」
「なんと♡生気ですと♡ ならば私めの精気もお使いください♡」
と、股間を突き出してみたのだが……
ふぎゃ!
「汚らしい!」
ミーニャたんの蹴りがタカトの股を思いっきり蹴り上げていた。
「貴様のような汚れた生気など使えば、エウア様がけがれてしまうわ!」
「それで、ビン子というわけでございましょうか?」
「そうだ! ノラガミは神!人よりも純度の高い生気が宿っているからなwww」
「え~!ビン子は普通の人間ですよ♡だから、瞳の色だって黒色じゃないですか♡」
「ふふふ! だまされるものか! あの女がノラガミであることは先刻すでに丸っとお見通し済みよ!」
「あれ? どうしてビン子がノラガミだとわかったのでございましょう♡」
「フフフ!知りたいか?」
「はい♡ 是非とも♡ この無知なタカトめにおおしえくださいませぇえぇ♡」
わざとらしく土下座をするタカトを見て勝ちを確信したのか、
「ならば教えて進ぜよう! 実はな!この病院内にも私たちの協力者がいてだなwwww」
キラキラの目を向けるタカト
「ふむ♡ふむ♡」
だが、その心の内はいたって冷静だった。
「ついさっき、その者が教えてくれたのだ!」
「で、その者とは♡」
――ここで、そいつの名前をしっかり確認しておかないと、また厄介ごとに巻き込まれるからな……
「それはな! ラン」
と言いかけたとき、背後の玉座から怒鳴り声がした。
「ええい! ミーニャ! 話が長い! はよ!その者を排除して私に生気をよこしたもれ!」
自分をエウアと呼びし女。その女がミーニャを急かした。
「はっ! エウア様!」
と、ミーニャはすぐさま振り返り敬礼をとる。
その背後でタカトはチッと舌打ちをしていた。
――名前を聞き出すまで、あと少しだったのに……あの女!邪魔しやがって!
おそらく、あの玉座に座りし女がエウアなのだろう……
ならば、かならず神の恩恵を持っているはずなのだ。
そんなものを発動されれば、ただの人間であるタカトなどはひとたまりもない。
だが、ミーニャの話によると、あの女の復活ために生気を集めているらしいではないか……
という事は、まだあの女は完調ではないということになる。
――ならば、まだ、ビン子を助けて逃げるチャンスはある!
ミーニャが再びタカトへと視線を戻した時、タカトにもまた先ほどまでの馬鹿面は残っていなかった。
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