第20話 4桁の数字
「イテテテて……」
タカトは下腹部に痛みが走るのを感じた。
先ほど落下した際にぶつけたのだろうか?
ズボンに手を入れ股間をまさぐってみるが、怪我はしていないようだった。
それはムギギギギっていうような感覚……
分かりやすく例えていうならば、オラの息子が頑張って起立!気をつけ!をしようとしているのに、それをピチピチビッチ先生という名の女パンツ教師が頭をつかんで無理やり席を立たせないように押さえつけている感覚に近い。
「こら! 男子! さっきエッチな事考えるんじゃない!」
「痛いって! 先生! というか!先生!パンツ見えてるし!」
「勝手にスカートの中を見るんじゃない! 目ん玉!潰すぞ!」
まぁ、これぐらいなら耐えられない痛みではない。
ないのだが、なんとなく、ビッチ先生、いや、この洞窟に拒絶されているようにも思えてくるのだ。
もしかしたら、それはあの股間の奥から這い上がろうとしてくる赤黒い何者かを押さえつけようとしているのかもしれない。
まぁ、しかし! なんだ! こういったパンツに無理やり押さえつけられた時の対処法はいたって簡単だ!
そう! エッチなことを考えなければいいのであるwww
そうすれば、パンツの中の息子は起立!気をつけ!をすることもなく元のポジションにおとなしく戻っていくのだ。
だが、親の立場としては……本来であれば、息子に胸の内に詰まるものを思いっきり吐き出させてやりたい……
そう、屋上で眼下に広がる校庭にむかって高校生の主張を叫ぶのだ!
「俺は先生のパンツが見たいんだァァァァァァァ!」
「あほか!」
だが、ビッチ先生に頭を押さえられたこの状況で、そんな思いを吐き出せば、ビッチ先生のパンツの中がドロドロに汚れかねない……
そんなことになれば……もう、学校にイケナイ……
いや……だが、ココは洞窟……でも……暗いといっても外は外だ……
いや、待てよ……ここには、誰もいないではないか……
ならば、いっそ俺の息子をビッチ先生から解放してやり、この暗い空間に向けて精春の想いを吐き出させてやってもいいのではないだろうか!
――いやいやいや……さすがに無理だろ……
だって……今のタカトにはオカズになるネタがなかったのだ。
そう……背中にはエロ本を読むための「筋肉超人あっ♡修マラ♡ん♡」があるというのに、そのネタがないのである!
――何たる不覚!
ならば!先ほどまで読んでいたミーニャたんのムフフな記憶を呼び起こすというのはどうだろうか。
だが、ここに至るまでのタカトにはいろいろなことが起こりすぎていた。
そう、タカトの頭の中でうかぶミーニャたんのエロい姿は、体は確かに貧乳のミーニャたんであるのだが……肝心の顔がむさいジジイである立花どん兵衛になっていたのである……
――これでどうやって息子を奮い立たせてやればいいというのだ……
だが、諦めるなかれ少年よ!
そう! こういった場合、男には非常手段が残されているではないか!
白き思いを吐き出さずとも一時的に賢者モードになれる方法が!
それは!
大きく息を吸ってぇ~深呼吸ぅ~!
すると、なんと言う事でしょう!
先ほどまで、あれほどビッチ先生に押さえつけられていたような感覚が、まるで風船の空気が抜けていくかのように、みるみると和らいでいくではありませんかwww
さすがは匠の呼吸法! 深呼吸! 亀滅の刃に出てきても決しておかしくはありませんwww
そんな時、洞穴の奥の方から激しい金属音が聞こえてきた。
――やっぱり何かがいるじゃん!
もう、恐怖でいても立ってもいられない。
先ほどまで元気にそそり立つような気概を持っていた息子も今は小さくちじこまっている。
だが、金属音と共に人の声も聞こえてくるのだ。
という事は、誰か人がいるという事。
タカトはいまさらながら、息子の想いを吐き出させずにいたことをよかったと思っていた。
だって、こんな空間の中だと直ぐイカ臭いニオイでバレてしまうではないか。
セーー---フ!
ビビりながらもタカトは洞窟を進み、その奥を曲がった。
すると、奥の壁にほのかな明かりが揺れているではないか。
どうやら、その金属音とおらび声はその光のもとから響いているようだった。
だが、現時点で、その明かりを持つ者が味方なのか敵なのか分からない。
もしかしたら、先に逃げていた立花どん兵衛である可能性だってあるのだ。
さすれば! それは明らかに敵! 敵なのだ!
(まぁ、この時のタカトは立花が正面玄関に行ったってことを知らないから仕方ないwww)
タカトは足音を忍ばせてそっと壁際から覗き込む。
すると!
なんと言う事でしょう!
「うぉぉおおりゃ!」
ガキーーーン!
「開きやがれ! このクソ野郎が!」
ガキーーーン!
そこにいたのは敵ではなく!
金属バットを振り回す鬼がいた!
いや……
これは鬼ではなくて看護師のルリ子……
そのルリ子が鬼のような形相で金属バットを振り下ろしているのだ。
どうやら壁に埋め込まれた金属製のドアが開かなくて腹を立てているようである。
そのドアに金属バットが叩きつけられるたびに大きな金属音を立てていた。
さすがにその様子を見たタカトは考えた。
この状況、まさに、前門の虎、後門の狼……いや、前門のルリ子、後門のゾンビ!
どちらに進むもただではすみそうになかった……
だが、ルリ子は人間、ゾンビは化け物!
ならば人間である方がまだマシではないか……
しかし……あの剣幕……素直に通してくれるとは思えない……
バットを振るルリ子の背後を……抜き足……差し足……忍び足……
だが!見つかった途端、「このクソ野郎!どこに行こうとしてやがる!」と金属バットでしばかれる可能性だってありえるのだ。
そうなれば、顔中、ボッコボコのボッコボコ……痛いという言葉ではすみそうにない。
であれば、もう一度、死体安置室に戻るという手はどうだ?
しかし、今やあの死体安置室は暴れるゾンビにたたき割られた瓶によってホルマリンの臭いが充満していることだろう。
とてもじゃないが普通の人間が呼吸できる環境とは思えない。
なら!匠の呼吸を使えばいいのでは?
匠の呼吸! 一の型 深呼吸!
大きくすってぇ~~~ はい! 吐いてぇ~~~
そのとたん!呼吸困難を起こすことは間違いない。いや、それどころかホルマリンガスを大量に吸い込むと昏睡状態に陥る可能性だってあるのだ。
もう、それは命に係わる……大惨事……
ならば、まだ、ルリ子にしばかれる方が、まだ命があるだけマシというものである。
ということで、タカトは足音を忍ばせ……一歩、一歩と歩き始めた。
ルリ子の背後を泥棒のように歩くタカト。
だが、その気配にルリ子はまるで気づいていなかった。
先ほどからルリ子が金属のドアに頭をつけたまま動かなくなっていたのだ。
――よしっ! チャンス! このまま行ける!
タカトは確信した。己が命の生存を!
だが、そんな時、ルリ子からすすり泣く声が聞こえてきたのだ。
「このままだと……このままだと……」
タカトは一瞬躊躇した。
というのも、こう見えてもタカト君、女の涙には弱いのだwww
おそらく、あのドアの向こう……あの女の求める何かあるのだろうが……
――まぁww俺には関係ないしwww
と、スルーを決め込んだww
だが、そんなタカトをとどめるかのようにルリ子は拳でドンとドアを叩いたのだ。
そして、信じられない一言をもらしたのだ……
「ううぅ……ビン子ちゃんが……どうしたらいいの……クソ……」
「なんだって! ビン子がどうした!」
その瞬間、タカトはルリ子に飛びより胸倉をつかみ上げていた。
引きずり上げられるルリ子の涙顔。すすり泣くだけで言葉が出てこない。
だが、タカトはそんなことお構いなしに怒鳴り声をあげるのだ。
「おい! 泣いてたんじゃわかんないだろ! ビン子がどうしたっていうんだ!」
先ほどまで泥棒のように逃げようとしていたタカトとの姿は、もうそこにはなかった。
ビン子の身に何かあったのだ!
それを感じ取ったタカトは、もう無我夢中でルリ子に詰め寄っていたのだ。
そのタカトの剣幕に押されたのか、ルリ子の嗚咽が言葉に代わる。
「ううぅ……この扉の向こうから……ううぅ……ビン子ちゃんの叫び声が……ビン子ちゃんの……」
タカトはルリ子を突き飛ばすと急いで目の前のドアに耳をつけた。
(いやぁぁぁぁぁあ! 助けて! タカトォォォ!)
――ビン子の声だ!
タカトは再びルリ子に詰め寄る。
「おい! 早く開けろよ! ビン子に何か起こってんだ! 早く!」
だが、ルリ子はうなだれるだけ。
「さっきから開けようとしてるわよ! でも、開かないの……開けられないのよ私には!」
おそらく、その言葉には間違いはないだろう。
だからこそ、ルリ子は力任せに金属バットでドアを打ち破ろうとしていたのだ。
だが、目の前のドアは金属製。銀行の金庫にでも置かれているような重厚なドアだったのだ。
いかにルリ子が暴力娘であったとしても、その扉を打ち破ることなど不可能だろう。
――だが、それほどのドア……ならば、どこかに鍵があるはず……
タカトは、ドアの隅々をチェックし始めた。
すると、案の定ドアの脇にボックスがあるではないか。
しかも、10個の数が書かれたボタンがついている。
大方、このボタンで暗証番号を打ち込めば開くという寸法なのだろう。
ならば、番号を打ち込めばいいだけではないか!
だが、番号は何だ?
目の前で泣き崩れるルリ子が知っているとは思えない……
なら! あのゾンビはどうだ!
……
……
……
……しまった!
――俺が頭を踏みつぶしたんだった!
そう、あのゾンビが番号を知っていたとしても、すでに肉塊となった頭では、もう話すこともできないのだ。
万事休す……
だが、このドアの向こうでビン子が悲鳴を上げている!
この俺に助けを求めて叫んでいるんだ!
考えろ!
考えろ!
俺の頭脳!スパコン腐岳!
ココはマジで冗談は抜きで考えろォ!
目の前のドアキーを見にらみつける。
いつものタカトであれば、適当に数字を入れてみるのだが、ビン子の悲鳴を聞くタカトは全集中の状態! 異常なまでに感覚が冴えわたっていた。
――このサイズ……おそらく、入力すべき数字は4つといったところか……
……
4桁?
……
――4桁の数字……どこかで見た覚えが……
その時、タカトは思いだした。
そう、先ほど死体安置室で見たキラキラシールの裏に書かれていた数字。
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