第19話 お登勢の誕生日は8月31日よ♡

 手に持っているお登勢の首が入ったビンをタカトめがけて投げつける。

 ――って、俺の事、見えてんのかよ!コイツ!

 だが、ビンはタカトの横を通り抜け棚にぶつかり激しく割れた。

 ――やっぱりコイツ、見えてないじゃんwww

 バカにして笑うタカトは、割れたビンの破片の中にキラキラと光るものを見つけた。

 ――もしかしてお宝?

 摘まみ上げたのは一枚のキラキラシール。

 だが、そのキラキラシールにはビックリマンのレアキャラが印刷されているのではなく、どこぞのババアが印刷されていた。

 というか……このババアどこかで見たことがあるような……

 ――あっ! 思いだした! あのアイスダンスショーでセレスティーノのツンツルテンにしていたババアかwww

 そう、商店街の福引大会。その傍らで行われていたアイスダンスショー。いや、アイツ男子ダンシショー!

 その時に見たお登勢の雄姿をタカトはハッキリと覚えていた。

 だって、あの時のセレスティーノの姿と言ったらwwwwもう無様wwww

 そんなお登勢の顔がキラキラシールに印刷されているのである。

「やはり! あのババア! ただモノじゃないと思っていたが、キラキラシールになるほどのレアキャラだったか!」

 だが、この時点のタカト君……当然、お登勢の名前なんて知りはしない……だから、そのシールの裏面を見たのである。

 だって、キラキラシールの裏にはキャラの名前が書いてあるのが普通なのだ!

 だが……そこに書いてあったのは、名前でなく4桁の数字……

「0831」

 って、もしかして、これ……お登勢の誕生日? 

 そう! 8月31日はまぎれもなくお登勢の誕生日!

 デスラーが忘れないようにシールの裏に書いておいたのである。

 見た目はババア! でも! 誕生日はバリバリのおとめ座! それが年齢不詳のお登勢さん!キラっ♡


 キラキラシール!ゲットだぜ!

 などと喜んでいる暇は、タカトにはなかった。

 というのも、頭をつぶされたサンド・イィィッ!チコウ爵の体が暴れているのだ。

 ブンブンと振り回される手が棚に並ぶ頭の入った瓶をなぎ倒す。

 次々と割れていくビンによって、死体安置室の中はホルマリンの臭いで充満していた。

 さすがに、これにはタカトも参った。

 吐きそうになるのをこらえて、出口へと向かったのであるが……

 そこになんと! ゾンビの体が立ちふさがったのである。

 ちなみに、この部屋……出入口は一つだけ。

 そのドアをふさがれてはどこにも逃げ場はないのだ。


 だが、不肖タカト! これでも鼻は利くのだ!

 日々、自分の部屋に山積みにされた使用済みティッシュにしみこんだカタクリの花の香りを丹念にかぎ分ける。

 この香りはまだ乾いていないな……

 うん? この香りからすると2回は使用済みか……

 そして、まだ使えそうなティッシュを見つけると再利用するのである!

 これこそ! も・っ・た・い・な・い!の精神!

 だからこそ、微妙な香りの変化だって感じ取ることができる!

 そんなタカトの鼻が、ホルマリンのわずかな流れを感じ取った。

 それは焼却炉からドアへと流れる空気の流れ。

 という事は、焼却炉から風が吹いているのか?

 確かに焼却炉には煙突がついている。

 ⁉

 ならば、そこから外に出られるかもしれないではないか!

 タカトは、急いで焼却炉の中を覗き込んだ。

 だが、上部に開口していると思わていた空気の通り道は、なぜか下に穴を広げている。

 しかも、焼却炉とほぼ同等の大穴だ。

 だが、タカトに考えている余裕はなかった。

 そう、背後には首を失ったゾンビの体が両手を前に伸ばしゆらゆら近づいてきていたのである。

 その様子はまるでホラー映画!

 タカトは迫りくる恐怖から逃げるように焼却炉の中に飛び込んだ!


 ちなみに……その大穴……先ほどルリ子が下りた古井戸の穴だ……

 言わずもがな……それ相応に深さはある……

 そんな穴に飛び込んだら……当然……

 落っこちるに決まっているwwww


 タカトの体は暗い空間の中を漂っていた。

 いや、漂っているのではない、落ちているのだ。

 その事実はタカトにもよく理解できた。

 だって、下から押し上げてくる風圧が顔や体を震わせていたのだからwww

「まずい! まずい! まずい! このままだと死ぬ! 確実に死ぬ!」

 枯れた古井戸の底はむき出しの岩肌。

 当然、それにぶつかれば、即死することは間違いないだろう。

 だが、安心しろ! タカト君!

 ココは死体安置室! 死体を置いておくには格好の場所であるwww


 ――って、そんなことはどうでもいいわい!

 というか、この金玉の感触!

 まさか!?


 そう、落ちているときって金玉がヒュンってするんですよねwww

 ――って、ちゃうわい!

 ヒュンというよりも熱い感覚!

 なにか、体の奥底から這い登ってきそうな感覚なのだ!

 それって! 貞子じゃん! 古井戸だけに貞子ですか!

 って、あほか! 貞子が金玉を触ったらエロ本じゃんか! そういえば、貞子が出てくるエロ漫画があったよなwww

 ええい! 違うわ! そんな感覚じゃない!

 何かおぞましく熱い感覚……それでいて、背中や首筋には冷たい冷や汗が吹き出すような感じなのだ。

 それって……性病なのでは?

 あのな! 俺はまだ童貞なの! 童貞の俺がどうやって性病を貰うんだよ!

 なら、一体何なのよ!

 そんなタカトの脳裏に声が低くかすれた聞こえた。

「小僧……我が入れ物を……壊すことは……決して許さん……」


 ――ヤバい!

 ――この声! この感覚! 間違いなくヤバい奴だ。

 このままこの声に身を任せたら、自分の意識が戻ってこないかもしれない。

 そんな切迫感をタカトは感じとった。

 おそらく、声の主が……タカトの死を拒絶する以上、死を目前とすれば無理にでも這い出てくることだろう。

 ならば! 自分が自分出るためには、その死を回避するのみ!

 

 タカトは落下する頭を上へと向けた。

 そして、衝撃に備えるため体を小さく丸めたのだ。

 だが、そんなことで落下のスピードが収まるわけはない。


 しかし、次の瞬間、暗い古井戸の中に四つの火花が散った!

 ガギギギギギッギイギギ!!!

 激しい金属音が古井戸の壁を削っていく。

 タカトが背中から伸びた四本の手が壁をつかもうと伸びていた。

 だが、落下のスピードはかなり速かった。

 いかに「筋肉超人あっ♡修マラ♡ん♡」の手先が器用と言えども、壁をつかむことは容易ではない。

 だが、その四本の手を突っ張ることによって落下のスピードは確実に落ちていた。


 暗闇の中では飛び散る火花だけが視界の頼り。

 だが、上昇する火花では底の深さはまるで見えない。

 落下のスピードで落ちるのが先か……

 それとも……このまま底にぶつかるのか先なのか……

 暗闇の中でタカトは必死に願っていた。

「頼むぞ! 『筋肉超人あっ♡修マラ♡ん♡』」


 そして、ついに底へ衝突!

 ドシーン!


 暗闇の中でタカトはしたたかに打ち付けた尻をこすっていた。

「いてててて……」

 ちっ! タカトの奴、生きてたかwwww(byビン子)

 だが、タカトは自分の股間を見ながら、あのおぞましい感覚が消えていることにホッとした様子だった。

 しかし、周りを見渡しても全くの暗闇。

 上を見上げると落ちてきた焼却炉の入り口がほのかに明かりを漏らしていた。

「ヨイショ……」

 だが、タカトはそんな状況に慌てることもなく立ち上がる。

 そして、おもむろに背中に背負ったランドセルの横についた一つのボタンを押したのだ。

 すると!

 何ということでしょう!

 4本の手の内、上二本の手の平からピカァーッと強い光が放たれたではあ~りませんかwwww

 そう、何を隠そうこの「筋肉超人あっ♡修マラ♡ん♡」にはライト機能のがついていたのである!

 え? そんな機能、聞いてない?

 そりゃそうだろうwwwだって、言ってないんだからwww

 というか、そんな機能、何のために使うんだよ! そもそも、コレはコンビニでエロ本を立ち読みするための道具だろ!

 その通り! 「筋肉超人あっ♡修マラ♡ん♡」はコンビニでエロ本を立ち読みするための道具である。

 だが、そもそもコンビニで立ち読みするときに、ベッドの上や自室と違って、人の目が気になるものだ。

 だからこそ、この「筋肉超人あっ♡修マラ♡ん♡」を使って本をめくり、自分の手はズボンのポケットの中に忍ばせるように作っている。

 ならば!残った二つの手はどうするのだ!

 そう!もし仮に!コンビニが停電になった時もあきらめずに読むことができるようにという、万が一への備えなのだ!

 まさにこれこそ!転ばぬ先の杖!停電で読めぬ先のペンライト!なのである。

 まぁ、確かに今回の状況は停電とは全く違うが、いいではないか!そんな事w

 ということで、タカトは「筋肉超人あっ♡修マラ♡ん♡」の手のひらから照射された光であたりをグルリと伺った。

 目の前には、人ひとりほど通れるほどの穴が一つ。

 それは先ほどルリ子が潜り込んでいった横穴である。

 しかし、タカトはその穴を前に少々悩んでいた。

 というのも、この横穴……奥をライトで照らしてみても、その全貌が全く見えないのだ。

 ――どんだけ奥があるんだよ……だいたい、こんな訳の分からんところに入るほど俺はアホじゃないwww

 だが……上に戻れば……首をなくしたゾンビが大暴れしているに違いないのだ。

 というのも、先ほどから頭の上に、焼却炉の隙間に入り込んできたガラスの破片が降ってきているのである。

 大方、あのゾンビの体が棚に並ぶガラス瓶をたたき割っているのだろう。

 ということは……今、上に上がれば……あたり一面、ホルマリンまみれの腐った首が転がっているということに……

 さすがにその状況は吐きそうだ……

 しかも、ホルマリンは空気比重が1.08と少々空気よりも重い。

 そのため、ここの空気も心なしかどんよりとしてきたような気がする。

 ならば……

 ――行くしかないか……

 ホルマリンの匂いから逃げるには目の前の横道を進むしかなかった。

 だが、この横道、行き止まりの可能性はないのだろうか?

 それは大丈夫!

 横道から、わずかに揺れる空気の流れがタカトの頬をなぞっていたのだ。

 おそらく、この先はどこか外の世界に通じているに違いない。

 それに気づいたタカトは、仕方なしに……

 本当に仕方なさそうに横道の中に足を踏み入れ始めた。

 ――だって、まじで怖いじゃん! ココ!

 

 中はひんやりとした洞窟のなかのようだった。

 先ほどの井戸の底とは違い足元はむき出しの岩肌が起伏を作る。

 そんな壁からは、どこからともなくしみ出した水滴が岩肌を伝い足元を濡らしていた。

 しかし、不思議と生き物の気配はまるでしないのだ。

 こんな湿度の高い洞窟。本来であればゲジゲジやゴキブリといった生き物がいてもおかしくはない。

 それが、光で照らし出す限りにおいて、その姿がまるでない。

 ということは、おそらく、この洞窟内を日ごろから何者かが頻繁に行き来している証拠なのだろう。

 そんなことを考えながらタカトは濡れた壁に手を添えながらゆっくりと前に進んでいた。

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