第14話 ビン子の奴! トイレかよ!

 『筋肉超人あっ♡修マラ♡ん♡』のアームがグルリと反転しタカトの体を支えたのである。

 しかも! その反動を使って体を跳ね起こしたのだ!

 この反応速度! この動き! しかも、エロ本を女たちの顔へと投げつける正確無比なコントロール! もう!エロ本を読むだけに使っていたのではもったいないような気が作者はするのだが……まぁ、タカトにとっては、どうでもいいことである。

 再び両足を地につけたタカトは、階下に降りる入口をにらみつけた。

 その入り口にはすでに立花の姿。もう、階段を降りるべく体の向きを変えている。

 もはや、ココからでは追いつけない。

 という事は、軍服の女たちの手がタカトに向けて伸びてくるのは必然なのか!

 ――あのジジイにしてやられた!

 だが、今更そんなことを後悔しても始まらない。

 とにかく逃げる!

 一歩でも前に!

 タカトは懸命に足を動かした。

 だが、入口まで十数歩の距離なのにも関わらず、それがやけに遠く感じられた。


「待て!」

 そんなタカトをお菊の声が制止しようとした。

「なんでお前は変わってしまったんだ?」

 だが、その声は少々涙声……


 そんな女の泣き声にタカトは少々後ろ髪をひかれる思いがした。

 だが、ここで足を止めるわけにはいかない。

 止めた瞬間、軍服の女たちに掴まれてしまいかねないのだ。

 ――というか、俺の何が変わったというんだよ!

 と思いつつも、タカトは何事もなく無事、屋上の入口へとたどり着いたのであった。

 って、もうwww

 もしかして、よほどタカトの足が速かったのだろうか?

 いえいえそんなことはございません。

 バタバタと走る姿は、おそらく50メートル走で13秒ぐらい。小学1年生の平均タイム11.5秒よりも遅いのだ。


 え? それなら軍服の女たちは、なぜタカトを捕まえなかったのか?だって。

 

 ああ……彼女たちね……


 いまや4人の軍服の女たちは四つん這いになってゲロを吐いていた。

 だって、仕方ないじゃん……

 ズボンのファスナーをいじっているタカトの姿を見た途端、頭の回転が速い彼女たちはエロ本にしみこんだ液体の正体に気づいたのだ。

 そんな液体が口の中にビチャビチャっと入ってきたものだから……その反応は当然といえば当然。

 もうね……うら若き女性であればその精神的ダメージはいかほどのモノであったかは容易に想像がつくだろう。

 すなわち、スパコン腐岳の導き出した攻撃は、確かにフィジカルへのダメージはさほどなかったが、精神への攻撃は絶大な効果を発していたのであるwwww

 さすがは腐岳!

 もう、そんな状態に陥った彼女たちは、もはやタカトを捕まえるどころではなかった。

 ということで、足の遅いタカトであっても四つん這いになる女たちの間を走り抜けて屋上の入口にたどり着くことなど造作もないことが分かってもらえたことだろう。


 だが、まだお菊が残っていた。

 しかし、お菊はタカトを追いかけるわけでもなく、まるで、去り行く恋人を思いとどまらせるかのように大声で叫んだのである!

「なんでだよぉぉぉ! お前!巨乳好きじゃなかったのかよぉぉぉぉぉぉ!」

 へっ?

 意味が分からない……

 だが、お菊は半狂乱になりながら言葉をつづけた。

「いつから、こんな貧乳好きになり下がったっていうんだぁぁぁぁぁぁ!」

 ロリコン?

 確かにミーニャたんのエロ本はロリコン雑誌。

 だが、今のこの状況とロリコンとの間に何の関係があるというのだろうか。

 というか、すでに入口にはタカトの姿など見えやしない。

 大方、すでに階段を降り始めているのだろう。

 と、思ったらwww

「なんで俺が貧乳好きやねん! 俺はいつでも巨乳派だぁぁぁぁあ!」

 と、わざわざ入口の端から顔をのぞかせて、お菊に向かって叫んだのだ。

 というか……それを言うがために入口まで戻ってきたのか?

 そんなことなどせずに、さっさと逃げとけばいいものをwwww

 ほんと……お菊が追いかけてきたら、もうどうにもならないのに。

 だが、タカトにとってはそれはどうしても訂正しておかないといけないことだったのである。

 そう、あくまでもタカトの興味があるのは巨乳! 大きな乳なのだ!

 だが、間違ってはいけない!

 単にエロが目的で巨乳を好んでいるわけではないのだ。

 そう、タカトは探し求めている。

 自分を助けてくれた、あの金髪の女神の存在を……

 そして、その手掛かりが頬に残った大きな乳の感触だけだったのだ!

 だから! 断じてエロが目的ではない!

 そして、この小説もエロ小説ではないのだ!


 タカトの声を聴いたお菊は感極まっていた。

「ああ……やっぱり、まだ、お前は巨乳に焦がれていたのだな……」

 短鞭を握る手でまぶたをこする。

「なら、また私が作ったタコさんウィンナーを死ぬほど食べてもらわないとな!」

 だが、当のタカトはもういない!

 ――ならば、捕まえて口の中にタコさんウィンナーを放り込むまで!

 しかし、顔を上げたお菊さんは、なぜか、ほっぺに手を当てて腰をくねらせはじめた。

 ――そして、私もタコさんウィンナーをお口でほうばって♡

 きゃっ♡

 内股をキュッとしめて小刻みに歩くお菊さんからは、先ほどまでの威厳は全く感じられなかった……。

 そんなものだから、入口に向かってゆっくりと歩くのが精いっぱいだったようである。


 一方、階段を慌てて降りていくタカト君。

 後ろから軍服の女たちが追ってきてないか気が気でなかった。

「だいたい、なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないんだよ!」

 そう、立花のクソジジイが俺に濡れ衣を着せたのが原因なのだ。

 ――ならば、こういう時は、俺もビン子に責任をなすりつけて……

「って! ビン子の奴! どこに行ったんだよ!」

 って、今気づいたんかい!

 いやいや、ちゃんと気づいてましたよ!

 でもまぁ、ミーニャちゃんのエロ本を読んでいればそのうち屋上に来るだろうと思っていたんですよ。

 それでも、一向にビン子がやってくる気配はないじゃないですか。

 しかも、ビン子じゃなくて、軍服の女たちが来ちゃって、もうそれどころでは!

 ――ちょっと待てよ……

 もしかしたら、ビン子の身に……何かあったのかもしれない……

 屋上に来ることができないなんらかの理由が発生したのかも……

 ――そういえば……確か今日の朝……ビン子の奴、イソフラボンがどうとか言いながら、また『思いでぽろぽろほろにがパイパイ』を作っていたような。

 『思いでぽろぽろほろにがパイパイ』……それはビン子が作るイソフラボンたっぷりの創作アート料理。

 その名の通り、とてもほろ苦いのだが……これを食べてもビン子の胸は1ミリも大きくならなかった。

 そのかわり、タカトが食べるとなぜか悪魔が召喚されたのである。

 それは……トイレの花子さんならぬトイレのウ○コさん!

 食べるとすぐ! タカトのケツから顔をのぞかせた超巨大な茶色い花子さんが便器一杯に広がっていくのだ!

 きゃぁぁぁぁぁあ!

 まさに悪魔! 悪魔の料理である。

 そんな料理を食していれば、ビン子がトイレに駆け込んでいましたと言われても納得できてしまう。

「やっぱり! ビン子の奴! トイレかよ!」


 そんな時、タカトは階段でコウエンとすれ違う。

「えっ? ビン子ちゃん? トイレにはいなかったよ」

「なんだとぉぉ! なら!ビン子の奴どこに行きやがったんだよ!」

 蘭華の母親を見舞っていたためにお菊たちに少々遅れをとったコウエンが屋上につながる階段の踊り場を曲がった時、前から怒涛の勢いでタカトが駆け降りてきたのである。

 タカトの言葉を聞くコウエンは一瞬、一抹の不安を感じた。

 というのも、 あの時、一階の階段での登り口……鰐川ルリ子が「ビン子ちゃん!」と叫んでいたのを思い出したのだ。

 ――やっぱり……ビン子ちゃんは屋上にいないのか……

 てっきりコウエンはビン子が上の階に上ったものだと思っていた。

 だが、ここまでの道すがら、各部屋及びトイレの中を見て回ってみてもビン子の姿はありもしなかったのである。

 ならば、残すところは屋上だけなのだが、そこから降りてきたタカトが「ビン子の奴どこ行きやがった」と叫びながら降りてきたのだ。

 ということは、おそらく、ビン子は屋上にもいないのだろう。


 ならば、可能性は……


「おそらく、ビン子ちゃんは地下じゃないかな……」

 コウエンはこれをタカトに伝えるべきか、一瞬、悩んだ。

 だが、タカトのすさまじいまでの鼻息荒い剣幕に押されてついついこぼしてしまったのである。

 ――しまった……

 コウエンは後悔した。

 やっぱり、あの時のルリ子のただならぬ様子が頭を離れないのだ。

 だが、ココはブラックと言えどもツョッカー病院。

 病院内に限って危険なことなどないはずだ……

 ないはずなのだが……お菊たちが乗り込んできた……

 そう考えると、もしかしたら、ビン子の身に何かあったのかもしれない。

 もし、そんな危険な状況にタカトが飛び込んだりしたら……ミイラ取りがミイラ……いや、最悪、ミイラ取りがただの死体になりかねない……

「タカト君! ココは慎重に!」

 と、タカトを制止しようと思ったのだが……すでにタカトの姿はそこにはない。

 すでに三階、二階を通り過ぎ、一階のフロア―へと到達しようとしていたのである。

「こらぁぁぁぁぁぁあぁぁ! ビン子ぉぉぉぉおぉ!」


 手すり越しにその様子を覗き込むコウエン。

 ――早すぎだよ!

 あとを追いかけようかと思ったのだが、先ほどから嫌な感じが頭をよぎって離れない。

 もし、この予感が正しければ、いかに万命拳を練習している自分一人ではどうにもんらないような気がするのだ。

 ならば誰かに手助けを……と、思っても、ここはツョッカー病院……病人はいれども軍人はいない……

 ……いない?

 ……

 ……

 ――いるではないか!

 そう! 屋上には先に上った軍服を着たお菊たちがいるはずなのだ。

 ならば!

 ――理由を話して一緒に地下に来てもらおう!

 一生懸命にお願いすれば、彼女たちもまた人間! きっと困った人を手助けしてくれるに違いない!

 そう思うコウエンは目を輝かせながら一目散に屋上へと駆け上っっていった。

 うーん……仏門に帰依するコウエンなら、おそらくこう答えてもおかしくはないのだけど……秘密警察のお菊たちが素直にそんなお願い事を聞いてくれるとは到底思えないんだよねwww

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