第28話 お風呂場にて
脱衣所に向かった俺は、そこで服を脱いでタオルを腰に巻いた。
そして、ふと鏡を見る。
俺の胸もとには――ゴツゴツとした鋭い起伏が、その存在を主張していた。
「……さすがに、引かれるだろうな」
この未界石は現在、肌の色と同化している。
だが見た目はグロテスクであり、見ていて気持ちの良いものじゃないことは確実だ。
ただし、それでも……やはり、俺にはアカネに説明する義務がある。
そして改めて、俺は昨夜の過ちを謝罪しなくてはならないのだ。
「――アカネさん、入りますね」
意を決して、浴室へと足を踏み入れる。
するとアカネが、椅子に座って俺を待っていた。
……タオルすら身につけていない、完全な全裸で。
「悠月くん! えへへっ、待ってたよ?」
「……いやいやっ。アカネさん、タオルは……?」
「うーん。だってあたし、昨日あんなにキミに裸見られちゃってるんだよ? 今さら、もう気にしなくなっちゃった」
頬をわずかに赤く染めて、アカネがそんなことを言う。
そのシミひとつない身体は、本当に綺麗で。
健康的でスレンダーな身体つきだが、胸や腰もとはしっかり女性的な曲線を描いていて……とにかく、それはもう魅力的だった。
「それじゃ、悠月くん。あたしの身体、洗って?」
と、可愛らしく頼んでくるアカネ。
俺は深呼吸をしてから、アカネの背中に回る。
その背中は華奢で、とても白くて……ごくり、と俺は固唾を呑み込む。
「……アカネさん。洗いながらで申し訳ないんですけど、さっきの話の続き、してもいいですか」
「うんっ。もちろん、なんでも言って?」
「わかりました。ありがとうございます」
俺はボディーソープをスポンジに馴染ませて、それを使ってアカネの背中を洗いはじめた。
「んっ……」と、アカネが甘い声を漏らす。……俺はさらに緊張させられるが、どうにか意識を保って言葉を捻り出した。
「アカネさん。さっき、俺の胸もとは見ましたか?」
「……うん。ごめんね、ちょっとだけ」
「謝ることじゃないです。あれは……未界石です。俺の身体には、未界石が埋め込まれてるんです」
「――え、?」
唖然とするアカネ。
そんな彼女の背中を丁寧に洗いながら、俺は自身の過去を語り出した。
「それで、この未界石は――」
そして俺は、全てをアカネに話した。
俺の父が、有名な迷宮研究者である黒坂博人であること。
父の手によって人体実験をされ、《宵闇の虚刀》の制御装置としてこの未界石を身体に埋め込まれたこと。
時折、未界石の疼きに襲われ、全身に激痛が走ること。
その疼きは、ダンジョンで魔物を殺すことで解消できること――、
「――と、そんな感じです。つまり俺は、強すぎる魔装を扱うために肉体を改造された、改造人間みたいなものなんですよ」
「改造、人間……」
「昨日も、この未界石の疼きが原因で、俺はアカネさんに襲いかかってしまったんだと思います。なんというか……自分が、制御できなくなるんですよ」
もしかしたら、俺が手加減を苦手としているのも、未界石を埋め込まれている影響なのかもしれない。
戦闘態勢に入ると、俺はつい感情的になり、力を抑えられなくなるのだ。
「なに、それ……っ、自分の子供に、そんなことするなんて……っ!」
「……アカネさんにそう言ってもらえるだけ、救われます」
今まで俺はこの身体のことを、ほかの誰にも打ち明けてこなかった。
……もし俺の人体実験されていた過去がバレてしまえば、親父は何らかの法に引っかかって逮捕されるだろう。
もちろん、あのクソ親父がどうなろうと、俺の知ったことではない。
だが俺は現在、親父からの仕送りで生活し、そして学院に通っている。それが無くなるのは避けたかった。
断じて親父のためではない。断じて、だ。
「ここから先は事実ではなく、ただの推測なんですが――未界石が疼く原因は、たぶん、ストレスが関係しているんだと思います」
アカネと出会うまでは、未界石の疼きはランダムに訪れるものだと思っていた。
だが、おそらくそうではないのだろう。
「昨日、俺は……アカネさんを泣かせてしまったことで、自分を責めました。それが未界石が疼くトリガーになって、アカネさんにあんなことを……」
「そっか……じゃあ、やっぱりあたしのせいだ。あたしが泣いちゃったから……」
「それは違います。アカネさんの気持ちを考えることのできなかった俺が、全て悪いです」
そして、もうひとつ。
未界石の疼きについて、新しく判明したことがあった。
「俺の未界石の疼きは、どうやらストレスを発散することで解消されるみたいなんです。魔物を殺すことだけでなく、その……性行為でも、発散できるみたいなので」
「……えへへっ、そっか。じゃあ、あたしはキミの役に立てたんだねっ」
「それだけじゃないです。アカネさんにご飯を作ってもらうようになってから、俺の未界石は疼かなくなったんです。あれは、たぶん……アカネさんのおかげで、ストレスのない毎日を送ってたから、なんだと思います」
だが逆に、アカネに料理を作ってもらえなかった日は、俺の身体の未界石は疼いた。
これらの情報を整理すると、やはり未界石の疼きとストレスが結びついているようにしか俺には思えない。
「……説明は以上です。べつに俺は、言い訳がしたかったわけじゃありません」
アカネの背中を洗い終えた俺は、スポンジを握っている手をぴたりと止めた。
その華奢で綺麗な身体を、じっと見つめる。
俺は……こんな綺麗な美少女の身体を、汚してしまったのだ。
「俺、なんだってします。だから……お願いします。俺に、罪を償わせてください」
「……ね、悠月くん。だったらさ、提案があるんだけど、いいかな?」
俺に、背中を向けたまま。
アカネは、静かに言葉を紡いでくる。
「あたし――キミのこと、いっぱい甘やかしたくなっちゃった」
「……え?」
「あたしだけは、ぜったい何があっても、キミの味方だから。ね、だからさ――」
そして、その瞬間。
アカネは振り返り――俺のことを、押し倒してきた。
「ちょっ……あ、アカネさん?」
「えっちなことをすれば……キミの未界石は、疼かないんだよね?」
アカネの白くてしなやかな手が、俺の下腹部へと伸びてくる。
俺はアカネの綺麗な裸体を目の前にして、すっかり反応してしまっていた。
その、固くなったものに……アカネが、ぴとっと触れる。
「っ……アカネ、さん……?」
「このまま、手でシてあげよっか? それとも、お口とか使ってみる?」
「いやっ、待ってください……っ! アカネさん、何を……っ」
「恩返しだよ? あたし、キミにもっと恩を返したいの」
えへへ、と。
恥じらいを含んだ可憐な笑みで、アカネが俺を見つめてくる。
「――悠月くん。あたしの身体で、いっぱい発散しちゃおう?」
あまりにも甘美なその囁き声と、アカネの妖艶な表情を前に。
気づけば、俺は……抵抗する気力を失って、アカネの奉仕に身を任せていた。
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