第27話 シちゃった、ね?

 翌朝。

 ちゅんちゅん、という小鳥たちの鳴き声を聞いて、俺は目を覚ました。

 同時。柑橘系の甘い匂いが、俺の鼻腔をくすぐる。 


「――あ、悠月くん。おはようっ」


 明るい声。

 寝起きでぼやけていた俺の視界は、少しずつ鮮明になっていき……、


「……アカネ、さん?」

「うんっ。えへへ、アカネだよ?」

 

 にこっと明るく笑うアカネは……なぜか、俺と添い寝をしていて。

 しかも、彼女は――下着だけの半裸状態だった。


「ね、悠月くん。あたしたち――シちゃった、ね?」


 なんて、可憐に笑うアカネの声を聞いて。

 俺は……ようやく思考が回るようになったのか、昨晩の出来事を鮮明に思い出した。


「あ……そうだ、そうだった。俺……」


 昨晩、俺は未界石の疼きに襲われた。

 そして、いつものように激痛に苛まれることになったのだが――なぜかそのとき、俺はアカネの美貌から目が離せなくなったのだ。

 そのまま俺は理性を保てなくなり、アカネを押し倒した。

 最後には……本能に従って、俺とアカネは何度も身体を重ねたのだ。


「……最低だ。俺、最低すぎる……」


 途端に、俺の心に自責の念が押し寄せてくる。

 あろうことか俺は、超人気ダンジョン配信者であるアカネの初めてを強引に奪い、その身体を犯してしまった。しかも、避妊した記憶もない。

 一生をかけて償おうとも償いきれない罪を、俺は背負ってしまったわけである。


「悠月くんは最低なんかじゃないよ。あたし、キミとたくさん繋がれて、嬉しかったもん」


 一方のアカネは、無垢な笑顔でそんなことを言ってくる。


「たしかに乱暴だったし、最初は痛かったけど……でも、あたしも気持ちよかったし。悠月くんも、いっぱい興奮してくれてたもんね?」

「う……」

「それにキミは、ちゃんと外に出してくれたし。だからあたし、幸せだよ?」


 えへへ、と可憐に笑うアカネ。

 しかし当然ながら、それで俺の心が休まるはずもなく。


「……アカネさん。俺を警察に突き出してください」

「えっ……し、しないよそんなことっ」

「俺は、アカネさんを無理やり襲った最低最悪のクズです。どうにかして償わないと、俺の気が済みません」


 と、俺が懇願すると。

 きょとん、とアカネは可愛らしく首をかしげて、


「うーん……だったらさ、悠月くん。あたしのお願い、聞いてくれない?」

「もちろんです。俺、何だってします」

「そっか。えへへ、何でもか……」


 アカネの頬が、にへっと緩む。


「よし、決めたっ。あたし――キミに、身体を洗ってほしいな。ダメ?」

「……え? 洗う、ですか?」


 ふと、俺がそう聞き返すと。

 アカネはどことなく照れくさそうな顔をして、


「その、ほらっ。昨日、悠月くんにいっぱいかけられちゃったし……ティッシュで拭いたんだけど、まだちょっとベトベトしちゃってて」

 

 と、アカネがそう言った瞬間。

 昨夜の記憶が……さっきよりも、鮮明に蘇ってきた。

 ふだんは可憐で快活なアカネの乱れた表情に興奮した俺は……その綺麗な顔や胸、ふとももを白濁に汚してしまったのだ。


「……わ、わかりました。責任を持って、俺がアカネさんを洗います」

「ほんとっ!? えへへっ、嬉しいなぁ」


 するとアカネは、幸せそうに笑った。

 その表情はとても可憐で、美しくて。

 そんなアカネと……俺は、身体を重ねたのだ。

 

「……はあ。夢でも見てるのかな、俺」

「ううん、夢じゃないよ? あたしは、ちゃんとキミの隣にいるよ?」


 そう言うとアカネは、俺の頭をよしよしと撫でた。

 とても優しい手つきだった。俺は思わず、涙を流しそうになってしまう。


「……あの、アカネさん。とりあえず、先にお風呂場に行っててくれませんか」

「え? いいけど、どうして?」

「アカネさんに、大事な話があるんです。そのための心の準備をしたいんです」


 俺には――アカネに、全てを説明する義務がある。

 昨夜、なぜ俺がアカネに襲いかかってしまったのか。

 おそらくあれは、俺の身体に埋め込まれた未界石の疼きが原因だ。

 ならば、俺は――俺の過去を、アカネに打ち明けなくてはならないだろう。


「……ねえ、悠月くん。まさか……もう会わないって、言うわけじゃないよね……?」

「え?」

「だって、その……昨日、言ってたよね? あたしがキミと会うのは、リスクが高すぎるって……」


 ……そうだ。俺は昨日、アカネに「恩返しはもう十分だ」と告げたのだった。

 しかし昨日と今日では、あまりにも事情が違いすぎる。

 なんせ俺たちは、身体の関係になってしまったのだ。

 だから、俺はまず……その責任を、取らなくてはならない。


「それとは違う話ですから、安心してください。あと……昨日は、すみませんでした。アカネさんがそこまで俺への恩返しにこだわってくれてたとは、思ってなかったです」

「ううんっ、いいの。だってキミ、あたしのことを想って提案してくれたんだよね? だから――ありがとねっ、悠月くん!」


 そう言うと、アカネは布団の外へと出て、


「それじゃああたし、先に行ってるねっ。ちゃんと来てね、悠月くんっ?」


 と、嬉しそうに浴室へと向かって走り出した。

 

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