第21話 悩みの種
アカネの胸に抱かれて、感情を吐露し続けて。
やがて、俺は……、
「……すみません。もう、大丈夫です」
「そっか。よしよし、いい子いい子」
アカネの胸から距離を取ると同時に、そっと優しく頭を撫でられる。
照れくさいが……もはや、今さらだろう。
「……恥ずかしいとこ、見せちゃいましたね。やっぱ俺って、情けないですね」
「ううん、そんなことないよ。悠月くんは探索者になるって夢のために、いろんなことに耐えてきたんだよね? だったら……すごく、カッコいいと思う」
そう言って微笑むアカネは、本当に天使のようだった。
「でも……あたし、やっぱり真嶋くんのことは許せないよ。キミはこのままでいいって言うのかもしれないけど、それだとあたしが納得できない」
「……そう言ってもらえるだけで嬉しいです。だけど、やっぱり方法がないんですよ」
俺だって、真嶋くんからの理不尽な嫌がらせを完全に受け入れているわけじゃない。
抵抗しようと何度も考えたし、何倍にもやり返してやろうと怒りを燃やした日だってある。
けれど――俺は、手加減が苦手なのだ。
真嶋くんへの反撃は、きっと過剰防衛になってしまうだろう。
それに、未界石の埋め込まれたこの身体のことを考えると、あまり目立ちたくはない。
俺の真の実力がバレれば、誰かに俺の身辺を調べられ、人体実験をされていた過去が明るみになるかもしれない。
もし、そうなってしまったら……とても面倒だ。
「もし真嶋くんに反撃するってなったら、俺、たぶん酷い怪我を真嶋くんに負わせちゃうことになります。それで退学にでもなったら最悪です」
「先生に相談する、とかは? 霧下先生ってクールに見えるけど、すごく優しいひとだよね?」
「一時的な解決にはなるかもしれません。でも、報復されるのも怖いんで」
「うーん、そっか……真嶋くんって、すっごくプライド高そうだもんね……」
むむむ、と顎に手を当てて考え込むアカネ。
と……ちょうど、そのときだった。
俺のスマホに、一通のメッセージが届く。
「悠月くん。誰から?」
「えっと……っ、真嶋くんから、です……」
タイミングが良いのか、悪いのか。
真嶋くんからのメッセージに、俺は目を見開く。
「……内容は?」
「っ、はい。確認してみます」
俺はメッセージアプリを起動し、届いたメッセージの内容に目を通す。
『次の土曜日、開けておけ』――と、それだけの一文だった。
「土曜日? 遊びに行く、ってわけじゃないよね……?」
「はい、それはまずありえないです。たぶんですけど、学校のある日だけじゃ物足りなくなったってことだと思います」
真嶋くんは昨日、ついに魔装まで用いて俺に暴力を振るってきた。
彼からの嫌がらせは、日に日にエスカレートしているのである。
おそらくこのメッセージは、俺を人目につかない場所にでも連れ込んでリンチにでもしよう、という意図によるものだろう。
「悠月くん。ぜったい、行っちゃダメだからね……?」
と、心配そうな上目遣いで、アカネが忠告してくる。
だが残念ながら、俺に拒否権はないのだ。
「……すみません、そういうわけにもいかないんです。もし断れば、学院で何をされるかわかったものじゃありません」
「っ……じゃあ、学校変えようよ。ほかの迷宮学院に行けば、もう真嶋くんなんかと会わなくて済むんだよ?」
「去年、俺が受験した迷宮学院は十八校です。日本にある学院は、ほぼ全て受けました。そんな中で、魔装が使えない俺を入学させてくれた唯一の学院が、この宮鷹の学院なんですよ。……転校なんて、俺には無理です」
「そ、っか。そう、なんだ……」
悔しそうに、アカネが唇を噛みしめる。
「……うん、わかった。悠月くんがそこまで言うなら、あたしは止めないね。だけど……あたしだって、キミを守りたい。悠月くんの力になりたいの」
と、アカネは俺の手を掴んできた。
やわらかい感触と、あったかい体温が伝わってくる。
そしてアカネは、じっと俺の瞳を覗き込んで――、
「だから――あたしに、恩返しさせてくれる?」
すると、アカネは。
――とある作戦を、俺に説明してきた。
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