第19話 光の中の悪意
昼休みを終えて、午後の授業の時間。
授業内容は、またしても攻略演習だった。
俺たちは探索服に着替えてから、いつもの草鳥の迷宮前に集合する。
「今日の攻略演習では、魔物との戦闘訓練を取り扱う。まずは……せっかくだ、今日は日向に戦闘の手本を見せてもらおう。日向、いいか?」
「はいはいっ! アカネに任せてくださいっ!」
そして俺たちは、アカネと霧下先生を先頭に1Fへと入る。
するとさっそく、Eランクの魔物――リトルスライムが出現した。
「――お願い、ヒーちゃんっ!」
アカネは背負っていた大剣を構えて、リトルスライムと対峙する。
ヒーちゃん、というのはアカネの魔装の愛称だ。
正式名称は《緋兎の大剣》。それを略してヒーちゃんと呼んでいるのである。
「えへへっ、じゃあ行くよ――っと!!」
と、アカネは大剣を振り回し、一撃でリトルスライムを両断してみせる。
隙のない動きだった。重くて速いその斬撃は、リトルスライムに逃げる機会すら与えない。
「さすがだな、日向。お前たち、今のがBランク探索者の戦闘だ。しっかり参考にするように」
そう霧下先生が言うが……その言葉は、クラスメイトのほとんどに届いていなかった。
「す、すげぇ、生アカネちゃんの生戦闘だ……うぅ、感動で涙が……」
「というかアカネ様、探索服似合いすぎじゃない……? あんなダサいジャージをオシャレに着こなせちゃうなんて、私、うっとりしちゃう……」
「フン、拙者は見逃さなかったでござるよ。アカネ氏のGカップの躍動を」
……というふうに、アカネの戦闘を前にした生徒たちはすっかり興奮してしまっていた。
さすがの霧下先生も、これには頭を抱えてしまっている。
「……お前たち。憧れる気持ちはわかるが、今は授業中だ。それを忘れないでくれ」
と、その一方で。
ただひとり――真嶋くんだけが、苛立った様子でアカネを睨んでいた。
「チッ、気に食わねぇな。あの程度の魔物なら、オレだって一撃でぶっ殺せるっての」
真嶋くんは今日一日、ずっとこんな調子だった。
アカネに「ナルシスト」と呼ばれたことを、かなり気にしているのだろう。
今ではどうやら、アカネへと憎しみを持つようになっているらしい。
「クソが……あんな女、顔と身体がイイだけだろうが。そうだよな、菊岡?」
「え? い、いやっ、俺は……」
「おい。お前までオレに刃向かうのかよ、あァ?」
「ひっ!? す、すみません!」
露骨に機嫌の悪い真嶋くんを見ていると……少しだけ、俺は心地がよかった。やはり俺は、自分で思ってるより性格が悪いのだろう。
と、そのとき。
「えへへっ。悠月くん、見ててくれた? アカネ、けっこう強いんだよっ!」
ふりふりと俺に手を振りながら、アカネが満面の笑顔を向けてきた。
同時……俺は、クラス中の生徒たちからギロリと睨まれる。
「なあ黒坂。お前、ずいぶんアカネちゃんに気に入られてるみたいだな?」
と、俺に声をかけてきたのは、藤巻くんだ。
「いいよなぁ、お前は。アカネちゃんの横顔を眺めたり、匂いを嗅いだりし放題ってことだろ? あーあ、羨ましいぜ」
「いや、そんなことはしてないけど……?」
「あ、そうだ! お前さ、アカネちゃんと連絡先交換したりしたか?」
「……まあ、一応はね」
「じゃあさ、あとで俺にも連絡先交換してくれるように説得してくれよ! な、今度ジュース奢るからさっ!」
そんなことを言われて……俺は、少しだけ驚いていた。
藤巻くんが熱烈なアカリスであることは、なんとなくだが把握している。
だから藤巻くんは、落ちこぼれであるくせにアカネに気に入られている俺のことを敵視しているだろうと思っていたが……どうやら、違うらしい。
友好的な態度を前に、俺はほっと安堵する。
「わかった、あとでアカネさんに聞いてみるよ。でもアカネさん、あんまりグイグイ来られるの好きじゃないみたいだから、距離を詰めるなら慎重に行ったほうがいいと思うよ」
「おっ、マジか! サンキューな、黒坂! いやぁ、持つべきものは友達だな、やっぱ!」
ばしばしと俺の肩を叩いてくる藤巻くん。
どうやら知らないうちに、俺には友達ができていたらしい。
人生で初めての、友達が……。
「……え!? おい黒坂、なに泣いてんだよ!?」
「いや、ごめん。目にスライムの残骸が……」
「ヤベェじゃねぇか!? 先生、黒坂が――」
そんなやり取りを交えつつ、アカネの転校初日の授業は終わった。
きっと――これから先も、今日のような慌ただしい日が続くのだろう。
こうして注目を浴びるのは好きじゃないし、何より疲れる。
だが……意外と、そこまで悪い気はしなかった。
◆◆◆
放課後の通学路。
オレ――真嶋陽太郎は、あの憎たらしい女のことを考えていた。
「クソがッ! このオレを、ナルシストだと……ッ!?」
道端のゴミ箱を、思いっきり蹴りつける。
しかしこの程度では、オレの苛立ちは収まらない。
「――ククッ、そうだ。あの女を、このオレがブチ犯せばいいんだ」
ニヤリ、と。
オレは思わず、笑顔を浮かべる。
「んでもって、二度と生意気な口を聞けないようにしてやる。このオレに服従するように調教して、性奴隷として一生かわいがってやるよ――」
頭の中で計画を練りながら、オレは想像する。
あの生意気なクソ女も、見た目だけは絶品だ。
あいつの可憐な顔を、エロい身体を――オレのモノで汚す日が、今から楽しみで仕方なかった。
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