第7話 真の実力
「あ――そういえば、なんだけどさ。どうして悠月くんは、あたしが赤竜の迷宮に飛ばされたってわかったの?」
赤竜の迷宮、95F。
探索隊の情報通りならば、ボスであるレッドドラゴンは100Fに君臨しているはず。
そこを目指して歩きながら、俺とアカネはそんな話をしていた。
「転移トラップには、じつは法則があるんですよ。あの転移陣を解読すれば、転移先のフロアがわかるんです。……まあ俺も、まさか別のダンジョンに飛ばされるトラップだとは思ってなかったですけどね」
「へえ。転移陣って、解読なんてできるんだ。悠月くんって強いだけじゃなくて、頭もいいんだねっ」
そう褒められるが……嬉しさ半分、嫌悪感が半分だった。
俺の転移陣の解読技術は、ダンジョンの知識のひとつとしてクソ親父に無理やり叩き込まれたものだ。なので、どうしても素直に喜ぶことはできなかった。
◇◇◇
道中で遭遇するSランクの魔物を倒しながら、俺たちは下層へと進んでいった。
やがて、99F。目の前の階段を下りれば、ボスであるレッドドラゴンと対峙することになる。
「アカネさん、準備はいいですか?」
「う、うん。あたしは大丈夫。でも……あたし、ぜったい役に立たないよ? たぶん、逃げ回るので精いっぱいだと思う……」
「大丈夫です。レッドドラゴンは、俺が一撃で仕留めます」
Sランクの魔物の中で、レッドドラゴンの強さは確実に最上位だ。
だが、俺には自信があった。レッドドラゴンを、一撃で斬り捨てる自信が。
「えへへ、そっか。悠月くんって、やっぱりすごいねっ」
「そうでもないですよ。俺、学院だとFランクの落ちこぼれなんで」
「え? Fランク? 悠月くん、そんなに強いのに……?」
「まあ、はい。いろいろ事情があるんですよ」
100Fへと続く階段を、一歩ずつ進みながら。
俺たちは、そんな会話を続けていた。
「さっきも言ったと思うんですけど、俺、あんまり目立つのとか好きじゃなくて。学院では、自分の実力を隠してるんです。この魔装も、学院では使えないフリをしてます。まあ、それで気づけば落ちこぼれのFランクって感じです」
「……そうなんだ。だったらさ、悠月くんはどうして学院に通ってるの?」
「え?」
「あっ……ご、ごめんねっ。べつに深い意味があるわけじゃないの。ただ、なんていうか――探索者って、やっぱり目立つ職業だから。それなのに、どうして悠月くんは探索者を目指してるのかな……って、ちょっと気になっちゃって」
「それは――」
と、ついに俺たちは、100Fの扉へと辿り着く。
この扉を開ければ、ついにレッドドラゴンと戦うことになるだろう。
Sランクの探索者が束になっても敵わなかった、最強の魔物と。
「――その話は、ボスを倒してからにしましょうか」
「え? ……あ、うん。そうだよね、ごめんね」
「謝ることじゃないですよ。それじゃ、行きますね――」
そして俺は、ぎぎぎ……と、重い石扉を押し開いた。
同時。
ギロリ、という巨大な視線が浴びせられる。
俺たちの正面には、四足歩行の赤い竜――レッドドラゴンが、鎮座していた。
「っ……これが、レッドドラゴン。あたし、睨まれたただけで、足が……っ」
「アカネさん。ふたつだけ、約束してください」
「……え?」
「絶対にその場から一歩も動かないこと。そして、目を瞑ったまま開かないこと。――守れますか?」
「う、うんっ。わかった……」
アカネは、俺の言葉に従って目を瞑ってくれた。
それを確認してから、俺はレッドドラゴンへと睨みを返す。
正直……少しだけ、見くびっていた。さすがに国家主導の探索隊を撃退しただけあって、レッドドラゴンの放つ威圧は尋常じゃない。まさに、絶対的強者の風格だ。
(……まあ、仕方ないよな。さすがにここは、本気出しとくか――)
深く、呼吸をする。
俺は姿勢を沈めて、魔装へと全霊の意識を注いで――、
「力を貸してくれ、《
抜刀。
紫色の煌めきを放つ一閃を、解き放つ。
俺は、己の魔装――《宵闇の虚刀》の、真の力を発揮させた。
何もかもを無に還す、紫紺の斬撃が。
刹那、レッドドラゴンの巨躯へと飛来し――、
「――アカネさん。もういいですよ」
「え? う、うん……」
アカネが、目を開く。
そして、俺たちの視界には――、
――かつてレッドドラゴンだった塵の山が、ぽつんと存在していた。
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