2話「現状(1)」
ある日の昼辺り。風が緩く肌を撫でる程度に吹き、少し眩しく感じる程度に明るく照らされている。
ーとある町の冒険者ギルド内にてー
受付嬢「あ、冒険者さん。いつもお疲れ様です。」
冒険者「受付さんもお疲れ様です。あれが起こってからは資材運搬の依頼の受付とかで休む暇がないのではないですか?」
受付嬢「確かにそうですけど、でもいろんな人のお話が聞けるので楽しいです。あと、それは貴方もですよね?」
冒険者「まぁそうなんですけど。」
受付嬢「復興作業もそろそろ終わりそうですよね。」
冒険者「最後は広場……でしたっけ。」
受付嬢「そうですそうです。」
冒険者「あ、報酬と明日分の依頼入れに来たんだった。」
受付嬢「おっちょこちょいですね。報酬は…………こちらです。遠方だったので往復分の料金が追加されています。」
冒険者「うわ……結構高い。本当にこんなに貰ってもいいの……?」
受付嬢「貴方がよく受けている依頼は皆さんが拒否しているものばかりなのでその分のお礼としてちょっと高くなっています。」
冒険者「なるほど……。」
受付嬢「そういえばそろそろ試験が近付いてますけど、参加するんですか?」
冒険者「……できればしたいんですけど…………あのギルドと同じ場に居たくないし……。」
「受付嬢さん!頼みの物、置いとくね。」
気付けば近くに居たらしい。頼んでいた紙を確認してから礼を言う。
受付嬢「あ、ありがとうございます。」
「あと、要望とかで試験の時間をちょっとずらしてもいいんじゃない?」
受付嬢「……そういうのって受け入れてもらえるんですかね?」
「そのくらいならいいんじゃないの?」
受付嬢「上の人に頼んでみます。」
「うんうん。」
「あ、あと、明日こっちに冒険者回してほしいんだけど……できそう?」
受付嬢「内容はなんですか?」
「ちょっとお高いものの運搬でさ、護衛がほしいの。」
受付嬢「場所は」
「ここから数日かかる国かな。」
受付嬢「なら…………明日の依頼、この方の護衛にしてもいいですか?」
冒険者「……え?」
「この冒険者のランクは?」
受付嬢「B+です。次の試験でAになりますね。」
「え、そんなに良い冒険者を借りちゃってもいいの?」
受付嬢「大丈夫です。……本人次第ですけど。」
冒険者「細かい内容を聞いてから決めたいです。」
「わかった。内容を説明するからこっちに来て。」
冒険者「あ、はい。」
受付嬢(彼が今まで受けてくださった依頼は危険なものばかりですし護衛経験もあるので大丈夫ですね。)
「戻ったよ。受けてくれるって。」
冒険者「まぁ……はい。」
受付嬢「わかりました。ここから数日……滞在と往復で…………約11日間の依頼ですね。」
冒険者「……!?」
「あ、今回の依頼の報酬に装備を追加しといて!遅くなるけどいいの用意しとくから。」
受付嬢「わかりました。」
冒険者「あ、そろそろ帰ります。」
受付嬢は窓から見えた人物を確認する
受付嬢「…………まずいかもしれません。」
「裏口はどこ?私もそっちから出る。」
受付嬢「……こちらです。森の方を通って町に出てください。」
「ありがと。一緒に出ましょ。」
ー森にてー
「……静かにしててちょうだいね。通り過ぎるまでじっとしてましょ。」
冒険者の彼がその場でしゃがんで口を抑えている事を確認してから自分も口を抑えてしゃがむ
(この時間は異端審問官かカルト教団の信者が徘徊する時間でもあるのね……。覚えておかないと。……彼女が不安だけど、無理ね。時間が決まっているならどうしようもできないわ。)
もうそろそろ大丈夫だろうと思いつつ周囲を確認する為に立ち上がる
(物音は…無し。人影は…一般人のもの。周囲で騒ぎは聞こえないし、大丈夫そうね。)
「もう大丈夫よ。」
冒険者「それは、よかったです……。」
「……今日は大変だったわね。いつもこの時間に?」
冒険者「大体……はこの時間に。」
「そうなのね。」
冒険者の彼はその場で立ち止まる。多分、考えている事は同じだろう。
冒険者「……ちょっとだけ、見に行きたいです。」
受付嬢である彼女の安否確認。本当は確認する必要なんて無いけど、見ておかないと不安にはなる。
「えぇ。そうしましょう。」
多分……いつも通りの結果だろうけど。
ー少し燃えているとある町にてー
冒険者「……。」
「大丈夫。絶対生きてるわよ。」
冒険者「わかっていても、やっぱり……。」
「見た目が見た目だからかしらね。いつか死んでしまうんじゃないかって、腕が落ちたんじゃないかって不安になるのよね。」
冒険者「……あの受付嬢さん、凄い冒険者だったと聞きました。あと、あの姿は呪いの類だということも……。」
「えぇ、そうよ。あの子は凄い冒険者だった。S級でも倒せない魔物を一人で……まるで自由な風のように軽やかに動いて倒したの。でも、あの子は優しいだけの子だったから、人同士の争いが苦手で。それを知っていてパーティの人達は人同士の喧嘩によく巻き込んでた。その度にあたしがそいつらをぶん殴りに行ったわ。」
冒険者「……知り合い、なんですか?」
「あの子の近所に住んでたときがあったの。そのときの縁よ。」
冒険者「そうなんですね。」
「うん……。」
「あの子は結構無茶をする子でね、よく怪我をして帰ってきたの。その度に私の専属のメイドが救急箱を持ってあの子にかけ寄って_。あたしは救急箱の使い方をあんまり理解できてなくて、ずっとメイドに頼ってたわ……。
あの子の両親……その……育児放棄ってものなのかしらね?親が家にいないの。だからあたしの親が代わりに育ててたわ。」
「……ある日、あの子が帰ってきたの。今日も怪我をしてるだろうからってメイドが救急箱を持って外に出て………すぐに悲鳴が聞こえたの。後で行くつもりだったけどその日は大急ぎで家を出たわ。」
冒険者「……そのときの姿は……」
「ええ。化け物だった。でも、会話ができたし理性も面影もあった。だから、見えている傷口を消毒してからすぐに話を聞いたの。」
冒険者「呪いの原因は……?」
「……いつものパーティによる嫌がらせだったわ。偶然出会ったらしいのだけれど、そのときに近道として別の道を教えられたみたい。」
「……あ、着いた。続きは明日話すわね。」
冒険者「わかりました。」
窓からギルド内を覗く
受付嬢である彼女はすぐにこちらに気付いて手を振ってきた。なのであたし達も手を振り返した。
ギルド内はいつも通りだった。
いつも通り、受付の近くに絶望した顔の異端審問官が新しく吊り下げられていた。
お互いに安心した事がわかると、少し歩いて分かれ道で止まった。
「じゃあ、また明日。」
冒険者「……はい。また明日に。」
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