“桜井くん”は“桜井君”になってしまったのだろうか

 桜井くんの事、なんとなく気になってた。


 目で追ってる……事もあった。


 だからホワイトデーのチョコを差し出されて


『本命です』って言われて


 戸惑い断ったけれども……


 そのチョコと添えられた手紙が今、私の目の前にある。


 部屋の鍵を閉めて


 ドキドキしながらその可愛い封筒を開けた。



 。。。。。。



 佐藤美咲様


 突然の、予告無しの告白をお許し下さい。


 僕らは教室ではロクに接点も無いから……


 一軍とか二軍とか三軍とか

 ホントめんどくさいです。


 でも僕は確信してます。


 佐藤さんがそんな事にこだわる人では無いって!!


 僕には、あなたが“今”に居心地の悪さを感じてるって、思えてしまうのです。

 安原たちと話してるあなたがそっとため息をついたのを見てしまったから。


 ずいぶん前からあなたの事を目で追ってました。


 ストーカーみたいですみません。


 でも、あの一昨年の夏の日。一年生の夏期登校日に、久しぶりに出会った花壇のひまわりたちにお水と一緒に振り撒いていたあなたの笑顔に心奪われてしまったのです。


 そのとても幸せそうな笑顔でひまわりたちを慈しんでいたあなたに釘付けになってしまったのです。


 あなたは毎日毎日、花壇のお世話をしていますよね。


 でもピアノに向かう時のあなたが、綺麗に洗い清められ、丸く摘まれた爪の指先で、僕などは到底弾く事のできない『イタリア協奏曲 第1楽章』を繰り返し繰り返し練習していた事も見ていました。


 すごいなあ!!って思いました。


 そして、あなたに惹かれました。


 僕は“厨二”を患ったキモいヤツかもしれません。


 でも、あなたなら……


 例え、僕の事を受け入れるつもりが無くても

『サクラチル』(笑)だったとしても


『身の程しらず』なんて言う事は無いと信じるから


 手紙を書きました。



 あなたが好きです。



                                 


                  桜井洋輔



 。。。。。。




 ポーン!って


 青空に


 心を投げ出された気がした。



 心は白いボールになって


 あなたへ……桜井くんに向かって落ちて行く。



 もう遅いんだろうか??


 背を向けて去って行った“桜井くん”は


“桜井君”になってしまったのだろうか



 考えたら


 ぶわっと涙が溢れて


 エンエン泣いてしまった。


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