玉砕者は振り返らない!
昼休み、佐藤さんはたむろしている一軍の群れから早々に抜けて中庭の花壇のお世話をしに来る。
中庭の花壇は1年の頃からずっと佐藤さんの手が入っていて、夏のひまわりに囲まれて輝く笑顔を見せていた彼女に思わず目を奪われた。
で、その年の秋……合唱コンクールの練習の合間に音楽室で『バッハのイタリア協奏曲 第1楽章』を弾いている彼女…オレみたいに嫌々ピアノをやらされていたヤツには到底手の届かないこの難曲を無心に練習してた。そう、昼休みには土いじりしていたはずの指は鍵盤を触る為に綺麗に整えられてて……
そんな彼女の清々しさをオレは好きになったんだ。
そこまででオレは頭を振って夢想を振り切った。
意を決して花壇に屈みこんでる佐藤さんに声を掛ける。
「ちょっといいかな?」
声を掛けられてこちらを振り返った佐藤さんはジョウロを足元に置いてスカートを整えながら立ち上がった。
「えっ?! えっ?! どうしたの?」
「邪魔だった?」
「いや、そんな事ないけど……ちょっと、ビックリしたかな! 『どうして?』って」
「うん、まあ、昼休みに佐藤さんが花壇の世話してるの知ってたから」
「ああ、そうか、そうなんだ。だよね、1年からやってるもんね。目に付くよね」
「『目に付く』って言い方、可笑しくね? オレ、ウザいとか思った事ないし、逆に3年間続けているのを見てすごいなあ!!って思って……」
「あ、ありがとう」
オレ、思わずツバ飲み込む。
視線、変なトコ行ってないよな、誤解されてないよな。
「でさ、これ!」
汗ばんでも大丈夫なように、キモく思われないように手袋をした手で持っていたチョコを佐藤さんに差し出す。
「ええ??」
そりゃそういう反応だよな!でも、ここ勝負だ!! オレ!!
「ん、もちろんオレ!佐藤さんからチョコ貰ってないよ。安原とかとは違うから。だからこれはオレの意志! 本命チョコです!!」
こう言って思いっ切り下げた頭に佐藤さんの言葉の鉄槌が落とされた。
「あの、桜井君、ごめんね。私、友チョコあげた人にも言っているのだけど、お返しとかそういうのも関係なしで、ホワイトデーお断りしてるの。ごめんね、だから……」
下げた頭からの目線でカノジョの手が小刻みに震えているのが見えた。
オレは何て事をしてしまったのだろう!!
でもその時、声がした。
「美咲~!! 安原君が探してるよー! 早く行ってやんなよ!」
ああ、結局!! この女もそういう事か!!
オレはクルリと踝を返して無言で歩き始めた。
誰が振り返るものか!!
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