第12話

 無造作に請求書を受取り、説明も聞かずに足早に去っていたご家族。


……さっき、クラゲって、話してた?


まさか。



「荒河さん、失礼します」


 何かに取り憑かれたように、 私は、ドアをノックして部屋に入ってしまった。


「明日のお迎えの時間ですが……」


 お声掛けするも、荒河さんは眠っていた。


  そっとベッドに近寄る。

 すう……と軽い寝息を立てる横顔には、やっぱり見覚えがあった。

  髪は薄くなり、かなり痩せてはいるが、あの荒河さんに間違いない。


 三十年以上も経っているのに、私、覚えていた。


 小さな感動を抱きつつ、そのまま退室しようとした時だった。


 チリンチリン……と、涼しげな音が窓から聞こえてきた。


 振り返り、視線を移して、私は目を疑った。


 窓際に、不格好なクラゲが吊るされていたからだ。


黄ばんでしまったペットボトル。

雑に塗られたニス。

カラフルな貝殻。

沢山の短冊。


 近寄り、間近で見たそれは、やはり私が小学生の時に荒河さんにあげた風鈴だった。


「……まだ、持ってたんだ」


 どうして?


 つい呟いた私の声に反応し、荒河さんが目を開け、ゆっくりと此方を指差した。


「……それ、可愛いでしょう? うちの息子が昔、作ってくれたんです 」










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