第10話

 四十六歳。

 月日は流れ、私は、母が ″ 最後の恋″ をしていた歳になってしまった。


 息子は大きくなり、まだ学生ではあるが、殆ど家に寄り付かない。


 夕飯もバラバラで、殆ど一人で済ませる毎日。

 夫とは、不仲ではないし、離婚等も考えてはいないが、会話は髄分と減った。


  素麺を食べながら、ドドン! と空を突き破る音に、心にも穴を開けられる。


 今夜も、夏祭りの花火を家のベランダから一人で観た。

 子供が小さい頃、家族で、海辺まで打ち上げ花火を観に出掛けた事が、随分と懐かしい。


 

 子育てが一段落し、私は再び、病院の事務職に就いた。

 年齢も年齢だけに、受付事務だけではなく、医療スタッフのサポートもやる。

 仕事をしていると、家庭での淋しさを紛らわす事が出来た。


「退院される患者さんの所に、請求書を持って行ってくれない?」


「いいですよ、どなたですか?」


 退勤間際に上司に頼まれて、入院していた患者さんの病室に行くことになった。


「D病棟の303号室の荒河さんよ」


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