第9話


「不思議だよな。何でお義母さんって男にモテたの?」


 息子が昼寝をしている横で、私の話を聞いていた夫が失礼な事を言った。


「不思議って、何よ」

「だって、あの顔じゃん?」

「は?」


  私は母似なのだ。


「で、紀保の父親って今、どこにいるの?」


「私が成人する時に聞いた話だと、もう亡くなってるんだって」


「マジ?」


 その話を聞いた時、不思議と涙は出なかった。

 小さい頃、私は、お父さんっ子だったのに。


「会わないでいると、記憶って薄れていくのね」


 父の優しさも、面影も、色んな人と重なって、良く思い出せなくなっていた。




 ところで。

 私の漫画家という夢は、早い内に破れていた。


 夫も知らないのだが。

 実は、高校を卒業した後、コンテストへ投稿した作品が ″ 佳作 ″ を取った事があった。


 その漫画は月刊誌に掲載され、プロの漫画家への道が拓かれたように思えたのだが……。


 当時は、まだネットも普及しておらず、上京がそれの近道だったのは明白であったのに、私にはそんな勇気も自信も無かった。


 就職も決まっていたし、母からも反対されたのだ。

「絶対に苦労する」 と。


 その後、医療事務員として働いた私は、夫と出逢い、今に至る。















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