第9話
✜
「不思議だよな。何でお義母さんって男にモテたの?」
息子が昼寝をしている横で、私の話を聞いていた夫が失礼な事を言った。
「不思議って、何よ」
「だって、あの顔じゃん?」
「は?」
私は母似なのだ。
「で、紀保の父親って今、どこにいるの?」
「私が成人する時に聞いた話だと、もう亡くなってるんだって」
「マジ?」
その話を聞いた時、不思議と涙は出なかった。
小さい頃、私は、お父さんっ子だったのに。
「会わないでいると、記憶って薄れていくのね」
父の優しさも、面影も、色んな人と重なって、良く思い出せなくなっていた。
ところで。
私の漫画家という夢は、早い内に破れていた。
夫も知らないのだが。
実は、高校を卒業した後、コンテストへ投稿した作品が ″ 佳作 ″ を取った事があった。
その漫画は月刊誌に掲載され、プロの漫画家への道が拓かれたように思えたのだが……。
当時は、まだネットも普及しておらず、上京がそれの近道だったのは明白であったのに、私にはそんな勇気も自信も無かった。
就職も決まっていたし、母からも反対されたのだ。
「絶対に苦労する」 と。
その後、医療事務員として働いた私は、夫と出逢い、今に至る。
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