第8話

「こんな団地からは早く出たいの。あんた達が進学する前に」


 我が家を後にした若村さんを見送った後 、母がこんな事を言った。


 母の収入だけで娘二人を高校にやる自信が無かったのかもしれない。


 したかな母 。

 でも。弱い母。


 しかし、 結局のところ、母と若村さんは再婚しなかった。


 あちらの子供の反対だけが 理由ではないように思えた。



 それからも、母は男を絶やさなかった。

 家に来るようになったのは、名前も思い出せないほど影の薄い、 若い独身の男。

 その人は、我が家を訪れては、母に仕事の愚痴を話し、貧乏臭い夕食を食べていた。

 もしかしたら、ただの友達関係だったのかもしれないし、母の片思いだったのかもしれない。


 けれど。

 母の ″ 女 ″ の部分は、私が高校生になると、嘘のように姿を消した。

 今振り返ると、母に更年期がやって来たんじゃないかと思う。








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