第7話

 ある月曜日の朝。

 登校の支度をしようと、妹と共有の四畳半の勉強部屋に入ろうとした時だった。


 引き戸だったのだが、いくら引いても開かない。妹と力を合わせても無駄だった。

 何か引っかかってるらしい。


「何してるの? 遅刻するよ!」


 母も加勢したのに、びくともしなかった。


「遅刻しちゃう!」


 妹がとうとうべそをかいてしまった。


 妹の泣き顔に弱い母は、「そうだ」と言って何処かに電話をかけ始めた。


「女手じゃ開かなくて!」


 どうやら若村さんに助けを求めたようだ。こんな朝っぱらから。

 私は、母の他人に頼るこんな所が子供の頃から嫌いだった。


 すると、十数分後、その人は現れた。


「呼び出して御免なさいね」


″ おはよう ″ や、″ 初めまして″ の挨拶も抜きで、ドスドスと家に上がってきた若村さん。 その姿を見て、私は、ある人を思い出した。


 母に暴力をふるっていた、あのグズ男の事を。


「退きな」


 別人で顔も似てないのだけど、お酒の残った赤ら顔や、パンチパーマ、鋭い目付きが、嫌な過去を彷彿とさせた。


「開かねー! 何でだ?」


 若村さんは、壊れんばかりの勢いで、戸をガタガタと揺らし始める。

 母と妹と三人で見守る中、戸が突然、ガラガラッ! と左に流れた。


「開いたっ!!」


 部屋に入ると、戸が開かなかった原因が判明。

本棚が倒れて、落ちた本が何冊もレールを塞いでいたのだった。


  それを見た若村さんが、私と妹の頭を軽く叩いた。


「もっと部屋を片付けんか!」


 何も叩かなくても……。(しかも初対面)


 こんな怖い男よりも、荒河さんの方がずっと良いのに。

私には、母の好みが理解出来なかった。




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