第4話
✜
今まで嗅いだ事のない、香ばしい匂いが漂う、高級鰻の店。
「この前、風鈴ありがとうね」
秋の始め、荒河さんが私達を食事に誘ってくれた。
赤の他人の子供から貰った手作りの風鈴。さほど嬉しくも無かっただろうに、
「おじさんところ、女の子居ないから、何が良いのか分かんなくて」
生真面目な荒河さんは、その御礼だと言って、私と妹にお揃いのポーチをくれた。
ピンクのレースで出来たそれは、小学生の私達が使うには、大人っぽいと言うか地味なもので。
「ありがとうございます、旅行とかに良いわね」
ちょっとガッカリする私達の代わりに、母が御礼を言った。
私も妹も、″他所のお父さん″ である荒河さんには、なかなか心を開かなかったが、
「うちの息子達は、もう一緒に外食に行かなくて」
荒河さんは、こんな私達でも「可愛い」と言って、こうやって食事に連れて行ってくれる優しい人だった。
「紀保ちゃんは、将来、何になりたいの?」
鰻を頬張る私に、荒河さんが聞いてきた。
その頃の私の夢は、漫画家になるという、かなり非現実的なもので、それでも自分にはその道しか無いと思うほど、漫画や絵が好きな小学生だった。
「……漫画家……」
ボソッと答えると、母が口出ししてきた。
「この子ったら、漫画ばっかり読んでるんですよ! 人の家に行っても、漫画本あれば没頭して言葉も発しない」
母が言ってる事は本当だ。
親戚の家や友達の家に行っても漫画本があれば滞在中は、ずっとページを捲っているタイプだった。
「本当に漫画が好きなんだねぇ」
その時の荒河さんは、半分呆れたような声を出していた……ようにその時は感じていた。
過度の漫画好き=根暗=オタク。
世間がそう捉えていることを、小五の私でも分かっていたから余計に。
でも………――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます