第3話

 二歳下の妹は、貝殻でペンダントを作るのだという。


 貝殻にチェーンを通す穴をあけることも、 父親が居ない我が家では、それは自分達で成し遂げなければならず、母が仕事に行ってる間に、昼御飯も忘れて夢中で作った。


「ただいまー、あら、良い物出来たじゃないの」


 帰宅してきた母が、私達の作品を見て、おざなりに褒めた。


紀保きほは、何を作ってるの?」


 母が、私の未完の物を見て首を傾げた。


「風鈴だよ」


 私は、カットしたペットボトルに色付けした貝殻をくっつけ、それに紐とビーズを通した。鈴や短冊もぶら下げて、やや大きめの風鈴を作ったつもりだ。


 この時は、まだ、1.5㍑のペットボトルしか出回っておらず、始めに作ったそれは、風鈴には見えなかった。


 なので、二個目のは、台所にあった醤油のボトルを中身を移しかえて使用した。

チリンチリンと振ると、まだ醤油の香りがしていた。


「荒河さんが紀保の手首の事、まだ気にしてたわ。本当に申し訳なかったって」


 母が、夕飯の支度をしながら言った。


「別に荒河さんが悪いわけじゃないのにねぇ」


 私も、あの人がそんなに気に病む必要はないと思っていた。


「自分の子供じゃないから余計なのかもしれないわね」


 母の言葉に、荒河さんの家庭を妄想する小学五年生の私がいた。

 あんなに頼もしくて、優しいお父さんを持つ子供は、きっと幸せなんだろう。

 うちみたいな貧乏臭い団地にも住んでないだろうし。


「紀保、その風鈴の一つ、荒河さんにあげたらどう? 海の御礼に」

「えっ」


  母の提案に、思わず首を横に振った。

 やだよ。

こんな手作り感満載の不格好な風鈴。


「いいじゃない。こんなに沢山あるんだもの。荒河さん、喜ぶと思うわよ。あの海が想い出に残ったって!」


 母は、今はまだ上機嫌だが、このまま私が拒否し続けると、いずれ鬼になるのが容易に想像できた為、私は、大きい風鈴を荒河さんにあげることにした。

 少しでも綺麗に見えるように、貝殻にはラメとニスを塗った。


 そして。

折角大きいサイズなので、短冊と鈴を沢山付けてやった。


 ゆらゆら揺らすと、どう見てもクラゲにしか見えなかったが、それはそれで記念になると思い、母の手に託した。


 子供だった当時は無自覚だったのだけど、かなり嫌味な贈り物だと、今なら思う。




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