第10話
学校の屋上で母と電話で話したあの日、
母と自宅で会った。千紗は留守にしていた。
「…ママ。」
「どうしたの。」
2人がけのダイニングテーブルで話していた。
「千紗とやった。ちゃんとじゃないけど、やった。」
「それで悩んでたの?」
「うん。俺、、千紗の『男』になりたくない。ずっと…ずっと…子供でいたい。けどずっと子供でなんて居れない…。」
ママは僕が泣くのを我慢しているのに気付いて後ろから抱きしめてくれた。
「流ちゃん。ママの前ではずっと子供でいていいから。だってママには小さい時の記憶しかないから。私はあなたを何度も捨てたの。だからいように使っていいから。」
『そうじゃない!』と喉元まで出かけたが我慢した。この人もこの人で罪悪感の中できっとこの人なりに僕を思ってくれていたはずだから。
すると、千紗が帰ってきた。
「ただいま…」
「おかえり。ごめんね。お邪魔してた。もう帰るから。」
「いい。」
「え?」
「だから帰んなくていい!!」
僕が声を荒らげると母は驚いていた。
「ご、ごめんね。」
「謝んなくていい…ママは悪くない…けど謝んなくていい…ママは悪くない…悪くない…悪いのは僕だ。悪いのは僕だ…僕が悪いんだ…」
「え?…」
僕は耳を塞いで目には光が無くなっていた。
すると、
「お姉ちゃんどけて。」
と千紗が来て僕を体ごと向き合わせて、
「流星、千紗の目見て。」
と僕の目を見て言った。
でも入ってこなくて、千紗は僕を抱きしめてくれた。抱きしめて、頭を撫でてくれた。
「お姉ちゃん知らないでしょ。『あの家』から流星を連れてきた日から流星はこうだった。」
「…千紗、ごめん。」
「もう別にいいよ。でも最近なかった。なんでか知ってる?」
「…。」
「…知ってるんだね?」
「言わないで!!」
僕は叫んだ。
「なんで?千紗に教えてよ。」
「…言えないよ。さすがにもう言えないよ。」
「じゃあなんでお姉ちゃんには言えたわけ?」
「…」
「母親だから?お姉ちゃんが産んだから?」
「…」
「違う!!」
「じゃあなんで?」
千紗は真っ直ぐに僕の目を見ていた。
「…一昨日、俺が学校で死のうとしてたらママが電話してきてくれた。嫌な予感がしたって。」
「なんで死にたくなったの?」
「……。」
「言えないの?」
「…千紗。」
「お姉ちゃんに聞いてない。」
「千紗。」
「だから聞いてないって!!」
直後母は千紗の頬を叩いた。
「あんたちょっと冷静になりな。あたしに気に食わないのは分かる。でもあんた、流星の何を見てきたの?あたしの何倍も何十倍も時間も手間もかけてきたよね?」
「だからそれが何?!」
「うるせぇ!!やめろって!!」
僕はまた千紗の部屋に入って千紗のベットに潜り込んだ。
「…あそこって千紗の部屋じゃなかった?」
「そう…小さい時からずっとあれ。爆発するとああやってあたしのベットの中に入るの。」
「可愛いじゃない。今でもそんなことするなんて。」
母はわざと千紗の目を見ながら言った。
気付けとばかりに。
「可愛いけど、これからを考えるとね。いつまでもあたしも元気じゃないし、歳もとる。いつまでも傍にはいられない。」
「それ、流星に言った?」
「言っては無いけど、中学の頃から流星が仲良くしてる子との結婚の話をしたらまたああなっちゃった。」
「…千紗。あの子を産んだのは私。あくまで私。あんたはそこまで背負うことない。産んだ責任は私にある。今更だけど、ここまでいい子に育ててくれて本当にありがとう。」
「……」
千紗が涙で溢れると母が抱きしめた。
「千紗、本当にごめんね。流星押し付けて。大変だったよね、なにも教えてなかったから。…でもね、だからね、流星はね言えなかったの。そんなあんたの苦労を直接わかってる子だから言えなかったの。」
「どういう事?」
母は千紗の頭を撫でながら答えた。
「流は、いつまでもあんたの子供でいたいの。大人になりたくないって。でもそんなこと言ったらあんたの苦労が水の泡みたいになるって思わせるって。無駄だったんじゃないかって思わせるって。でも誰にも取られたくないからそれなりに大人ぶらなきゃいけないしワガママも我慢しなゃいけないって。あたしはあんたが羨ましいよ。あたしは産んだだけ。あんたが羨ましい。ここまで流星に思わせるんだから。」
すると千紗は母から離れて袖で涙を拭いて千紗の部屋のドアを開けた。
母はドアの前に立っていた。
「流星!!」
「…」
「流星!!」
布団を捲ると毛布が巻いて置いてあった。
「あいつ……」
「いないの?」
「お姉ちゃん電話かけまくって!出るまでかけて!!あたし探してくる!!」
――――――呼び出し音。
『ミリヤ、流星行ってない?連絡来てない?』
『来てないよ。どうしたの?』
『あいつ居なくなったの!!ミリヤも探して!!あたしじゃ無理かも!!』
『なんかあったの?』
『後で話す!!』
――――――――――――。
その頃僕は駅にいた。
駅員さんに教えてもらって、切符を買って電車で三時間の距離。そこから船で2時間。ある場所へ向かっていた。
――――――――――――。
ミリヤはすぐに千紗へ折り返した。
『千紗、今どこ?』
『まだ家だけど。』
『あいつがいきそうな場所わかる?』
『わからない。ミリヤは?』
『無駄足になるかもしれないけど可能性としてはあるかも。』
『どこ?!』
『でももし違って家に普通に帰ってきた時に千紗がいないと可哀想だから私だけで行く。』
『…どこなの?』
『【
『あそこか…。かなり時間も距離もかかるよ。行ける?』
『わかる。いつか行こうって流星と約束してつい最近も一緒に行き方確認したから。』
『…頼んでいい?お姉ちゃんが家で待つよりあたしが待ってたほうがいいから。…あ!お姉ちゃん行かせる。ミリヤ行くならお姉ちゃんと行って!』
『いいよ。一人で行く。多分、今はわたしの方がいい気がするから。』
『…わかった。なんかあったら絶対なんでもいいから連絡して。いい?わかった?』
『わかった。』
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