第2話

千紗との日々は凄く安心できた。

母との間では全くと言っていいほど会話がなく、感情表現もなかった。


けど、何故か千紗には喜怒哀楽を見せられていて、ひとつひとつ教えてくれる言葉に対しても反応し、共有し、幸せだと感じていた。



「ちーた、ちーた、」

「なーに?」

「ちーた、、ゆーう、ちーた、ゆーう、」


僕が普段の千紗の真似をして千紗の鼻に指を付けて自分の鼻に指をつけると、


「そうだね、千紗と流だね。えらいねー。」


千紗は僕をことある事に抱きしめてくれた。


また少し大きくなってからわかったのだが、

千紗の部屋の本棚には大量の育児本があった。

本当に僕の為に時間とお金を割いてくれていた。


僕が言葉を覚えるまで時間はかからなかったが、

発音が悪くて病院の先生から『沢山話してあげてください』と言われていた。


僕も千紗を喜ばせたくて、でもやっぱり抱きしめてほしくて、褒めて欲しくて、一生懸命千紗に話しかけていた。



千紗も千紗で僕を目に入れても痛くな位可愛がってくれていた。そしてまた何をするにも僕を最優先にしてくれた。


僕が呼べば振り向き笑顔を見せてくれていた。


知らない人は、

『ママにベッタリだね。これじゃママも大変ね』と言うが、


千紗はいつもそれを、

「いいんです。ベッタリな位があたしは可愛いしどこにいるかもすぐわかるので丁度いいんです。」と返していた。


千紗は覚悟を持って僕を育てていた。


千紗とはよく言い合いもしていた。

でも上手く言葉にならなくて、


「嫌ー!!」ってよく千紗のベットに隠れていた。

でも絶対に千紗に対して『嫌い』とは言わなかった。そう感じたことが一度もなかったから。



それも千紗からすると可愛い面の一つだった。

千紗がパソコンに向かって仕事をする時は千紗との後ろで大体は寝ていた。


一緒に生活し始めた頃はまだ寒く、僕はよく千紗の寝巻きのパーカーを引っ張り出して抱えて寝ていた。


それは高校生の頃まで続いていた。

たまにそれを見られて

「それ、あたしのだけど。」と声をかけられていた。

でも僕は、「ううん、俺の」と答えていた。

「なんであんたのになるの。ついさっきまであたしが着てたんだけど」と言われて、


「千紗のものは俺のもの。」と答えると、

「お前はジャイアンか」と返される。

「いいじゃん、俺基本軽い潔癖だし、千紗のもの以外受付けないし」とまた返すと、

「なんもよくないよ。あんたそんなんで彼女とか結婚とか大丈夫なの?」と聞かれもしていた。


僕はその時によく返していた言葉は

「いいの。俺、千紗としか結婚しないから」だった。


「なんであたし?ほかでいいでしょ」と言われても

「ううん、俺千紗がいい。」と答えていた。


千紗は呆れながら「あたしにあんたの子供産めって?」と言われもしたが、

「産まなくてもいいよ。させてくれれば」


と真顔で答えていた。


「あのね、どうせなら若いことした方がいいと思うけどな」とさらに返されるので、


「…それがいいと思うの年上だからだよ。俺からしたら千紗は凄く素敵な人だよ?したいかしたくないかってそんな下品な目では見てないけどさ、でもどうせするなら千紗がいいなっていつも思ってるよ?」

「でもその答え出すのは誰かとしてからでいいんじゃない?」

「何人かした。その結果の今。まぁね、もしかしたら千紗でも無いかもしれない。それは分からない。でも、千紗ならもっと違う楽しみ方が出来るかもしれない。そこに囚われない所でさ。」


というやり取りになったあと、


「私の気が向いたら相手してあげるわ」と冗談混じりで笑っていた。


「俺と千紗は親子であって親子じゃないんだ。だから、結婚はできるよな?」

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