第6話

深夜、除夜の鐘の音が遠くに響き、しんと静まった部屋の中で、庭思と装雁は静かな瞬間を共有していた。時計の針が新しい年を告げると、装雁が軽く息を吐きながら言った。


「2025年1月1日になるんだね。」


「夜中だけど。」庭思は微笑んで答える。


しばらく沈黙が流れた後、装雁は照れくさそうに言った。「それで、キスするんだよね。」


庭思は少しだけ頷いてから言う。「そ!。アメリカのニューイヤー・イブっていうのを、真似してね。」


「それ以外に意味あるの?」装雁は少し考え込みながらも興味を示す。


「新しい年おめでとう、ってことでしょ。」庭思が軽く肩をすくめる。


装雁はその言葉に頷きながら、「なるほどね。」とだけ言った。彼女の顔に、少しだけ理解色が浮かんだ。


その瞬間、時計の針が12時を指した。しんと静まり返る部屋で、除夜の鐘の音が遠くに聞こえる。


装雁が少し照れながら言った。「新年に敬意を表してキスするんだよね?」


「そうだよ。」庭思は少し笑って答える。「新年こんにちはって意味で。」


装雁は少し困ったような顔をしてから、ゆっくりと庭思の方に近づく。「それ以外に意味あるの?」


庭思は目を閉じて、静かに答えた。「私たち、おめでとうってこと。」


「なるほどね。」装雁は頷き、そしてそのまま庭思に顔を寄せた。二人の距離が縮まると、何も言わずに、静かなキスが交わされた。深夜の静けさの中で、二人の心が一つになったような感覚が広がった。


キスが終わると、装雁は少し照れたように顔を赤くしながら言った。「じゃあ、リビング行こうか。」


庭思も笑いながら頷く。「うん、お年玉もらいに行こう。」


二人は手を取り合い、部屋を出てリビングに向かった。リビングは温かい光に包まれており、家族のものたちが寝静まった静かな空間だった。床に敷かれた絨毯に足音が響き、二人は慎重に歩みを進める。今年も準備されたお年玉がきちんと並べられている。


「まだ、お年玉もらえるんだよね。」装雁が少し冗談めかして言った。


庭思はうなずきながら答える。「うん。」


二人はリビングのテーブルに近づき、それぞれのお年玉を手に取る。庭思は包みを静かに開け、装雁もそれに続く。リビングの温かな空気に包まれ、二人は改めて新しい年の始まりを感じながら、その場に立っていた。


「毎年これをもらうの、なんか不思議だよね。」装雁が微笑みながら言う。


庭思は穏やかに答える。「大事なのは感謝する心。」


装雁は静かに頷き、二人はお互いの存在を確認するように見つめ合った。


リビングの空間は、家族の思い出が詰まった暖かさに満ちている。二人はその空気に包まれながら、お年玉を手に取り、今年一年が良い年であることをお互いに願っていた。


そして、時計の針が再び動き出し、新しい年が本当に始まったことを感じる。二人の間にあたたかな静けさが広がっていく。


「今年も。」装雁がにっこりと微笑んだ。


庭思も穏やかに答える。「うん、よろしく。」


二人はその言葉を交わしながら、リビングの静かな空気を感じ、また一歩新しい年を二人で歩み始めた。

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