第5話

大晦日、部屋の中はどこか静かな緊張感に包まれている。時計の針が12時を指し、除夜の鐘が遠くから響いてくる。その音が一瞬、全てを支配するように感じられる。でも、それが何を意味するのか、誰も本当には理解していない。


「大晦日の12時になって除夜の鐘が鳴って、それでニューイヤー・イブだからキスする?とかどう?」と、装雁が少し真剣な顔をして聞いてきた。


庭思は目を細めて、少し笑いながら答える。「な?なんで?」


「だって、アメリカではニューイヤー・イブにキスするんだよ。」


「ここアメリカじゃない、日本国家?国権?。」


「民主主義の国?かも?資本主義?」


「それ同じ意味。」庭思は、少し意地悪く笑う。装雁は首をかしげながら考える。「ニューイヤー・イブのキスって意味あるのかな?」


「めでたいから。」


「めでたくない人には、どうすればいいの?」


「めでたくないの?」


「みんなに祝福されてるって感じしないから。」


庭思はその言葉に一瞬黙る。除夜の鐘の音が部屋を一層静かに包んでいる。鐘の音が時を告げるたびに、空気が少し重く感じる。装雁はその音に耳を澄ませて、続けた。


「思いっきり鳴ってるじゃん、除夜の鐘。」


「あれれ?祝福なの?」


「煩悩を叩いてるんだよ。」庭思は冷静に答える。


「祓ってるんだよ。」装雁が微かに笑う。


「煩悩って祓えるものなの?」


庭思は少し考えてから、頷いた。「宗教的な儀式って…。それはお寺とか寺院とか、そういう人たちの出番ってことで成立してるってことじゃないの?」


装雁は眉をひそめる。「営業活動?営利活動?って感じもする。」


「お金が入ってくるパターンは洗脳。」庭思は、どこか皮肉を込めて言う。


「煩悩派?煩悩、煩悩を祓うために、お金払わなきゃいけないっていうのは、なんか煩悩がもっと増えそうな気がするんだけど。」装雁はやや真面目な顔をして言う。


庭思はその言葉にふっと笑みを浮かべる。「あ、確かにそれはあるかも。」


二人はしばらく黙って、テレビの音だけが部屋を満たしていた。新年のカウントダウンが迫る中、二人の間に流れる空気が少し緩やかになった。除夜の鐘の音は、徐々に遠く、そして穏やかに響きながら、夜の静けさを取り戻していった。


装雁は、窓の外を見ていた。


「新しい年が来る…。」装雁は自分に問いかけるように言う。


「それが、まさに人間らしいんじゃない?」庭思がようやく答えた。目の前に広がる未来に対する希望や不安を、言葉で表現することは難しい。それでも、二人の会話はその気持ちを少しずつ明らかにしていた。


装雁は軽く肩をすくめる。「それもそうだよね。だからこそ、こうやって何か新しく?自分たちがいる世界が更新されてる?かもしれない。」


庭思はその言葉に同意しながらも、少し遠くを見つめていた。「結局、意味なんてないのかもしれない。でも、それでもみんな、年を越すんだよね。」


装雁は小さく笑って、テレビの音に耳を傾けた。除夜の鐘の音は、少しずつ静まっていった。新しい年が来る準備が、確かに始まっている。

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