第3話
夜が深まると部屋の中もだんだんと年越しの雰囲気に包まれていった。外では、除夜の鐘が近づいている音が遠くに聞こえてくる。装雁と庭思は、こたつにくるまりながら、親が作ってくれた年越しそばを食べていた。湯気が立ち上り、温かいそばの汁が心地よく、二人は無言でしばらくその味を楽しんでいた。
「ラブレターっ…代筆していると、なんか自分が本当に恋して書いてる気分になるよね。」装雁がふと思い出したように言った。
「うん、わかる。でも、返事ってことになると、ちょっとややこしいよ。」庭思は箸を止め、考え込んだ。
「だよね…返事って言うか、ラブレターでしょ?」装雁が疑問を投げかける。
「うーん、混乱するよね。」庭思が小さく笑いながら答える。
「…酔ってるみたいな気分。」装雁が照れ笑いを浮かべながら言うと、庭思はすぐに首を横に振った。
「笑、酔ってはないけど…年越しそばで酔ったって感じ?」庭思が冗談混じりに言うと、装雁もくすっと笑う。
「そうじゃないけど。」装雁は顔を赤らめながら、ちょっと照れていた。
「ラブレターの代筆って…、絶対ばれたら相手に失礼だよ。」庭思が突然真剣な顔をして言う。
「うん、まあ…確かに。」装雁も頷きながら、しばらく考える。
「出した相手に『自分で書きなよ』って言われるかもしれないじゃん。」庭思は少し不安そうに言った。
「確かに。」装雁が一層深く頷いた。「もしそのことがバレた時、どうするんだろう?」
「!」庭思がきょとんとして顔を上げる。
「あの時のラブレター、実は誰かに書いてもらったって気づかれたら、どうするんだろうって。」装雁は少し笑いながら話すが、同時にその問題が気になる様子だった。
「うーん、それって結構厳しい?」庭思が考え込んだ。「でも…その時にはもう別れてるかも?」庭思が軽く肩をすくめた。
「それって…なんかそれじゃ、すごい、一過性な感じ。」装雁は少し驚いたように言う。
「いいのかな?本人たちが良ければ?」庭思は無邪気に言ったが、少し深く思うところもあるようだ。
「The恋愛、Theインスタント。」装雁は少し寂しげに言った。
「恋愛に求めすぎてると思う。」庭思は、まるで大人のような表情で答える。
「何が問題なのかって言うと…人生にはもっと色々やらなきゃいけないことがあると思うんだよ。」装雁は、少し真剣な表情になり、言葉を選んだ。
「たとえば…?」庭思が興味深げに尋ねる。
「たとえば…勉強とかさ、アルバイトとかさ。」装雁は少し間を置きながら言った。「それってつまらないことだけど、そういう普通のことをきちんとやることの方が、大切なんじゃないかなって。」
「うん、それは確かに。」庭思は静かに頷く。
「面白い人生を目指しすぎるのが問題なの。普通でいいってこと。」装雁は最後にちょっとだけ、笑顔を浮かべて言った。
「普通でいいって、いいね。」庭思は、装雁の言葉に賛同し、にっこりと笑う。
二人は、またしばらく無言で年越しそばを食べながら、それぞれの思いを胸に秘めていた。除夜の鐘の音が、部屋に響き始める。あと少しで新しい年が始まる。それでも、二人は大きな期待を抱かず、静かにその時間を味わっていた。
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