第2話

大晦日の夜、装雁と庭思はこたつに入って、みかんを食べながらテレビを見ていた。画面には紅白歌合戦や、年越しの特番が流れ、にぎやかな音楽や笑い声が部屋に響く。でも二人は、その番組に夢中というわけではなかった。むしろ、彼女たちはその内容に少しずつ疑問を感じながらも、何となく画面を見続けている。


「笑いすぎじゃない?テレビの中のお客さん」装雁が、顔をしかめながら言った。


「だって笑うことが目的でしょ?テレビって。」庭思は、何の疑問も抱かずに答える。


「お笑い番組…あんまり笑う内容じゃないと思う。」装雁が首をかしげる。


「面白くないってこと?」庭思がきょとんとした顔で尋ねる。


「…そんなに??」装雁はまだ少し納得いかない様子だ。


「笑わせるのがお笑い番組のテレビの役目。笑うために見るんだよ。」庭思は不思議そうに答えた。


「面白かったら無料で見られない、本当に面白かったら、お金払って見るようなシステムにして放送しない?」装雁はちょっと皮肉っぽく言ってみた。


「確かに、お金払ってないもんね。」庭思は、その言葉に少し納得したように頷く。


「それは結局、面白くないからお金払わなくていいってことなの?」装雁が言うと、庭思は少し考え込んだ。


「?それだと、テレビ局って…」庭思は急に思い当たったように言葉を続けようとした。


「テレビ局は、CMを流すことでお金もらう。」装雁がその答えをすぐに返す。


「うん、それで。」庭思は無言で頷く。


「それだけだよ。」装雁は、肩をすくめて少し諦めたように言った。


「じゃあ、面白いテレビ作る必要ないってこと?」庭思は、少し考え込みながら、装雁を見つめた。


「多分、作る必要ないかな。」装雁は、答えながらも少しの間、考え込んでしまった。彼女の言葉が、意外と深いような気がして、庭思は少し黙り込む。


部屋は、また静かになった。テレビの音は響いているが、二人はその音を聞き流しながら、自分たちの思索に沈んでいた。お互いの考えに共鳴する瞬間があり、また少し静かな時間が流れた。


「テレビ無くても?」庭思が、ふっと言った。


「?」装雁が顔を上げると、庭思はにやりと笑う。


「大晦日を家で色々考えるって、ちょっと面白い。」庭思は、みかんをまた一つ口にしながら、言った。


「そう?かな?。」装雁もふわっと微笑んだ。テレビの中では、何も特別なことが起きていなくても、二人にとってはその時間がとても価値のあるものに感じられた。


そして、またしばらく二人は、こたつに包まれたままで、みかんを食べ、テレビを見ながら、それぞれの思いを静かに感じていた。

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