ニューイヤー・イブ
紙の妖精さん
第1話
大晦日の日、部屋の中は暖かく、心地よい空気に包まれていた。外の冷たい風や雪が窓を叩く音は、まるで遠くの出来事のように感じる。部屋の中には、こたつがあり、ふかふかのこたつにくるまって装雁と庭思はゴロゴロしている。テレビでは、年越しのカウントダウンが迫り、紅白歌合戦の華やかなシーンが映し出されているが、二人はあまり集中していないようだ。どちらかというと、寒さを忘れてぬくぬくとこたつに入りながら、ただリラックスしている。
「ねえ、庭思、みかんおいしいね。」装雁がこたつの中で、皮をむきながらつぶやく。
「うん、みかんって、この時期だけだもんね。」庭思もみかんを一つ手に取り、しなっと皮を剥く。その小さな音が、部屋の静けさに溶け込んでいく。二人は静かに、みかんの甘さを楽しんでいる。
しかし、しばらくすると、庭思が机に広げていたレターノートに目を移す。「あ、ラブレターの代筆、まだ書き終わってないんだよね。」と、ちょっとだるそうに言った。彼女の手元には、何枚かの手紙が積み重なっている。見た目は可愛らしいけれど、文字の内容はまるで別の世界にいるかのように、しっかりとした大人の言葉を使っている。
「じゃあ、続きを書こうか。」装雁が答えると、庭思は少しびっくりしたように目を丸くした。
「うーん、なんかもう飽きちゃったよ、この仕事。」
「これってアルバイトだから。真面目にやろうよ」装雁が軽く肩をすくめる。
「いくらもらえるのかな?」庭思がみかんを口にしながら聞く。
「一通500円かな。」装雁が少し恥ずかしそうに言った。
「え、それ、安くない?」庭思が眉をひそめる。「一通で500円って、少ないよ。」
「うん、物価が高くなってるからさ…。」装雁がやや言い訳がましく答えた。
「ああ、そうか。」庭思は納得したように頷いた。「それって、ダンピングだよね。」
「ダンピング?」装雁は、目を見開いて庭思を見つめた。「なんでそんな言葉、知ってるの?」
「薄利多売はあんまりよくないでしょ?」庭思が答えると、再び装雁は驚いた顔をした。
「すごい、薄利多売って言葉、知ってるんだ。」装雁がその言葉を口にする。庭思は照れくさそうに頷いた。
「うん、辞書に書いてあったんだもん。」庭思は自信満々に言うと、装雁はその言葉を聞いて笑い出した。
「辞書に?え、どうしてそんな言葉、辞書に載ってるの?」装雁はその場で爆笑しながら、みかんを頬張る。
「だって、私はちゃんと調べてるんだよ。」庭思は、少し照れながらも、自分の知識に自信を持って答えた。そのやり取りをしているうちに、二人はまた笑い出し、笑顔が広がった。
その後も、こたつの中でみかんを食べながら、二人は次々とラブレターを代筆し続けた。内容に少しずつ工夫を加えたり、時々おかしなことを言いながら、そんな小さな仕事を楽しむ時間が続いていった。新年の瞬間が近づく中で、彼女たちはとても心地よい、ゆったりとした大晦日を過ごしていた。
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