第11話 暗闇と過去

「なぁ」

「ん?なに?」

「重くないか?僕が持とうか?」

「ふふ、ありがと。でもあたし少しは鍛えてるから大丈夫よ」


今、彼女と僕は6,7歳くらいの子供を持ちながらスラム街に戻っている途中で道が分からないので子供の指さす方向に進んでいるところだ。


「つぎはあっちー」


子供は相変わらず道を指さしている。心なしかどんどん地下に潜っているような気がするが…階段を下り、ゴミの山を登り、薄暗いゴミで出来たトンネルを抜け、さらに奥まで行って、板が立てかけられており、それをどかすと今までのごみの道とは明らかに違い、人工的なトンネルが現れた。四角い空間でどこか整理されたそこは小奇麗だった。奥まで行くとぼろきれで仕切られた小部屋があった。


「ここがおうち」

「随分入り組んだところにあるのね」

「ママがこっちのほうがあんぜんだって」

「…そうね…」


安全…か…どうして普通に生きたいだけなのにそうやって恐怖におびえなくちゃいけないんだ?僕たちは皆、平等なはずなのに。僕はなんだか悲しくなった。それはそうとバルゼーはしきりにあたりを見回してなにかをつぶやいていた。その後、少し悩んだ後、布で仕切られた小部屋に入った。


「お邪魔します」


彼女はぼろきれをたくし上げて中に入った。中には粗雑な家具と天井にはランプがあり、地面には薄汚れたマットレス、そしてその上に寝ころんでいる女性がいた。部屋は全体的に臭く、暗かった。女性は病気のようで顔色が真っ青で身動きをしていなかった。


「…この人がお母さん?」

「うん」

「お母さんはいつ頃からこの状態?」

「え?」


子供はきょとんとした様子で答えた


「えっとね、4日くらいまえにご飯をたべたらあんまりうごかなくて…」

「…まあ食中毒かしらね…ご婦人?少しだけよろしくて…」


彼女はバッグの中からガラスの小瓶を取り出してそれをゆっくりと飲ませた。2、3度せき込んだ後、ゆっくり目を開けて上体を起こした。


「気が付きましたか」

「…夢かしら…バルゼー様が見えるわ…」

「あっえっ私を知ってるの?」

「…本物?本物だぁ!」


彼女はばたりとまたマットレスの上に倒れこんだ。バルゼーは明らかに困惑している。 


「君って結構偉そうな役職してたし有名なんだね」

「ま、それなりにはね」

「それにしては今まで君あんまりちやほやされなかったね」

「それは…色々あってね…」


彼女は目を背けた。心なしかどこか悲しそうに見えた。そのことを聞こうと思ったとき、またお母さんが目を開けた。今度はちゃんと元気そうだ。彼女はあたりを一瞬あたりを見渡すと目についた子供を思いっきり抱きしめた。子供の笑い声とお母さんの笑い声が薄暗い部屋を少し明るくした気がした。少し落ち着いた後、バルゼーは彼女に事の端末を話した。


「それは本当にありがとうございます…なんとお礼をしたらいいか…」

「いえ、ただの…ただの気まぐれですよ…正しいかどうかもわからない」

「それでも私の可愛いソレミを守ってくださったことに変わりはありません、本当にありがとうございました」


彼女は僕にぺこりと頭を下げた。


「ごはんたべたいー」

「こらソレミ、お客人の前ではしたないでしょ。あ、私の名前はラシロと言います。」

「大丈夫ですよ、一緒に食べるって約束しましたから」


バルゼーはバッグの中から竜の肉を取り出し、パンにはさんで1人1つずつ手渡した。なんて豪華なステーキサンドや…これに比べたらコンビニの飯なんてカスや。


「あ、あの…本当によろしいんですか?」

「子供とお母さんは食べるのが義務よ、遠慮しないで」

「…ありがとうございます」


おいしい、肉と野菜がこう…うまい…


「バルゼー様は料理もお上手なんですね、さすが王国1の天才です」

「子供の前よ、様づけはやめて」

「わかりました、バルゼーさん」


僕は思わず聞いてみた。


「あの、彼女ってそんなに有名人なんですか?」

「有名なんてもんじゃありませんよ!王国一の魔法使いでありながら勇者と共に旅をして四血将のうちの二人、ラーミラーとレーゲスを倒した大英雄ですよ!」


彼女はバタバタとタンスをかき回し、中から新聞の切れ端のようなものを取り出した。その新聞に掲載されている写真は動画のように動いており魔法だなぁ…と思った。


新任魔法指南役バルゼー、回復魔法に革命をおこす。

王国一の秀才、勇者と共に旅に出る

勇者一行、四血将撃破!!都市の開放により食料難も解決か?

etc...


「…一度も話してくれなかったね」


僕はバルゼーを見た。彼女は気まずそうにそっぽを向いていた。


「だって聞かれなかったし…」


そういえば…こいつは聞かなかったら何も教えないし言葉足らずだし…なんか…マイペースだよな…


「…彼女の功績は世界中に知れ渡ってるはずですが…なぜあなたは知らないのですか?」

「えっと…」


僕は言葉に詰まってバルゼーの方を見た。


「こいつ今までド田舎でひたすら修行ばっかしてて世間知らずなんですよ」

「そうなんですか、努力家で素敵ですね。彼女と共いいるのも頷けます」


納得したの?ほんとに?もやもやしているとバルゼーが話題を変えた


「ところでこの周辺に宿はありませんか?」

「周辺の商業施設は殆どやってませんね…皆貯金を切り崩して生活しているんです…」


ラシロはため息をついた。


「移動魔法が制限されて、食料の供給が大幅に減ってからお金に余裕のある貴族達しか食料を買えず、私たちはおこぼれを漁る毎日でして…」

「…ムルトツング穀倉研究都市は解放したはずよ、なぜ食料が届いていないの?」

「私にはわかりません…でも食べ物がないのは事実です…私たちも、もともと普通の人間だったのに…」


ラシロは顔を覆った。泣くのをこらえているように見えた。


「…夫も死んで…子供を飢えさせて…盗みまでさせて…もう、どうすればいいか……」

「……約束します」


バルゼーは彼女の手を握り、目をまっすぐ見て言った。


「必ずあたし達が世界を平和にして植えるような事がない世界を取り戻します、だから…絶望しないでください」

「…お願いします…」


……疑問が心に浮かぶ、どう考えても辻褄が合わないことがある。でもこのことを今はなしてもどうしようもない…僕はバルゼーと二人きりになったときに話そうと決めた。


「宿のことなんですが…もしよかったらここで寝泊まりしませんか?ここは秘密の場所で、町の役人すら知らない地下室なんです…雨風もしのげますし…」

「いいんですか?じゃあお言葉に甘えようかな、あんたもいいよねカメリア?」

「あぁ、別にいいが」


慣れてるし別にいいや。バルゼーはまた辺りをきょろきょろと見回し始めた。


「なんか気になるのか?」

「うん、ここすごく人工的じゃない?」


言われて見ればこの町とは少しデザインが違うが明らかに人工的だ。壁には模様があるし道は舗装されていた。こう言うのもあれだがゴミ溜めにはふさわしくない。


「ここのことなんですが…」

「なにか?」

「町の役人すら知らないとはどういうことですか?」

「ここまで来た道、もともとゴミ捨てのために掘られた穴だったんですけどね。知らない間にどんどん色んな業者や人達が勝手に掘ってもっと深くなったんです。私も昔そこで働いてて…その時たまたまこの空間を見つけたんですよね。なんだかこの年で言うのもあれなんですが秘密基地みたいで内緒にしてたんです。今では身を隠すには最適ですしね」


バルゼーは少しの間あたりを歩き回った。壁に手を当て、何かを確認していた。その後部屋に戻り、ラシロに質問した。


「あの、この道の突き当りの…この部屋の布の一部を取り外しても?」

「ええ、構いませんが…」


バルゼーは布を破れないように丁寧に外し、現れた黒い壁を調べ始めた。彼女がある場所を押すと、壁がへこみ、ガコンという音と共に壁が消え、トンネルが現れた。トンネルにはトーチが壁に一定間隔に置かれており、深淵への入り口を照らしているようだった。


「こ、これは」

「やっぱり、古代遺跡ね」

「…まさか、こんなところに…?」


遺跡?ダンジョン?マジで?これってあれか?サブクエをこなしたら現れるやつ?マジ?超ラッキーじゃん…


「なあ」


僕は思わず聞いた


「日没までまだあるしさ、入ってみない?」

「…あんたが怖気づいたらどうしようって思ったけど平気そうね」


僕たちはラシロとソレミの周りに念のため防御の魔法陣を描いた後、遺跡にはいっていった。

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