第10話 隣を歩く
「起きたか?」
気が付くと心地よい空気と暖かな日差しが顔を撫でた。体を起こすと香ばしい匂いとパチパチとした木の弾ける音が聞こえた。
「何か焼いてるのか?」
「昨日の竜の肉を焼いてるんだ」
「全部焦げたかと思ったが」
「でかいし焦げてないとこもあんだよ、ほらできたぞ」
目の前に皿が置かれた。その上にはパンが二切れ、真っ赤なステーキ?が四切れ、そして人参?とジャガイモ?の茹でものが置かれていた。
「朝から中々豪華じゃないか」
「渋って腐るよりも豪快にやるのさ」
「「いただきます」」
僕は肉にかぶりついた。赤い肉汁が口の中で弾け、うまみが口内を満たした。僕は肉をかみちぎろうと何度も租借し、ようやく飲み込んだ。
「うめぇ…」
熱くて汁たっぷりでしょっぱくて固くて…生まれて初めてステーキを食べた。
「君料理人も向いてるんじゃないか」
「そ、そんなに褒めんなよぉ…」
彼女もガツガツと肉にかぶりついていた。
「うーんあたしやっぱ天才だわ」
「自画自賛かよ」
「自分をほめるのは大事だぞ、あんたは褒めないのかい?」
自分を褒める、褒めるか…したことがないな。
僕たちは朝飯を食べ終わるとまた樹液を集めてテントを畳み、旅を再開した。道中はバルゼーの魔法で特に何もなく、1時間ほど歩いて10分休み、それを3回繰り返してようやく町が見えた。
円形の壁に囲まれ、門番が門の前に座り込んでいた。バルゼーは彼らのところに行くと何かを手渡し、門が開いた。町の中は悲惨だった。ボロボロで崩れそうな住宅地の前にはホームレスと物乞いにあふれ死体が転がってないだけでスラム街のような悲惨さがあり、僕は自分がこの町を歩くのがなんだか申し訳ない気持ちになった。
「ここも昔は主要都市の道の町の一つでそれなりに栄えてたのよ」
周りの廃墟の一部の壁に光を失った大理石が埋め込まれており、かつての栄光を物語っていた。
「都市自体が陥落してもうここもほとんど用済み、国境線の軍人に食い物を送るとき以外使われることはないわ」
「一応使われてはいるのか」
「中心部は裕福よ、絶対に仕事が無くならないからね。でもこの荒れ様はおかしいけど…」
周りの声を無視して歩き続けるとまた門があり、今度は元気そうな門番に何かを渡し、また門が開いた。
「さっきから何を渡してんだ?」
「賄賂」
あぁ…そう…
門を抜けた先は先ほどとはうってかわって王都のような荘厳な白い建物が並び、その奥に美しい装飾の屋敷が鎮座していた。明るい人々が歩き回り、さっきの悲惨な町とは正反対だ。こういうのをなんていうんだっけ、アパルヘイト?僕とバルゼーは屋敷の中に入っていった。受付の男性にバルゼーは話しかけた。
※この場合はセグリゲーションと言います。
「王命だ、至急移動魔法を使いたい。手続きに則って分割魔法陣の集合…と言いたいとこだがあたしが一人でやるから魔法陣と設備の使用許可をくれ」
「不可能です、王命により現在移動魔法は使用できません。お引き取りください」
「…使用できない?前線の軍人どもはどうしてるんだ」
「私の関知することではありません」
「思考停止は破滅への一歩だぞ生真面目君、いいから使わせろ」
「不可能で────ガタァン!!!!
彼女が身を乗り出して男の胸倉をつかんだ。
「いいか?あたしはな、バルゼーだぞ?いいから黙って言うことを聞け、そしてよく考えろ。アホみたいな王の命令を聞いて死ぬかあたしのいうことを聞いて世界を救った英雄の一人になるか、どっちが得だ?ん?」
高身長な彼女が思いっきり上から脅す姿は中々凄みを感じた。彼女が手を放すと男はせき込んで席に沈み込んだ。
「…痕跡は残さないさ、あたしを誰だと思ってんだ?それにな、てめぇが止めてもあたしたちは無理やりにでも使うからな?お前に選択肢はねぇんだよ。ぶちのめされた挙句まんまと魔法を使われて罰を受けるのと痕跡を消して目をつむるの、どっちがいいかな?ん?」
「………チッ」
男はしぶしぶ立ち上がり、鍵の束を抱えて歩き出した。屋敷のど真ん中の入り口には何重のカギと扉があり、それを開くと大きな魔法陣が床に描かれた広い部屋が現れた。
「使用は可能ですが魔力が足りません、そしてバルゼー様の魔力自体がこの魔法陣に適応するのに1晩かかります、それについてはご了承願います」
「構わんよ、熟知している」
彼女は悪い顔でニヤニヤしながら彼の顔を覗き込んだ。
「悪かったねぇ、無理言ってもらって」
「…明日になったら早く消えてください」
───────────────────────────
ケッ、王の犬が。お前のような奴が世界をダメにするんだよ。
あたしはイラつきながら魔力を魔法陣に込めた。二人分だけでいいのだがまぁまぁな魔力を消費してしまった。今日は動けそうにない。どこかで宿をとらなくては
「仲間外れにして悪いな」
「手段選ばないねぇ君は」
「しょうがないだろ、ほら宿探すぞ」
あたしは歩き回って宿を探したがどこもそもそも店を開いていなかった。それもそうだ、客がいないのだから店が開いているはずもない。どうしようかと頭を悩ませていると遠くから大声が聞こえた。見てみると小柄な子供が男に腕を引っ張られていた。手には袋を持っておりどうやらスリに失敗したらしい。
…苦しみから逃れたくて犯罪に手を染める奴にとやかく言える訳がない、でもあれを助けたところで何も解決はしないし助けるのはただの偽善だ。男は手を振りかざし子供を殴ろうとした…悪いができることは「やめろ!」
大きな声がまた聞こえ、いつの間にか男の手をカメリアがつかんでいた。
「返せばそれでいいだろう!?子供を殴っていいと思うのか!?」
「ふざけんな!そいつはコソ泥だぞ!」
「でも子供でしょう!?しかも貧乏でお金もない!!殴るのはやりすぎだ!!」
「てめぇいいからそこを…!」
「待ってください!!」
あたしは思わず割り込んだ。
「あなた、お金を返しなさい。カメリア、子供を捕まえてて」
「…分かった」
まったく、こいつは…
「これから話すことはまずあなたは被害者であるということが前提です。この子はお金を盗みました、ですので今お返しします。」
お金を男に返した。
「ですからこれで終わらせてもらえませんか、あなたが子供を殴ったらこの子はもしかしたら傷つき、治療する金も当てもないこの子は傷が悪化して死ぬかもしれない」
冷静に話し続ける
「そしてこの子が死んだら今度はあなたが悪者になってしまう、そしたら今まで懸命に生きてきたあなたが台無しになってしまう」
あたしは頭を下げた。
「この子の行いにまだ怒りが収まらないのなら私を殴ってください、私がこの子の代わりになります。どうか神のもとに慈悲を子供に与えては下さいませんか」
男はバツが悪くなったのか何も言わずに去っていった。あたしはカメリアに振り返り彼を詰めた。
「善行のつもりか?その子を助けてほかのやつらは助けないのか?正義の味方になったつもりだったのか?お前は後先を考えて動いたのか?」
「…すまない…でも…殴られるのは…怖いし、見捨てるのは…」
「…お前の行為は青臭い偽善だ」
「…僕は…すまない、考え無しだっ「で も」
あたしは彼の肩を組み頭を軽くくっつけた。
「そういう青臭い善意が世の中をよくするのかもな」
軽くあたしは笑った。
「よくやったよ、優しいわねあんたは」
あたしは踵を返して子供を抱きかかえた。
青臭い善意、目の前の人間を見捨てない勇気、完璧に正しくはなくてもより正しくあろうとする気高さ、それが世界を平和にすることだとあたしは教えられた。
…ずっと戦って、そんな基本的なことを忘れてた、善意は小さくても決して無駄にはならないことを
「お姉ちゃんたちと一緒にご飯たべよっか」
子供は目を輝かせて抱き着いた。
…命を救うって、素晴らしいな
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