歩く世界は美しく

第7話 深紅の来訪者

「そういえば今更なんだが」

「何?」

「どこに行くんだ?」


彼女は1分ほど思考停止した後うずくまってぶつぶつと独り言をつぶやいていた。

…自分を責めているようだ、そこまで深刻に受け取らなくても良かったのに逆に少し罪悪感がわいてきた。


「し、質問しなかった僕も悪いからさ、そんな落ち込まないで…ほら教えてくれるか?」

「…戦争が起こってからちゃんとした測量もさえてない大雑把な地図だけど…」


彼女はバッグの中から紙の地図を取り出した。僕はそれを横から覗き込んだ。いびつな三日月の形をした大陸の中央には島があり、三日月の欠けた外側には大きめの島が二つあった。大陸の上半分と二つの島は赤く塗られており、下半分は青く塗られていた。青い大陸、赤い大陸関係なくところどころ分厚い線が引かれていた。


「この大陸の名前はエルゲス大陸、私たちの国ウィラル王国の王都が南の端にあって、西側の二つの島の南側はカルーバル、北側がケルケード。東側の三日月の胴体の左側がフレッチェス魔法工業都市、右側がムルトツング穀倉研究都市。そして月の上半分はリグラーバ魔王国よ。」

「この中心の島は?」

「境界島って呼ばれてるわ、場所が場所だから魔族も人間も上陸したことが滅多にないのよ、というか嵐と高波で渡ること自体困難よ。」


僕は西の赤い島二つを指さした。


「赤いのが魔王国の領地ってことでいいんだな?西の島が二つともとられているのか」

「そう、だから私たちは今ここに行くために移動魔法の中継地点に向かってるわ」

「直接魔王城にはいけないのか?」


彼女は首を横に振った。


「移動魔法は使用が厳重に縛られてるのよ。まず大陸全体に移動制限の魔法が掛けられていて行ける場所はそれが解除されたごく少数の地点。そして使うには資格が必要で単独で使える人間はごく少数、普段は国家に忠誠を誓った人間数人が魔法の呪文と魔法陣を分割されて厳重に使用を制限されてるわ。緊急事態ならともかく平時で使うのにも限られた場所にしか行けないしそれも最新の注意が義務付けられるのよ。昔の都市間の移動にも時間指定と物資指定があったわ。」


「なんでそんなに厳しいんだ?」


「まず国家全体の安全を確保するためね、この魔法がもし悪人が自由に使えたらテロや暗殺があまりにも簡単に出来すぎてしまうわ。それと土地価格の暴走も問題視されてるわね。町に価値がなくなるともっと広くて自由なところに人は離れてしまうわ、そしたら自ずと国は崩壊してしまうのよ。」


「…なるほどなぁ、便利なのに…」


「魔王がカルーバルとケルケードを支配してから島にある移動魔法の魔法陣は消去されちゃったわ、でも途中までなら移動魔法が使用できる土地がまだ生きているの、あたしたちが今向かってるのはその中継地点よ」


なぁんか複雑なんだな、でも確かに便利だからって道具や科学に頼りすぎるのも悪いことってなんとなく聞いたこともあるからなぁ…バランスが難しいんだね。


「早く自由に使えたらいいな」

「あたしたちがそうするんでしょ」

「…そうだな」


僕たちはまた歩き始めた。町の周りは遠くまでが見える平原で、ここを歩くのかと思うと少し気がめいってしまったが彼女の話が面白かったので特に気にならなかった。町が見えなくなるくらい歩いた後、僕はふと質問をした。


「…そういえば、君は王に直接仕える魔法使いなんじゃないのか?勝手に旅して平気なのか?」


彼女は少し困った顔をしたがすぐにいつも通りの表情に戻った。


「許可自体は得てるわ、あとは仲間を集めて出かけるってだけだったし」

「そう、つまんなそうだから深くつっこまねぇけど。あそうだ、君なんでそんな背が高い─────────


ドガァン!!!!!!!!


轟音と共に何かが自分たちの目の前に降り立った。僕は彼女の前に立って砂煙を手で払っていた。大きな足音が近づいてくる。低い風のような音、巨大な何かが揺らめき、金色の光が二つこちらに近づいてきた。


「平気?バルゼー」

「平気よ、にしてもまずいわ」


砂煙が消え、深紅の巨獣が姿を現した。四本脚に巨大な翼、全身が真っ赤な鱗に包まれ口の隙間から見える牙は赤黒く染まっている。足の爪は鋭く黒色に光り、その姿は雄々しく、偉大な姿だった。僕は内心、恐竜やライオンなどのかっこいい咆哮を期待していた。しかし見た目とは裏腹の鯨のような不気味な鳴き声が耳を貫き、こいつは化け物だと一瞬で理解した。


「最強の一角がでるとはね」

「早速楽しそうじゃねぇか」


僕は腰の剣を二つ引き抜き、目の前の巨大なドラゴンの前に対峙した。


「竜に挑むは、騎士の誉よな!」


僕は竜に向かって走った。竜は動かずその場で炎を吐いた。地面を焦がし融解させ、あたりが溶岩に包まれたが僕は当たる直前に飛び上がり竜の体に剣を突き刺した。すんでのところで竜は立ち上がって避け、右手の剣が地面に突き刺さった。竜の巨大な手が爪を携えて思い切り振り払われた。僕は左手の剣でそれを受け止めながら右手の剣も使って竜の手をはじき飛ばした。竜は僕に思い切り突進し、二つの剣でそれを正面から受け止めた。重い、吹っ飛ぶ


「あー!!!!」


僕は吹っ飛んだ。そのすきを竜は逃さず恐ろしい速度で飛び上がり僕を地面にたたきつけようと上空から体当たりをしてきた。僕は右手のボウガンを竜の目に向かって発射した。がむしゃらに放たれたボルトの何本かが竜の目を貫き、不気味な咆哮と共に竜は墜落した。


僕は地面に衝突する直前に体がふわりと減速し、地面に墜落することができた。着地点にはバルゼーが居り、彼女は僕の手を引っ張り上げた。


「君の魔法か、助かったよ」

「勢いで倒せる魔獣ではないわ、いい線いってたけど」

「どうすればいい?」

「鱗を貫通できるまで魔力を貯めるから時間を稼いで」


僕は返事をするより先にまた竜に向かっていった


──────────────────


竜は怒っていた。自慢の炎を避けられたこと、自慢の爪をはじかれたこと、そして自分の目を撃ちぬかれたこと。どれも初めてのことだった。ふつふつとこみ上げる怒りは脳から体に、体から先端に、口と爪が震え竜は今限界を迎えた


──────────────────


ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!


火山の噴火のような雄たけびが大地に鳴り響いた。竜は空高く飛び上がり、炎を吐きながら高速で突撃をしてきた。炎を避け、落下点から逃げたが地面に激突した。衝撃はすさまじく僕は吹っ飛ばされた。地面を数回転がった後体制を立ちなおし、今度は地面から突撃する竜に向かって走り、竜の手が攻撃するよりも先に内側に入り込んだ。


「そこぉ!!!」


すれ違いざまに後ろ右足を切りつけたが直前に飛ばれ傷は浅く、大したダメージにはならなかった。


「はぁ…はぁ…」


心が震える、巨大な竜を前に心躍らないゲーム好きはいない。僕は吐息をかみ殺して着陸した竜にまた突撃した。がむしゃらに走り今度は竜の口を切りつけた。歯が数本折れ、真っ暗な口の中が隙間から見えた。竜は口をわなわなと震わせそして


「飛べ!!!!!!!」


バルゼーが叫んだ。


思い切り咆哮した。その瞬間、竜の口の中に巨大な閃光の柱が突き刺さり、竜は内側から巨大な光と共に爆散した。焼け焦げた肉片や内臓があたりに散らばり、雄々しく偉大な竜はただの肉片となり果てた。

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