第6話 やっと旅

王に会うと聞いて身構えていたが実際は人権の手続きをするだけだった。自分に出来る事、現在の所持金、年齢、住所やそれを保証してくれる人間、その他もろもろを渡された紙に記入し、正式にウィラル国の国民になれるらしい。


本来はもっと複雑らしいがバルゼーはこの国の中でもかなり影響力があるらしくて彼女の一声で簡単に事が進んだ。確かあいつは王国第三なんちゃらかんちゃら…たまに彼女だけで話すこともあり何を話しているかわからなかったが僕は正式に人権と保険が税金を払い国のために尽くす対価として得られたらしい。


正直これはゲーム内ですることなのか疑問に思ったが世界観により入り込めるならまぁいいと思う。


僕は手続きを終えた後、彼女に武具を売っている店を訪ねた。彼女も丁度店に用があるらしいので彼女行きつけの店に向かった。古びた看板に年季の入った大きなガラスのウィンドウがある店は武器屋というよりもアンティークショップのような雰囲気があった。僕と彼女はその店の中に入っていった。


コロンコロンとドアが鳴った


「あぁ、いらっしゃい。武具屋ウォーメイカーにようこそ」


…攻めた名前だ


たっぷりと白髪を携え、片眼鏡を付けた腰の曲がったおじいさんが椅子から立ち上がり僕たちのほうに向かってきた。


「おや…知らない子をつれてるねバルゼー、道案内かい?」

「いや、正式な旅のお供だ」

「カメリアです、よろしく」


頭をぺこりと下げるとお爺さんの店主は少し驚いた後自己紹介を始めた。


「丁寧な子だね、私はこの店の店主、フィルチだ。好きに見ていってくれ、もっとも君のお眼鏡にかなうかはわからないがね」

「私はじいやと話があるから先に見といてカメリア」

「じゃ、お言葉に甘えて」


僕は店内を歩き回った。不思議な紋章の盾、白銀で背丈ほどある分厚い大剣、巨大なマガジンが付いたクロスボウ、光り輝く数多の鎧…どれもこれも目移りしてしまう…!何を買おう、やっぱりオールラウンダーに戦いたいし───


──────────────────


「あんた、本当にあいつでいいのかい」

「ああ」

「もう時間がないとは言えあんなよく知らない小僧が信用できるのかい」

「…そうは言うけどね、あいつもあいつで問題なのよ」


あたしはちらりとカメリアを見た


「できれば今すぐあいつを連れて王都を脱したい…カメリアは危険よ、これを見て」


私は数刻前に換金した魔獣の領収書を見せた。


「これを全て素手でやったのよ」

「素手?何かの間違いじゃないのか?」


じいやは驚きと興奮ですこし上ずった声で聞いてきた。

あたしは立て続けに彼の暗黒の魔力、そして別世界から来たということを説明した。


「人口の多い王都に置いとくのは危険よ、なんかの拍子で暴れるかもしれない。しかもあいつ力の制御がうまくいくときといかないときがあるみたいなのよ、最悪の事態を想定しなきゃ。魔力汚染が王都で発生したら人類は滅ぶわ」

「しかし、君の目的はどうなるんだ。あいつを引き連れて可能なのか?」

「…やるだけやるわよ、どの道もうあいつ以外に頼れそうな奴らはいない。これ以上王都にとどまったら理由をつけて捕縛されるかもしれない」


あたしは大きなため息をついた。


「国内の有力者はほとんど王の息がかかっちゃったわ。いくら元勇者一行のあたしでも言葉を聞いてくれるか分かんないし王の命令で簡単につかまっちゃう、それに今すぐ行かなきゃもう時間がないのよ、例のあれは準備できてる?」


 じいやはコクリとうなずいて奥の部屋へ入っていった。


──────────────────


「これにする!」


僕は銀色の鎧と大剣、そしてクロスボウを台車にのせてカウンターに来た。店主はなぜかいなかったので代わりにバルゼーが台車の上を見たが彼女は困ったように苦笑いした。


「金が足りないしあんたじゃそんな意味ないわよそれ」

「えっ…380ホーンじゃ足りないのか」

「足りないわよ…聖加工済みの鎧は一式そろえて最低五百万ホーンよ…」


全然足りない、もうだめだ…おしまいだぁ…


「あたしが選び方教えてあげるわよ」

「まずあんたの体は人よりもかなり丈夫だから重い鎧は必要ないわ、利便性の高い竜の毛皮のレザーコートなんかがちょうどいいわ」


そういうと彼女は壁にかかってある革の鎧を吟味し、その中でも少し大きめのふさふさの薄いコートのような服を持ってきた。


「これはあんたが今日倒した鱗無翼欠如竜ペンギンドラゴンの皮膚を使ってるのよ。寒いところも熱いところもへっちゃらで軽いけど竜の皮膚らしく頑丈、あんたにはこれがピッタリよ。」


手に持つと確かに銀の鎧よりも軽く、そしていつまでも触っていたくなるようなふさふさな鎧で、僕はつい顔をうずめてしまった。


「大型の剣もいいと思うけど咄嗟の防御や不意打ちの対処には熟練者でもないと難しいわ、汎用性の高いショートソードを予備も含めて二本持つのが最初はおすすめよ」


彼女は銀色に光る刀身に、黒いグリップの剣を渡した。滑り止めのゴム?のようなものがまかれており持ちやすく、振るのも早かった。二刀流かっこいい


「クロスボウは大型のものは弾持ちも悪いし大抵の魔獣には過剰な威力よ、小型でいざというときは魔力のボルトが発射できるこれがいいわ」


彼女は腕部装着型の小型のクロスボウを僕の腕に取り付けた。腕の可動に邪魔にならないよう折り畳みが出来るクロスボウで、即展開、発射が出来るらしい。素敵だ…


「これで計350万ホーンよ」

「殆ど吹っ飛んだ!」

「そりゃ一式そろえるならこんくらいかかるわよ、それにウォーメイカーのブランド品だしね」


ブランド品って高いよなぁと僕は考えた。


「買わないのに持ってきちゃったこれどうしよう」


僕は台車を指さした


「後で戻しとくからほっといていいわよ」

「商品は決まりましたかな」


カウンターの奥からフィルチが出てきた。手には革で出来た青い四角い肩掛けカバンを持っていた。革には魔法陣が描かれており、どうやら魔法のカバンのようだ。彼は台車をちらりと見るとにっこりと笑った。


「お客人は中々お目が高いようですな」

「素人には手に余るわよ、そっちじゃなくてこっちを買うわ」

「おやおやそれは残念ですな、久々に太っ腹な客が来たと思ったのですがねぇ」

「じゃぁとりあえずお会計を…」

「はいはい…あぁ会計の前にこの武具達装備していきますかい?」

「ああ」

「そうですか、じゃ、これは初めてのお客さんのサービスってことで」


店主はベルトのようなものをカウンターの下から取り出した。鎧を着るように促されたので着こむと、店主はベルトのようなものを腰回りに括り付けた


「こいつは武器装備用の追加装備でしてね、ベルトと鎧に留め具があるんでそこに連結してくれれば武器を装備できるんですよ…あそうだ、ボルトは何本お買い上げで?」

「あ…何本買ったらいいかなバルゼー」

「20本くらいでいいんじゃない、使い捨てるわけでもあるまいし損位で十分よ」


追加で20本のボルトはセットで2万ホーンだった。総勢352万ホーンだった。


内訳

聖加工済み、修復魔法対応型鱗無翼欠如竜ペンギンドラゴンの上級レザーコート…280万ホーン

聖加工済み、修復魔法対応型ショートソード(1級硬度竜鉄1%配合済み)18万ホーン×2

腕部装着型魔法弾対応型小型クロスボウ15万ホーン

各種メンテ用魔法の登録及び修復道具一式(必須)19万ホーン

全部払ったら残りは…18万6千ホーンか…


「この各種メンテ用魔法の登録及び修復道具一式(必須)ってのは何だい」

「武器と防具に修復魔法対応型、聖加工済みってかいてあるでしょ。特定の魔法で修復およびメンテナンスが出来るのよ。でその魔法を使えるようにこの店で登録しなきゃいけないのよ」

「…必須なのか?君は修理できないのか?」

「登録しないと犯罪よ、見境なく魔法を使えるような国じゃないのよもう」


世知辛い、まぁしょうがないしこういうのも楽しそうじゃないか。


「じゃあ現金一括払いで」

「ほっほっほ、景気がいいな若者よ」

「それじゃあ君に魔法を登録するからこの紙の上に手を乗せてくれ」


剣や鎧、矢などの様々な絵が描かれた赤黒い紙を店主はカウンターの上に置いた。僕は恐る恐るその上に手を置くと絵が浮かび上がり剣の絵が刺さるように手のひらに、矢が貫くように、鎧が沈み込むように手の甲に沈んでいった。


「これで登録は完了だ、後は壊れた商品に触れながら魔力を送れば自動で修復される。わかんなかったら隣の世界一優秀な魔法使いに聞いてくれ」


テテ―ン 僕 は 新 し い 魔 法 を 覚 え た !

…なんてね


「あたしも会計済ませるわね」

「何買ったんだ?」

「とっといたほうが楽しいわよ」


気になる、けどやめておこう楽しみはとっておこう

僕とバルゼーは店をあとにし、そして町西の出口から外に向かうことにした。彼女が少し門番と話したのち扉は開き、そして目の前に広大な草原、岩のような山、見渡す限りの地平線が僕の目に入ってきた。


「準備はよろしい?」


彼女は僕に聞いてきた。レザーコートを羽織り、腰に二つの剣を携え腕にはクロスボウを装備した。気分はさながらさすらいの剣士…!


「最高の気分だよ」


嘘の偽りもない、生きてきて一番楽しい時かもしれない。現実は最低だからね。


「さあ行こうか」


僕は彼女とまだ見ぬ世界へ足を踏み入れた。



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