第4話 文化が違う城下町
バルゼーは薄目を開けながらあたりを見渡した。大量の魔獣の死体の頂点に息切れしているカメリアの姿が見えた。
「おっ、倒しきったか、えらいぞ!」
のんびりそうに話すバルゼーに向かおうとカメリアは血だらけの地面の上を駆けながら叫んだ。
「お前なぁ!!!こんななぁ!!!アホみたいな...たたかい...やらせんな!!!あと!!!先に言え!!!」
「ご、ごめん...」
流石に悪いと思ったのか背の高い大人が子供に目線を合わせるように彼女は目をそらして少しかがみながら謝った。心なしか距離が少し近づいたのかいい匂いがする、匂い?VRで匂い?...まあいいかきにしてもしょうがない
「で、でもなんとかなったじゃん…信頼してたのよ」
「出会って1時間未満の男を信頼するんじゃないよ?!」
「急にまともなこと言わないでよ...悪かったからさ」
「ほら、回復してやるから...ホントにごめんね、その、ちょっと試したかったのよ」
「試すって何を」
「なんでもないわ」
彼女は手に持った杖を振りかざしながらぶつぶつと何かをつぶやいた。その瞬間体の疲労がまるで泡になったような感覚のあと、ぱちんと何かが潰れ疲労が消えていた。汚れや衣服の傷痕もすっかり元通りになっていた。
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汚れや疲労はあっても傷自体は本人の体には一切ついていない、彼女は少し彼を警戒していた。助けてもらったことは事実だ、それにさっきも私を守るために戦ってくれた。彼に悪意や敵意は私にはないだろう。だが彼はどう考えても怪しい。突然現れ突然戦い、そしてこんな戦闘の後にも私に暴言を吐くけれど(10割私が悪いが)余裕すら感じた。死ぬことも殺すことも恐れず、ただ全てを楽しんでいるように見える。彼は何者だろう...敵じゃないとは思いたいけど…
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「おおすっげ!!マジで回復してる!!」
本当に疲労感が吹き飛んでいる…なぜ?…まあいいかきにしてもしょうがない
彼女は化け物や怪物たちの死骸の周りに魔法陣のようなものを描いていた。その後彼女がまた何かをつぶやくとそれらは完全に消え、辺りは血に染まったホラー映画のスプラッタな森から自然あふれるただの森と化した。
「…今のは?」
「町に先に送ったわ、後で換金するから」
「なんだ報酬あるのか」
「…当り前じゃない、守ってくれてありがとね」
「………ぉぅ」
「あんたのおかげで魔力全回復したし町に行くわよ、手握って」
「………ぉぅ」
ならまあいいか。かわいいなぁ...VRなのに握るの緊張するな、なんてことを考えていると彼女と自分の周囲が一瞬太陽の数千倍も明るいほどの閃光が体を包んだ感覚がして僕は思わず目を覆った。
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気が付くと、人々の足音や、話し声、様々なにおいや音が鳴り響き、僕は恐る恐る目を開けると町から少し外れた広場に二人は立っていた。足元には魔法陣が描かれており、どことなく駐車場のように見えた。ロードはすげぇ早かったけどあの光量はナーフしてくれと思いながら恐る恐る歩いてみる。
「あら、エスコートしてくれるの?」
彼女の発言で、僕はまだ彼女の手を握っていることに気づいた。
「悪い」
咄嗟に手を離すと彼女はけらけら笑いながら僕の前を歩いた。
「何よ、つないだままでも良かったのに」
「そんな簡単に他人に気すくはできないよ」
「...ふーん」
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何者かはわからないけど過去はありそうね、少なくとも誰かに心を簡単には許さない程度の過去が。私に対してもどこか一線を置いているような感じがするし...怒ったと思えばすぐに喜んで...子供っぽいところと感情がすぐに変わって興味がすぐに移るところ...なにかしら、心の底から楽しんでいるだけでまるでなにか、浮いて生きているように見える。
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僕は彼女の後ろであたりを見渡しながら歩いていた。空を飛ぶ道具たち、見たことない生物の肉、嗅いだこともない香ばしい香りが立ち込めるレストラン、文化の違う美しい民族衣装、石並びの家屋に巨大な時計塔、そして少し遠くに見える城。こんなところに来てみたいと願っていた世界に僕は来たのかと錯覚するほどの景色に飲み込まれていた。変わらず歩を進める彼女に今どこに向かっているのかを聞いてみた。どうやらさっきの化け物ども(魔獣というらしい)を専用の解体場所があってそこに送ったから報酬をもらうらしい。彼女はある建物の前に止まった。しばらく待っててと言われたので1分ほど待つと彼女はホクホクとした顔で戻ってきた。
「どんくらいもらったんだ?」
「領収書」
「見てわかるのかね」
ずらりと魔獣の名前が載っていた。指定外来魔獣、以下一つ
38,000,00ホーンと書いてあった。
「まぁそんなもんね」
「これ具体的にいくらくらいなんだ?」
「6000ホーンで外食一回分」
地味にわかりづらいようなたとえだ、まぁ見た感じ食事がそんな高級な娯楽ってわけでもなさそうだしざっくり外食が1500円くらいだとして...四分の一…95万円くらいか?
「結構な金額だけど命を懸けたにしてはこんなもんなの…」
「量は多かったけどああいう魔獣って本来魔法使いや賢者が魔法で仕留めるものよ」
「真正面から殴って狩るのはどう考えてもバカのやることよ、偶に暇な戦士や格闘家が小遣い稼ぎで二、三匹倒すのが普通ね」
「今俺がバカって言った?」
「文脈理解してる?」
シビアだなぁ…まあ確かに現実でも熊の退治にも銃を使うし鹿とか猪もトラップ使うし言われてみたらそうだとしか言えない。解体費や人件費を考えたら妥当、なのだろうか…でも最近は現実世界でも駆除自体は安くこき使われるらしいし案外こっちのほうが住みやすいのかもしれない
「さて、お金も入ったことだし」
「疲れたでしょ、ご飯食べに行きましょ」
「僕のお金使うのかい?」
「一食くらいはいいだろ、運んだのあたしだぞ」
「仕方ないなぁ」
運んでくれたのはそういえば彼女だった、いや戦う羽目になったのはそもそも彼女のせいじゃ...そんな疑念が頭によぎったがゲームだしいっかと考えながら僕は彼女の隣を歩いた。
…楽しいな、こんなに楽しいのはいつぶりだろう、偽りと分かっていても僕は心地よさに身を任せていたかった。
あの時までは
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