第3話 邪魔な森

「そういやアンタ名前何なの?」


と、彼女が唐突に聞いてきた。名前を決めるイベントだろうか。本名を名乗るのもなんだかあれだし...そうだな…


「カメリアだ」


森崎ツバキ、ツバキは英語でカメリア、我ながらまぁまぁいい感じじゃないか?名付け親は嫌いだが名前はそんなに嫌いでもない。横にいた彼女は自分の顔をちらっと見た。


「いい名前じゃないか」

「まぁ名前は嫌いじゃないな」

「椿ってなかなか洒落てるじゃん」

「ちょっと待て」


本名がばれた、なぜだ


「カメリアってどういう意味だ、椿って意味なのか」

「えっ、旧神語でカメリアは椿って意味じゃん」


英語がこっちの世界の旧神語って言語なのか…ヘブライ語とかラテン語のようなものだろうか…彼女は悠々としながら自分のことや世界のことを話し始めた。どれも個人的なことのようで左耳から右耳へと流れるような話に思えたがふと自分は彼女の名前すら知らないことに気づいた。


「それで竜の鱗が割れちゃったときにさ~」

「そういえば」

「ん?何?」

「君の名前を知りたいんだけど」


彼女は少しぽかんとした後にびっくりした様子でまだ言って無かったっけ?とつぶやいた。彼女はコホンと一息ついた後自分のほうを向き、正々とした振る舞いで自己紹介を始めた。


「初めまして、私はウィラル王国第三宮廷魔法指南役のバルゼーと申します...」

「今更かわい子ぶっても意味ないと思うけど」

「ちょっと忘れてよ...流石に自己紹介もしてないのに自分が足りしまくる女とかわすれてほしいんだけど...」

「...もう手遅れじゃないかな」


正直こういうキャラ自体は嫌いじゃない、というか人間味溢れてて本当にゲームか疑わしくなってきたな...ゲームだよな...?なんだか怖くなった僕は頭の周辺を探ってみた、しかしその瞬間猛烈な気持ち悪さと得体のしれない嫌悪感が自分の背筋を襲った。ゲームをやりすぎて4時とかになったときのような感覚をいっぺんに味わった僕は思わず倒れこんでしまった。


「ちょっと、大丈夫?」


バルゼーは倒れた自分にかがみこみ、軽く背中をさすった。数秒が経ったのち気持ち悪さも収まり、またしばらく歩きはじめることにした。彼女は心配してくれているが始めたばかりでゲームを止めるなんてもったいない。さぁはやくしよう


───────────────────────────


「……」


バルゼーは彼の体からわずかに発せられたどす黒い魔力を感じ取った。だが彼の言動や行動にいまだ悪意を彼女は見出せてはおらず、彼女はまだあることについて疑惑どまりであった。


「ところで」


ふとカメリアが自分に話しかけた。


「杖ってどこ?」

「へ?」


すっかり忘れてたわ。杖を取りに来たんだったよね...ええと十字路の中心に聖防御をはっててその十字路は指定幽魔病に罹った木の周辺だから…あった。小走りで薄い赤色に光る木々の中心に向かっていくとそこには光を当てた金属のように煌めく1mほどの杖が地面に刺さってあった。小奇麗な白色で、金銀の装飾が施され、てっぺんには大きな水晶の原石がはめ込まれており、金色に輝いていた。


───────────────────────────



「綺麗だな」


僕は思わずそうつぶやいた。贅沢な品物というのは金をかけただけあって美しいものだ。だがここまで美しいものを見るのは初めてのことだった。それにこうしてみるとさっきの彼女の自己紹介と言い、彼女は結構えらい立場の人なのかもしれない、だいぶ変な性格をしているが。彼女が杖を地面から引っこ抜くと光は消え、金色に光る水晶は白く濁った水晶に変化した。彼女は杖を手に取り軽く振り回した後に周囲を見渡した。


「これってなんの魔法なんだい?」

「これ?聖防護の魔法と言って周囲一帯の悪しき魔力を跳ねのけてくれるのよ」

「なんのためにそんなことしてたんだ?」


彼女は周囲の赤い木々を指さした。


「この周辺の木はちょっと前は普通の茶色い木だったのよ、でも魔力汚染によって赤くなってこのままじゃ有毒ガスや汚染水を流すように変貌しちゃうのだから」

「魔力をはじく聖防護魔法で治療してたと?」

「そういうこと」


彼女は懐から香水のようなものを取り出し体に吹き付けたあとそばにあった岩にもたれかかった。


「赤い色がちょっと薄まってピンクに近づいてきたしもう大丈夫よ」

「そうか、ところで町に行くんじゃないのか」

「魔力切れた、しばらく休む」


彼女はあくびをしながら眠たそうに話した。


「あと今聖防護きったから魔力が乱れて濃い目の魔力がこの地点に集合したわ」

「河道閉塞状態の解除って感じよ」

「かど…なんて?」

「化け物が多分来るから迎撃お願いね」

「は?」


僕は慌ててあたりを見渡した。獣のような息遣い、遠くから聞こえる強大な足音、鳥が一斉に飛び立つ音、異様な雰囲気が自分の周りを囲んでいた。


「なんで?!なんでいつも君はそういうことを後に言うの?!」

「ごめんねぇ、こんな性格で…」

「少し寝て…魔力貯めたら…」

「町に飛ぶから……」

「くぅ…」


つまりこれは防衛ミッションだな?開始早々防衛ミッションはきつすぎる、というかVRで出来るのか…あぁもう世界観とキャラのためにゲーム性をないがしろにするのはどうかしてるんじゃないか…僕はぐっすりと寝ている彼女の前に立ちあたりを見渡した。改めて彼女を見てみたがリーク画像の人とはまるで似ていない…開発途中ならこんなものか。にしても寝顔もかわいいなこやつ...そんなことを考えていると大きな足音がすぐ目の前まで迫ってきた。十字路の正面から緑色で、手には4m程の細長い石の棒を持ち、さっきの巨人と形は似ているが大きさが二倍ほどあり、体の色が青い化け物が3人ほどこちらに走ってきた。どことなく表情が怒りに満ちて見える。


「順番に来るならやりようはあるか...」


おそらくウェーブ方式だ、まとめてくるならわけはない。戦力の逐次投入は愚策だと教えてやる。一番前にやってきた巨人の足をつかみ転ばせた。後ろに続いていた巨人の一体が躓き、もう一体は飛び越えて自分に襲い掛かってきた。手に持っていた武器をつかみ、奪い取る。今回は吹っ飛ぶ前に向こうが手を離した。AIが違うんだなとか考えながら奪った棒を巨人の一つ目に向かって投げた。思惑通り目に突き刺さると巨人は叫びながら後ろに倒れこんだ。起き上がった残りの二体の巨人が一斉に襲い掛かってきたので片方懐に向かって走り、足の下を潜り抜けた。後ろでドカンと巨人が勢いあまって地面を殴った音がした。落ちていた石を拾い巨人の背中に向かいながら


「...あれあいつにあたったかな...?」


と考えた。バルゼーにあたっていないかと考えたがまぁ仮にあたっても即死ってことはないだろう。地面を殴った体制の巨人の体によじ登り、石でひたすら目をガンガンとたたきつけた。暴れる巨人の背中からタイミングよく飛び降り、最後の巨人のお腹に張り付いた。巨人は自分の体に引っ付いた異物を払おうと手を伸ばしたがその手をカメリアは掴ながら巨人の体を片手でよじ登り、首の後ろで思いっきり引っ張り続け、巨人の首を絞めた。巨人はしばらく暴れていたがやがて動かなくなった。


「第一ウェーブ終了かな」


経験値か戦利品が欲しかったが、特にそういったものはなかった。次の敵が来るまでに巨人の体を物色したがこれといったものも特になかった。遠くから今度は獣の雄たけびが近づいてきた。


「次は何かくれよな」


僕は声の方向を向きながらそうつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る