第2話 新感覚で新世界

意識が飛びそうだったがグッと耐え、瞼の裏から感じる光が収まったころでようやく僕は目を開けた。僕は人生で二度目の衝撃を受けた。はるか遠くまで広がる透き通った青空、生い茂る草原を鳴らす鮮やかな風の音色、青く煌めく広大な湖、ビルの高さはあるだろう巨大な木々の森林そして────


「...誰か襲われてる…?」


ふと視界の端に映った人影に目を向けた。とんがり帽子を被った女性が草原を駆け抜けている。そしてその背後には人の背丈の3倍はある一つ目の巨人が棍棒を持って追いかけていた。巨人の走り方は変わらないが女性の走り方は段々弱弱しくなっていった。


「開始早々イベントあるタイプか」


正直もう少しこの雄大で美しい景色を楽しんでいたかったがぼーっとしてイベントを逃すなんてとてもじゃないが勿体ない。僕はスティックを動かし走ろうとしたがそれを行う前にすでに走っていた。僕は一瞬困惑したが、そんな疑問は目の前の巨人にかき消された。大きい、5mはあるだろうか、手に持った棍棒は1m以上はあるだろう。そんな棒が大きく振り下ろされた。


うわっと声を上げて思わず棍棒をつかんだ。現実じゃ不可能だがVRなら可能だ。だが棍棒を奪おうと腕を引っ張り続けたがびくともしない、いや巨人の腕に棍棒が引っ付いてはなれなかった。なんかこの挙動見たことがあるなと思いながら巨人の腕をガンガンと殴りつけ強く引っ張った瞬間、棍棒がはるか遠くに吹き飛んだ。物理演算が不完全だ…グラフィックに全振りしたのか…?巨人は自分の手を一つしかない目で凝視した。そのすきをついて体を登っていき頭をつかんで引っ張ると頭部が伸び、自分の手と一体化しながら扇風機のように回転しはるか遠くまで吹き飛んでいった。


「ひどい…」


僕は思わずそうつぶやいた。どうしてこんなにも綺麗なゲームなのに物理演算が一昔前なんだよもうちょっとこう...頑張れよ...!内心少し残念に思いながらあたりを見渡すと


「ねぇ」


ふいに後ろから声が聞こえた。そういえば女性を助けたんだったなと思い振り返った。魔法使いらしいとんがり帽子、薄いクリーム色のワイシャツに長い青色で魔法陣のような刺繍が入ったスカート、茶色のショートブーツ、そして夜空のようなマントを羽織っていた。身長は自分の1.2倍ほどあり、2mほどあるように見える。長いショッキングピンクの派手な長髪に鋭い目つきとすらりとした顔と体系、一目で美しいと誰もが思う女性は少し低い声で話しかけた。


「まず助けてくれてありがと」


ギザ歯だった.タイプド真ん中で僕は息をのんだ。


「でも今の何だったの、なにあれ...」


困惑した様子で話しかけてくる彼女を見つめていた。NPCのグラフィックもモデリングもすさまじいな...もう不気味の谷とか気にならないレベルだ…いや本当にかわいいな今までのゲームの中で一番「ひょっとして耳が聞こえない?」推しになったかもしれないそう思えるような彼女は「あーーーー!!!!!!!!!!」

「わーっ!?」


突然大声を出されて驚いて身をかがめてしまった。


「何?!な、なに…?!」

「なんでずっと話しかけてるのに無視するのよ、やっぱ耳聞こえんじゃん」

「...えっ、話しかけてたの…?」

「は?会話するの初めてなの?マジかよ今日記念日じゃん」


何言ってんだこいつ、というかこいつマジで俺に話しかけてたのか…?最近のAIはどんどん成長していると聞いたが自立して会話してジョークまで飛ばしてくるAIは聞いたことがないぞ


「...本当に会話がしたことがないのね…あんた今までよく生きてこれたわね...」

「い、いや会話できるよ...」

「あっそうなの、じゃあなんでずっと無視してたのなんで?」

「あぁえっと...」


押しの強いAIと会話するのなんか怖いな...


「な、なんて話しかければいいかわかんなくて…」

「人と接したこと皆無なのね…」


あながち間違いではない、直接楽しい雑談のような会話なんてもう何年もしてないかもしれないからな…


「は、はは…」


愛想笑いしかできない。目の前の女性はしばらく自分の全身をじろじろ見た後腕を組んで考え始めた。


「ど、どうしたの」

「迷ってるのよ」

「何を?」

「あんたを仲間にするかどうかを」

「なんの?」

「魔王討伐の」


突然RPGに巻き込まれた…というかこの女の人滅茶苦茶だ…草原で巨人と追いかけっこしてるし突然耳元で叫ぶし挙句の果てに仲間にするとか言い出すし…というか


「ここどこなんだろ…」

「教えてあげたら仲間になる?」

「それは後で考える...」


彼女は湖の向こう側を指さした。


「あっちにね、お城と壁型都市があってね」


彼女は巨大な森に指をさした


「あっちにはね、怪物とか化け物とか害獣がいっぱいある森とか山とか沢山あってね」


彼女は真昼なのに夕焼けのような地平線をしている禍々しい方角に指をさした


「あっちに魔王城があるの」

「ざっくりしすぎじゃないか」

「ぶっちゃけこれ以外覚えなくても苦労しないし...」


なんというか深く考えなくてもいい世界なのかな...ゲームで深く考えたいときと考えたくないときがある、VRゲームはあまり考えたくないほうのゲームだ。ちょうどいい、考えないようにしよう。


「これからどうするんだ?」


早速考えなきゃいけなくなった。ふざけないでよもう。でもこういう時はとりあえず


「町に行きたいんだけど...」


まずは情報収集だ。それに街なら商店、武具屋、武器屋、レストランとしたいことが何でもできる。


「その前に森に行くわよ」

「いちいち話を変えないでくれないかなぁ!」


思わず大声で突っ込んでしまった。


「杖おとしちゃったのよ、あの森で」

「森ってあのメッチャでかい木が沢山あって化け物と害獣だらけの楽園で?」

「うん、あのメッチャでかい木が沢山あって化け物と害獣だらけの楽園で」

「杖ないと町まで3日かかるし多分死ぬわよ」

「ひょっとしてかなりまずい状況なんじゃ...」

「うーーーん...まぁ...ハハハ、まぁ気にしないことだ」


ふざけんなよおまええ...何なの子の人わけわかんない、開始早々ゲームオーバーはフ〇〇ゲー以外あんま好きじゃないんだよ...ちょっと待ってよと言いたかったがそれよりも先に彼女は彼女は私の手をグイっと引っぱり


「さあいくぞ私の未来の荷物持ち君!」

「お前も吹っ飛ばすぞ...?」


行き当たりばったりで波乱万丈だがどこか楽しそうな冒険が始まろうとしていた。僕は困惑とワクワクが混じった表情で彼女の隣を歩き始めた。

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