魔女は二人で旅をしたい

サメサメ伯爵

第1話 これはただのゲーム

視界いっぱいに青空と町が広がっている


はるか上空の一人乗り「ポッド」は高速で街の上を横断し、乗っている彼は地図を見ながら手を前に伸ばした。

そしてその手がレバーに触れた瞬間、「ポッド」が開き、彼は大空へと飛び出した。地面に落ちながら周囲を警戒し、目についたビルの上に向かって滑空し、そして両手を広げて着地した。

その後、少し走り回って床に落ちてる銃やアイテムを拾った後に再度地図を確認して彼は小声でつぶやいた。


「...遠いな...」


地図の上には青いマークが2つ点滅しており、それぞれが現実の距離で大体500メートルほど離れていた。ジュースを飲んでバリアの耐久値を上げながら彼は周囲を警戒しつつ歩を進めた。ビルの室内から外に出て、ビル同士の隙間を走り抜けながら青いマークの味方と合流しようとしながら彼は思考を巡らしていた。


(降りた場所から考えると...初心者かな...VCはつないでないけど...はぁ...)


ゲームにおいて馬鹿な他者に期待をするのはもってのほかだ...だが初心者なら導かねばなるまい、VRゲーム機を買った以上そう簡単にやめないと思うが...過疎ったらマジで辛いしここは勝って中毒にして沼に落としてやる…!!そしていずれは────


バキュン!!!


「!!」


目の前の壁に銃弾が弾け飛んだ。即座に近くの窓を割り、建物の中に身を潜めた。ちらりと窓から外を覗くと3つの人影が走りながらこっちに向かってきていた。


数で勝負する気か────


武器選択欄から今持ってるアサルトライフルから最初に拾ったスナイパーライフルに切り替え、建物の裏口から外に出て、壁をのぼった。しゃがみながらゆっくりと顔を出し、位置を確認すると


ドォン!!!


最初の一発が先頭の人の頭に当たった。人はパッと消えその場にはアイテムが散らばった。リロードをして再度攻撃を今度はライフルを持っている奴に当てた。


ドォン!!!ガシャッ!!!


頭には当たらず胴にあたった。ダメージを見るにバリアとHPは満タンで、まだ攻撃を加える必要があるが、これ以上のダメージを危惧したのか2人は近くの建物に入っていった。屋根の上から飛び降り、ライフルを構えながら2人が駆け込んだ建物の中に向かった。


(放っておいたら生き返らせられる…混乱している今のうちに…!!!!!)


室内は広く、物が破壊されたのか遮蔽物が何もなかった。ドアを撃ち壊して侵入すると一人は銃を構え、一人は除細動器のようなものを両手に持っていた。まず最初に銃を構えたやつに銃撃を浴びせた。


ズガガガァン!!!!

       ズガガガァン!!!


弾丸が交差し、こちらも一発食らったが冷静に弾を当てていく。頭に一発、胴に4発。倒すのには十分な数だ。そして蘇生が終わらせた人がこちらに銃を向けたがその前に頭を撃って無効化した。最後に残った蘇生された奴がその場で味方が持っていたショットガンを拾った。即座に射殺しようとしたがここで弾切れを起こし、ショットガンの銃口がこっちを向いた。一発目が胴にクリーンヒットした。


────リロードを、いや


もう一発が撃たれようとしたとき


────こっちのほうが早い!!!


素早くスナイパーライフルに持ち替え胴体を撃ちぬいた。バリアも無く復活直後でHPも少なかった敵はその場で消えた。スコアとログが更新され、一つの部隊の消滅を知らせるアナウンスがなった後、彼は大きく息を吐き叫んだ


「これだからやめらんねぇ!!!」

───────────────────────────────────────

アイテムと弾丸、物資を補充しつつ味方と合流した。2人ともボロボロの状態だったのでジュースと弾丸を渡すと両手を広げて喜んだ。こういう身振り手振りのコミュニケーションがとても楽しい。しばらく和気あいあいとした時間を過ごしたあと、マップの中央に向かった。移動しなければ放射能がマップを次々に飲み込んでしまうため、常に動かなければならない。時間がたつにつれ生存範囲は狭まり、接敵する可能性も高くなる。幸いにも今回はほとんどの敵が既にいなく、残り一部隊しか残っていなかった。


手を振って一番高い塔に上ろうと合図をしようと振り返ると味方の一人がすごい勢いで指をさしていた。なんだと思いよくみると、すでに塔の上を陣取る敵がこちらに向かって攻撃を開始しようとしていた。上から撃ち下ろされたら圧倒的に不利だ。とすれば…


真っ先に遮蔽が切れる丘に身を隠してスナイパーライフルを構えて待った。地図の中心部があの塔だが必ずしも最後の生存範囲が中央に来るとは限らない。ここは待つ方が得策だ。手で待つことを伝えると味方の二人は頭を激しく縦に振った。それ下手すると頭吹っ飛ぶからやめておきな...


少しの時間がたった後、生存範囲が狭まる時間が始り、塔が範囲内に入っていた。マップがどんどん狭まっていった。そして塔の上から3人が飛び降り、滑空したところを


「いまだ!!」


と合図をして一斉に射撃を始めた。ふわふわと空を飛ぶ3人はなすすべなく撃ち落され、消え去った。派手な音楽と豪華なエフェクトと一緒にWINNER!!と表示された。銃を空に乱射し、飛び跳ねながら勝利を喜んだあと、軽い挨拶とマッチを抜けるを選択して僕は頭を手に当ててヘッドセットを脱いだ。



僕はふらふらとよろめきながらベッドの上に横になった。目、というより目の奥の脳みそがずきずきする。VRをしすぎると脳みそが破裂しそうになる。こればっかりはどうしようもない。僕はしばらく目を休ませた後にスマホを取り出した。


VRゲーム 新作 

VRゲーム リアル FPS

VRゲーム グロい


色々調べたが出てくるのはどれもプレイ済みのゲームばかり。無論すべてのゲームをしたわけではないが好みではないジャンルのゲームをしてもすぐに投げ出してしまうだけだ。金はなるべく無駄にしたくない。ため息をつきながら友達のハルキに連絡をした。


なんか最近マンネリ気味だわ

何、彼女と?

いないのわかってるよね?


アホかと思いながら彼とやり取りをしていると


そういえばなんかフェイク・ワールド社から新作のリークがあったらしいよ


フェイク・ワールド、その名前を知らない人はVR界隈では少ない。かの有名なブレイド&ガンズをはじめピープルファースト、アウトオブダイアメーターといった名作ゲームを多数放出したVRゲーム会の中の頂点に立つ会社だ。そこからリークされたというのは喜ぶべきかリークに嘆くべきか...


リークはカスだが新作はきになる


分かる


正直最近はVRもマンネリ化しているところだ。初めて触ったときと同じような新鮮な感覚はもう味わえないだろう。まあこれはどのジャンルにも言えるだろうが。

ところでどんな内容なんだリークって

なんか異世界っぽかったな、これ

(送られた画像には草原と城、巨人、そして魔法使いのような姿の長身の女性が映っており、右上に企業ロゴが)


タイプだ


同意


その後しばらく友人とメールのやり取りをしたが、特にこれ以上真新しいことはなかった。夜も更け、今日はもう寝て、明日はブレイド&ガンズでもやるかと目をつむろうとした瞬間


ピンポーン


と家のチャイムが鳴った。なんだと思い外を見ても誰もいない。いたずらかと思い寝たが翌朝見知らぬ黒い箱が家の前に置いてあった。正直このご時世テロじゃないかと疑い、警察を呼びたかったがなんだか最近はこういうのにも金がかかるといったことを聞き、大いに悩んだがこの辺を爆破する理由も自分を狙う理由も思いつかなかったので思い切って箱を開けてみた。だが中身を見た瞬間、恐怖は困惑に変化した。

VRヘッドセット

と紙が入っていた。真っ黒で、無機質、それでいて今まで見たことがない製品だった。わけもわからずとりあえず同封されている紙を読んでみた。


おめでとうございます!あなたは特別な賞を受賞しました!フェイク・ワールド社は現在新型VRヘッドセットとゲーム機の限定先行体験を実施しています!このVRゲームヘッドセットはかつてない新鮮さを貴方に届けるでしょう!さぁ今すぐこれをかぶって現実のような最新ゲームを体験しましょう!


「詐欺だろこれ」


絶対詐欺だ、それか闇バイトってやつだ。一瞬捨てようかと思ったが...冷静に考えたら別にこれが詐欺でも詐欺じゃなくても自分に損はないんじゃないか...?企業の名前を騙っている時点でどっちに転ぼうが個人情報やお金を使わない限り別に自分に損はない...というか別に失うものも無い


やってみるかぁ...


箱とVRヘッドセットを部屋に運び、僕は好奇心と対して高くもない期待を胸に、ヘッドセットを頭にかぶった。


ジジジジ...

ジジジジ...

ビカッ!!!!!!!!!!!


まばゆい光が顔を直撃し、思わず意識が飛びそうになった。

やめればよかったかも...

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