第11話これがストライキなのね

 


「フィオナ様、本日はどうされますか?」


「そうね、昨日に引き続き、家のお金をどこまで使い込まれたかを調べたいわ」


 勝手にカルディアリアム伯爵家のお金に手を付けていたのは確定だけど、詳しくはまだこれから。

 全て詳細に調べ上げて、必ず全額返金させます。


「承知しました」


 昨日もあれから、部屋の引越しに家具の購入&搬入、鍵の交換に執務室の清掃、整理、不正の証拠集め――深夜二時を回ったところで、ジェームズにストップをかけられた。

 熱中すると時間を気にしなくなるのも、私の悪いクセね。


 取り敢えず、朝なので朝食を食べようとダイニングルーム目指して廊下を歩いていたら、いつもとは家の中の雰囲気が違うことに気付いた。


 なんだろ、なんかおかしい……あれか、使用人が一人もいないのか。


 大きなカルディアリアム伯爵邸には沢山の使用人が働いていて、普段は廊下を歩いていたら何人かの使用人とすれ違うのに、今日は誰とも会わなかった。

 この疑問は、ダイニングルームに向かう途中にある二階、階段の踊り場から一階を見渡した時に、確信に変わった。


「ジェームズ、使用人は?」


 誰かしら掃除やら何やら仕事をしているはずなのに、一人も使用人の姿を見ないのはどう考えてもおかしい。


「はい、どうやら仕事を放棄することで、フィオナ様を主人と認めないという意思表示をしているのだと思います」


「へぇーそうなんだ」


 ストライキってやつね。私はしたことないけど、ニュースで何回か見たことあるわ。


 そのまま何も気にせず階段をおりダイニングルームに着くと、予想通り、朝食の準備はされていなかった。

 やれやれ、完全に職務放棄か。


「フィオナ様、お茶をいれて参ります」


「お願い」


 ジェームズも予想していたのか、たいして驚くことも無く、お茶の準備を始めた。

 そう言えばジェームズには、以前までの全く役に立たない前執事長を閑職に追いやって、新しい執事長の立場を与えたから、朝の朝礼の時にでも、使用人が誰もいないことに気付いていたのか。


「きゃっきゃっ」

「あはは」


 呆れつつも、今日の朝ご飯はどうしようと考えていると、何やら場違いな楽しそうな声が耳に聞こえてきた。


「あら、フィオナ様じゃないですか」


 ……キャサリンとローレイ、後はその取り巻きのメイドやら料理人達か。

 大勢を引き連れて何のつもりなんだか。


「ふふ、フィオナ様、食事の準備がされていなくて、困っているんじゃありませんか?」


「まぁ」


「そうですよねぇ、お腹が空いて大変ですよねぇ? 空腹で死にそうですよねぇ?」


 いや、私は別に三日振りにご飯を食べる人とかじゃないから! それに、普通に外に買いに行ったり食べに行ったりしたらすぐに解決するけど。


「実は、使用人の人達、皆、今日私達の所に来て、もうこんな所で働きたくない! って助けを求めて来たんです。料理人も皆、フィオナ様なんかに食事を作りたくないって言ってて、それで朝食を準備していないんですよ」


「はぁ」


 ストライキでしょう? それはさっき聞いた。


「私達、フィオナ様を主人だと思えません!」


 取り巻きのメイドやら料理人やらが、大きな声で主張を始めた。これがストライキ!? 初めて直接見ました!


「私達の主人は、ローレイ様だけです!」

「そうだそうだ! フィオナ様を主人なんて認めねーぞ!」

「キャサリン様を虐めないで下さい!」

「愛する二人の邪魔をしないで!」


「はぁ」


 後半二つ、仕事と関係なくね?

 ストライキを決行するくらいの熱い思いが溢れているのか、次々と言葉を発するストライキ組。

 要約すると、ここにいない使用人も含め全員、自分達の意思は同じで繋がっているやら、ローレイとキャサリンの愛は純愛であって浮気じゃないやら、浮気相手は愛されていないフィオナ様の方だったやら、仕事に関係無いことも次から次へと――


「私達は全員、フィオナ様を主人だと認めません。私達の主人は、ローレイ様だけです!」


 結局のところ、本題はこれね。

 成程、私がローレイからカルディアリアム伯爵の座を奪ったことが許せないし気に食わない、だから、働かないと。


「私達に働いて欲しかったら、ローレイ様をカルディアリアム伯爵に戻して下さい! じゃないと、私達は全員、ここを辞めますから!」


「分かりました、では全員クビで」


「――は?」


「ジェームズ、使用人全員の解雇の手続きをお願い」


「かしこまりました」


「へ? は?」


「ジェームズがいれてくれたお茶美味しいわね」


「ありがとうございます」


 自信満々、意気揚々、鬼の首を取った勢いで自分達の要求を述べていたストライキ組+ローレイ、キャサリンは、私が一切動じず、優雅にジェームズがいれてくれたお茶を飲む姿に、我に返ったように勢いが止まった。


「な、何考えてるの!?」

「そんなことしたら、そのくたびれた爺以外、誰も使用人がいなくなっちゃうのよ!?」


「貴女達全員を雇い続けるよりも、ジェームズ一人いた方がよっぽど有意義だわ。それに、どうせ働かないなら、いなくても一緒でしょう。支払う給金が無駄だわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る