第12話この家の女主人は私よ
貴女達が我がカルディアリアム伯爵家にとって必要不可欠な存在ならまだしも、カルディアリアム伯爵夫人だった私を見下し、浮気相手の方を奥様と扱うような使用人、必要なわけがない。
「ジェームズ、すぐに人を手配するつもりではあるけど、暫く使用人がいなくて迷惑をかけることになるわ。大丈夫かしら?」
「ご心配には及びません。実は、以前勤めていた者達に声をかけたら、フィオナ様が当主になったのなら戻って来たいと言う者が何人かおりまして」
「まぁ、それはありがたいお話ね。是非戻って来てもらって。今日からでもいいくらいよ」
「かしこまりました、そのように声をかけておきます」
ストライキ組+ローレイ、キャサリンを無視して、もう解雇確定として話を進める私達。
「ちょっと待ってよ! 本気!? 一生懸命ここで働いてきた私達を、こんなに簡単に捨てるの!?」
「はい、私には必要ありませんから」
もうこの解雇のくだり、会社の方でもやったからさっさと済ませたいんだけどな。
「う、嘘、クビ? 私達が!?」
まさか本気で自分達が辞めないでって引き留められるとでも思ってたの? 貴女達に散々蔑んだ態度を取られていた私が、『貴女達に辞められたら困るのー! 辞めないで! 言われた通りローレイをカルディアリアム伯爵に戻すから、ずっとここで働いて!』と言うとでも? 阿保なのか?
「退職金はきちんとお出ししますのでご安心下さい、今までお疲れ様でした。下がって結構ですよ」
「お前っ! ふざけるなよ! こんなに使用人達がお前を主人だと認めないと訴えているんだぞ!? それなら潔く身を引いて、俺に主人の座を渡すものじゃないのか!」
私の中でもう話が終わったのに、何故か食らいついてくるローレイ。昨日からマジでしつこいな。
「何で?」
「何でってお前っ! それが道徳心じゃねーのかよ!」
「道徳心の欠片も無い人が何を言うかと思えば……私を主人として認められないなら、辞めてもらった方がいいでしょう。こちらとしても、そんな使用人は必要ありません」
私の部屋だけ掃除しないメイドも、腐った食事を出す料理人も、勝手に家のお金を使う執事も、全員要らない。どうせこれから解雇しようと思っていたところだったので、そちらから言い出してくれて助かりました。
「い、いや! 辞めたくなんか無いわ!」
「キャサリン様、助けて下さい! 私達、ずっとキャサリン様と仲良くしてきましたよね!? 私達が辞めたら困りますよね!?」
やれやれ、まだその浮気女に助けを求めるとは。
「あのね、何か勘違いしているようだけど、その女は奥様の真似後をしていた偽物で、実際は何の力も持っていない、ただの浮気女なの。その女が貴女達を辞めさせたくないと言ったところで、何の意味も無いからね」
てか、まだその浮気女をここに置いてあげてるのも私の恩情なのに、それに水を差すような真似して……今すぐ身一つで追い出してやろうかな。
「この家の女主人は貴女達が仲良くしているそこの浮気女じゃない、この私よ」
ハッキリと言い切る私の姿に、以前までの気弱な私の面影は無い。
ここでようやく、使用人達は本来、誰に頭を下げなくてはいけないのかを思い出したようで、慌てて床に頭を擦り付け、謝罪の言葉を口にした。
「申し訳ありませんでしたフィオナ様! お許し下さい!」
「私達、ここで住み込みで働いていたから、急にここを追い出されたら行く宛てがないんです!」
なら何故辞めるなんて啖呵を切った。と言いたいところだけど、感情だけで先走り過ぎた結果な気がするので、聞くだけ無駄でしょう。
「お願いします! 本当に申し訳ありません! どうかご慈悲を!」
「行く宛てが見付かるまでは、ここにいてもいいわよ」
急に無職になって家を追い出されるのは苦しいよね。この世界には失業保険なんてないですし。私も社畜時代、いつリストラにあうか、会社が潰れて無職になるか、なんて、考えたりしたもの。だから、新しい職場が見付かるまではここにいても良いとしましょう。会社の(笑)元・重役軍団は、ふざけた発言したから速攻叩き出したけど。
ああ、私って本当に優しい!
「但し、これ以上自分の立場を弁えずふざけた真似をしたら、問答無用で追い出すから、注意してね」
「はい、ありがとうございます! 感謝します!」
深く深く頭を下げて感謝の言葉を述べる使用人達。
そんな光景を、ローレイとキャサリンは苦虫を嚙み潰したような顔で、睨み付けていた。
――結局、この場にいなかった使用人も含めて、半数は態度が改まらなかったのでその日の内に追い出し、残りの半数は、殆どがここで息を潜めたように大人しく過ごし、次の職場が決まると、私にお礼を言って去って行った。
「フィオナ様、お早うございます」
「お早う、《モカ》」
中には、あれから心を入れ替え、私に忠誠を誓い、人が変わったように真面目に仕事に取り組む使用人もいて、そんな子達は、改めてここで採用した。このモカもその一人で、ストライキの時に私に直接物申してきたメイドの一人だ。
ジェームズには甘いと言われたけど、反省したのなら、またチャンスを上げるのも大切なんじゃないかって思う。
「今日も家の中を綺麗にしてくれてありがとう、モカが掃除してくれたところは、とてもピカピカになるって評判よ」
「! あ、ありがとうございます! 私、もっと頑張ります!」
すれ違う廊下、掃除用具を片手に掃除をするモカに声をかけると、とても嬉しそうに目を輝かせた。
父の代に勤めていた使用人達も何人か戻ってきてくれて、カルディアリアム伯爵邸にはいつもの日常が戻った。
「フィオナ様には感動させられてばかりですな」
「ね? 再雇用して良かったでしょう?」
初めは再雇用組に良い感情を持っていなかったジェームズだが、真面目に働く姿を間近で見て、考えを改めたらしい。モカは今では他のベテランメイド達に教えを乞いながら、昔よりも楽しく、精一杯仕事に打ち込んでいるようだ。
「さて、今日の朝ご飯は何かな」
きちんと用意されるようになった私の食事。
やっぱり栄養面も考えて、三食、食事を取るのは大切ですよね。前世で仕事が忙しい時はパパっとゼリー飲料で済ませていた時もありましたけど。
家に帰って、清潔なお部屋に綺麗に洗濯された衣類、美味しい食事。何より、仕事で疲れた私に、お帰りと声をかけてくれる優しさ。これが、ホッと一息つける家というものですよね。
「今日も頑張りますわ」
まだ解雇した人数に対して人は足りていないけど、以前までの淀んだ雰囲気は無くなったと思う。大きなカルディアリアム伯爵邸には、沢山の使用人がいる。
私は、父の代から、この家が大好きだ。これからもずっと、居心地の良い場所にしていくわ。
気弱な伯爵夫人に転生したアラフォー独身社畜女は、夫を退けて女伯爵になります hikariko @hikariko
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