第10話彼氏いない歴年齢です
◇◇◇
カルディアリアム伯爵邸の一室――
「うう、酷いわ。こんな仕打ち、あんまりです」
フィオナに荷物を放り出され、部屋を追い出されたキャサリンは、カルディアリアム伯爵邸にある部屋の一室に追いやられた。
フィオナがいた物置部屋よりは環境が良いが、元いた部屋よりも当然ランクは落ち、キャサリンは満足していなかった。
「お嬢様、お可哀想に」
「元気を出して下さい」
キャサリンと仲の良いメイド達が、次々と彼女を労り、慰めの言葉をかける。
「私は将来、ここの奥様になるべき存在だったのに、それを全部奪うだなんて……」
「本当ですわ! キャサリン様が可哀想!」
「キャサリン様こそが、カルディアリアム伯爵夫人になるのに相応しいのに!」
カルディアリアム伯爵家の使用人は、ローレイに代替わりした時に、大きな入れ替えがあった。
前カルディアリアム伯爵の時から仕えていた使用人はことごとくクビにされ、新しくローレイやキャサリンに親しい者達が採用された。
この家にフィオナの味方はジェームズ以外おらず、浮気女であるはずのキャサリンの方が、この家の奥方のように扱われていた。
「キャサリン様を虐めるなんて許せないわ!」
「私達にお任せ下さいキャサリン様、良い考えがあります!」
フィオナは、どれだけ使用人が舐めた態度を取っても、怒ることも反抗することも無かった。ただ悲しそうに俯いて、ひたすらに耐える。
そんな気弱な女性だったから、使用人達は皆、フィオナを見下していた。
「皆、ありがとう! 私がカルディアリアム伯爵夫人に戻った暁には、皆にお祝いの品を贈るわね」
カルディアリアム伯爵家に仕える使用人達の多くは、ローレイやキャサリンに媚びを売り、甘い汁を吸っていた。
彼女達にとっても、ローレイとキャサリンが主人と奥方である方が、都合が良いのだ――
◇◇◇
……懐かしいなぁ。
が、朝起きて最初に見た天井の感想だった。
今まで寝起きしていた物置部屋じゃなくて、お父様が生きていた時に暮らしていた部屋に戻ったんだと、実感する。
「んー久しぶりにベッドで寝ましたね」
グイッと両手を組み手を伸ばすと、いつもよりも体が軽い感じがした。うん、体の節々が痛くない! やっぱり快適な睡眠環境を整えるのは大切よね。
物置部屋とは違う、伯爵家の女当主に相応しい広くて日当たりの良い部屋を見渡す。残念ながら、私が以前使っていた家具は、キャサリンに全て捨てられてしまったので、あの時と同じ内装というワケにはいかなかったが、新しく新調した家具も気に入ってる。
急ごしらえで用意した割りには、満足過ぎる出来。
それもこれも、ジェームズが私の好みそうな家具を前持って調べてくれていたおかげだ。なんて有能な執事なの!
私が使っていた家具を捨てて、ローレイがキャサリンのために用意した高級な家具は、全て捨てた。か、売れる物は売った。
あんな浮気女の手垢が付いた家具を使うなんて嫌だったし、何より趣味が合わない。
何、あの全てのカラフルな色を混ぜ合わせた家具達。
タンスは真っ黄色、テーブルはピンク、椅子は真緑、化粧台は赤、ベッドは白――統一性の概念が無いのかな。いや、人それぞれの趣味だから文句を言うつもりは無いけど、私の趣味とは合いません。
一歩足を踏み入れただけで目がチカチカしたわ。
新調した新しいベッドから降り、化粧台に向かい、鏡の中に映った自分を見た。
そういえば、鏡で自分の顔を見ていたら、何の前触れもなくふと、前世を思い出したんですよね。
あの時は、まさか自分が漫画やら小説みたいに転生するなんて思っても無かったから、凄い驚いた。
「……フィオナ、そんなに酷い顔かしら?」
頬に触れつつマジマジと自分の顔を見つめるが、見下されるような酷い容姿をしているようには思わなかった。寧ろ、分厚い眼鏡にボサボサな黒髪をただ無造作に一つに纏めた色気もクソも無い前世の私より、全然良いと思う。
明るい金の髪に、透き通るような紫の瞳。自分で言うのもなんだけど、可愛い方だと思う。
「磨けば光ると思うんだけどなー」
今は肌も髪も寝不足やら不衛生な環境やらでボロボロだけど、まだ若いし、きっとフィオナは、磨けば光る逸材よ――――転生したのが私じゃなければね。
何でよりによって私……! 女捨てて仕事に明け暮れてきた瞳に、フィオナを綺麗に生まれ変わらせてあげるとか、出来るワケが無い! きっと、漫画や小説だったら、転生前の知識とかで可愛くしてあげて、素敵な男性と恋に落ちたりするんだろうけど、無理! 化粧水すら使わず、お風呂上がりに力尽きてベッドにダイブしていた私に、スキンケアの知識は無い! お化粧だって、社会人として最低限、パパッと五分で出来る手抜き化粧よ? 無理無理!
「……うん、ごめん私、今世も色々諦めよう」
代わりに仕事はめっちゃするから!
長い髪を一つにまとめ、前世と同じ髪型にすると不思議と気合が入った。これで分厚い眼鏡をかけていれば前世の社畜スタイルなんだけど、今世の私は、嬉しいことに目が良いから眼鏡は必要ないのよね。
「フィオナ様、おはようございます、ジェームズです」
鏡の中の自分と会話をしているといつの間にかノックの音が聞こえ、どうぞと返事をすると扉が開いた。
「昨晩は良く眠れましたか?」
「ええ、バッチリよ。ありがとうジェームズ」
それも全て用意周到なジェームズのおかげなので、とても感謝しています。
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