第9話やっと終わった



「そ、そんな……俺がもう、カルディアリアム伯爵じゃないなんて……」


 やっと理解した? 長かった……

 もう貴方達の相手するの疲れたわ、やっぱり仕事してる方が遥かにマシ。


「私は貴方達と違ってとても優しいので、猶予をあげます。その間に荷物をまとめて、さっさと出て行って下さいね」


 茫然自失な二人の横を素通りし、今度こそ堂々と、家の中、足を進める。


 ああ、私ってなんて優しいんだろう! 即日私を追い出そうとしていた奴等に対して、相手をするのが疲れたからとはいえ、出て行くまでの猶予をあげるなんて、私、前世は慈悲深い女神様だったんじゃないかしら? ああ、違うわ、ただのアラフォー独女のバリキャリ女でした。


「奥様、お部屋はどうされましょう?」


「勿論、あの浮気女の荷物を全部放り出して、私の部屋を取り戻します。ああ、家具は勿体無いけど、新調してくれる? 安いので良いから」


「かしこまりました」


 あんな浮気女の使ってたベッドなんて、気持ち悪くてもう使えないもの。かかった代金は後で全額請求してやる。


「執務室の鍵も交換して、入らせないようにしないとね。暫く忙しくなるけど、ごめんなさいね、ジェームズ」


「いいえ、このような忙しさなら、大歓迎です」


 根っからの仕事人間みたいな台詞。でも分かるわ、楽しいことなら没頭しちゃうわよね。

 ジェームズも理不尽な扱いをされ、あの人達には苦しめられてきたでしょうし、嫌いな相手を追い詰める作業って、楽しいわよね。

 私も前世、社長の子息だからって好き勝手し放題だった馬鹿の不正を告発して解雇にまで追い込んだ時は、『よっしゃ、ざまぁみろ!』って雄叫びをあげたものです。


「すぐに業者の手配をして、出来ることはお任せしちゃいましょう。荷物の運び出し、家具の仕入れ、鍵の交換……ああ、ジェームズの部屋も隅に追いやられていたわよね? それも変えましょう。執事長の部屋をジェームズに与えます。後は勝手に使われていたお金の把握をもっと明確にして、それから――そうだわ、カロン達も手伝ってくれるみたいだから、連絡しておきましょうか」


 やることが多すぎて、時間が足りないわ。

 言っておくけど、家のことだけじゃなくて、どこかの無能な元旦那様が、会社も領地も家もめちゃくちゃに引っ掻き回してくれたから、他にもやらなきゃいけないことが多くて忙しいのよ?

 どっかの誰かさんみたいに、『俺は領主だー! 偉いんだー! 凄いんだー!』ってふんぞり返って何もしない無能なお馬鹿さんとは違うの。


「奥様……いえ、フィオナ様がこんなにご立派になられるなんて……! 亡き旦那様が知ったらどんなに喜ばれることか! このジェームズ、フィオナ様のために身を粉にして働きますので、何なりと仰って下さい!」


「ありがとうジェームズ、頼りにしているわ」


 取り敢えず、無事に家を取り戻せましたし、あの馬鹿二人に荒らされた家をきちんと整えなきゃ。

 帰ってきて、ため息じゃなくて、ホッと一息つける場所にしたいわ。帰る家を居心地の良い空間にするのは、やっぱり大切ですからね。



 

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