第3話会社を取り戻します
次の日――
どうせ朝食もロクなものが用意されていないのは分かりきっていたので、自分のお金を持って早々に家を出た。
あんな腐ったパンを食べさせられるくらいなら、外で買った方がマシ。
「そちらのパンを一つ頂戴」
「はいよ! 出来立てだ、温かいうちに食べてよ!」
町のパン屋で、歩いてでも食べれる手軽なパンを調達し、口に入れながら目的地まで歩く。
あー何だか懐かしい。社畜時代、朝ご飯を食べる時間も惜しくて、こうして食べながら移動してましたっけ。当時はもっぱらゼリー飲料とかでしたけど。
「さて、ここが我が家が経営する会社ですか」
カルディアリアム伯爵家が所有する事業は、主にワインの流通で、広大な葡萄畑から作るワインは身内贔屓なく美味しく、保管も徹底的に行われ、収益はそこそこに良い利益を上げている――――父が当主だった頃までは。
「お嬢様!? あ、違った、奥様じゃないですか! 一体どうしたんですか?」
「久しぶりね《カロン》、元気にしていた?」
こちらのカロンも、父の時から事業に関わっている仕事仲間で、今も会社で働いてくれている。
「元気……では無いですよ。こんなこと奥様に言いたくありませんが、ローレイ様がカルディアリアム伯爵になってからというもの、会社は滅茶苦茶だし、領地もボロボロですよ」
「でしょうね」
「え?」
「ローレイが自分の友人やら浮気女の友人やらを雇って、勝手に重要なポストを与えているんでしょう?」
「ポスト?」
「ああ、えっと、役職のことよ」
前世で通じていた言葉が通じない時もあるのか、覚えておかなきゃ。
「……そうですよ、仕事もろくに出来やしないクセに指示だけは一丁前にしてきやがって、現場を滅茶苦茶に振り回すし、自分達はちっとも仕事しないで重役出勤しやがって、挙げ句、納期が遅れたら俺達の所為だって怒鳴り散らすわ、売り上げが減ったって言って残業代は出ねえわ、自分達は豪遊してるくせによ!」
本当に、先代達が築き上げてきた会社を好き勝手してるわねローレイ。
「前カルディアリアム伯爵の為に今まで耐えて頑張ってきましたけど、もう限界ですよ」
カロンからも、周りにいた他の従業員達の表情からも、彼等がもう限界なのは言わずもがな伝わった。
「……そう、今まで耐えてくれてありがとうカロン」
「本当にすみません、奥様……」
労わるようにカロンの背中に触れ、声をかけると、カロンは泣き出しそうな顔で、謝罪の言葉を口にした。
カロンが謝る必要なんて無いわ、今まで会社が潰れなかったのは、貴方達のおかげだもの。寧ろ今までこんな地獄のような環境下に残って、懸命に仕事をしてくれてありがとう。
だから、私がすることはただ一つ――
「すぐにその邪魔な奴等を全員解雇するわね」
「は――はい?」
「その役立たずな能無し共はどこ? すぐにクビを通達して、会社から追い出すわ」
「え、ええええ!? いや、待って下さい奥様! そんなこと奥様に出来るはずが――!」
「あら、出来るわよ? だって会社の権利は、お父様から私に引き継がれているもの」
昨晩、執務室を漁って分かったことですが、お父様は私に会社の権利を全て残して下さった。それを、私が会社のことに口出しなんてしないだろうと、ローレイが好き勝手してただけ。
まぁ実際、以前までの私なら出来なかったでしょうけど、今の私は違います。
「経営の主導系は最初から全て私です、私が解雇と言えば、解雇です」
足取り軽く、『俺達は重役だぞ』と奴等がふんぞり返っていそうな社長室に向かう。
「何だお前は?」
案の定、奴等は仕事もせずに椅子にふんぞり返っていた。男はローレイの、女は浮気女の友人かしら? 仲良く集まって温もり合って、猿山の大将みたいな奴等ね。
「私はここの責任者です」
「責任者ぁ? ここの責任者はな、ローレイ様から俺達が預かってるんだ! ふざけたこと抜かすんじゃねぇ!」
「五月蠅い黙れ」
「ああ!?」
「残念ながらローレイはここの責任者ではありません、本当の責任者は私、フィオナ=カルディアリアムです」
「フィオナって……あんた、あの気弱な嫁かよ!?」
私の名前を聞くや否や、ケタケタと笑い転げる、命名、(笑)重役軍団。笑い声も不快ね。
「気弱で何も出来ない嫁が、いちいち経営に口出してくるんじゃねーよ! さっさと消えろや! じゃねーと、ローレイ様に言って、お前と離婚してもらうぞ!」
「あら、いいんですか? それは好都合です」
「――は?」
「会社の立て直しと離婚を同時に進めるのが難しいと思って、優先順位の高いこちらを優先したんですけど、そちらが離婚を提案してくれるなら万々歳です。どうぞどうぞ、ローレイに私との離婚を提案して下さい。あんな下半身に正直な無能な浮気男、こっちから願い下げよ」
「なっ!? てめぇ!」
「私を殴ったりしたら許しませんよ? 私はカルディアリアム伯爵夫人です、傷付けたらどうなるか、分かるでしょう?」
この領地の伯爵夫人に手を上げるなんて、許されることではありません。
「くそ……!」
「私って優しいと思いません? あのまま私を殴らせていれば、貴方は罰を受けることになっていたんですよ? それをわざわざ止めてあげるなんて、私ってば本当に優しいわ」
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