第二章 秀美
思えばキミには不憫な思いをさせて来たかも知れない。
オレはキミのママを失ってからキミを育てる為に仕事に没頭していた…いや違うな…美代を亡くしたことを考えないように何かにって思ったのがキミでは無く仕事だっただけだ…。
部署も定時で帰れる経理課から定時とはほぼ無縁の営業課に転属希望を出した。
給料は上がったがキミと過ごす時間が格段に減った。
美代の母親の手助けもあったからキミを預けていた。
ある日、美代の母親から『秀人さん、あなたまだ若いんだから美代の事は忘れて再婚を考えたら?』と言われたが美代の事は忘れられるわけがない…忘れて良いわけがない。
それに秀美だけは自分で育てたい…。
などと格好つけたが結局美代の母親に頼りっぱなしだ…。
『情けない…。』
“秀人…もう、良いんだよ?”
『何が?』
“私の事は忘れて良いんだよ?”
『良いわけ無いだろ!!』
“どうして?秀美はもうわかってくれる年になってるから大丈夫。”
『バカ言うな…10歳やそこらで…何を…。』
チュンチュン…。
夢か…そうだよな…。
美代…。
『パパ?起きてる?』
『あぁ…起きてるよ、どうした?』
『ごはん出来てるよ~。』
え?お義母さん来てるのか?
オレは着替えて居間に出て見た…。
『あれ?秀美ひとりか?』
『うん、そうだよ~。』
『顔洗って来て〜ごはんにしよ?』
『あぁ…。』
オレが知らないだけなのか…。
どことなく美代に似てきたな。
テーブルには玉子焼きにお味噌汁…。
『これ秀美が作ったのか?』
『うん、おばあちゃんに教えてもらったの。』
『そうか…凄いな。』
『いただきます!』
パク…モグモグ…。
『どう?美味しい?』
『うん、旨い…。』
思えば久しぶりに温かい食事を秀美と食べた気がした。
『いまね、カレーの作り方教えてもらってるんだよ~。』
『今度作ってあげるね!』
『そうか…楽しみだな。』
美代…キミの言う通りだよ…。
秀美は、オレが知らないうちに大きくなっていたんだな…。
『秀美?今日パパお休みだからどこか遊びに行くか?』
『パパ?今日は何の日?』
『え?8月10日…だから…。』
『秀美の誕生日だろ…?』
『そうだけど~もっと大事な日でしょ?』
忘れてるわけじゃない…美代の命日…。
オレは…いまだに受け入れられていないのかも知れない。
『よし、食べたらお寺行くか…。』
『うん!』
キミはどんどん大きくなっていずれは良い人を見つけて結婚して幸せになるのだろ
オレは…どうしたら良いのだろう…。
美代の墓前に既に花が供えてあった。
お義母さん来てたんだな…。
もう11年か…早いな…。
『秀美、ママに挨拶しようか。』
『うん。』
『パパ?』
『ん?なんだ?』
『パパはいま好きな人とかいないの?』
何を言い出すんだよ…。
『今はそうだな…秀美かな?』
『そうじゃなくて…。』
『なんだ?秀美はママが欲しいのか?』
『パパに好きな人がいるなら秀美は良いよ?』
“あなたが選んだ人ならきっと素敵な人だと思うから反対しないよ。”
“幸せになって欲しいから…。”
『美代…!?』
美代がオレに語りかけているような錯覚を覚えた…。
『秀美…パパはキミに結婚したい人が現れるまでママだけがパパの奥さんだから。』
『そっか…。』
『秀美…パパと約束してくれるかな?』
『約束?良いよ~。』
『パパより良い人を見つけて…必ず幸せになること!』
『パパよりも?』
『うん…パパより良い人なんて沢山いるだろうけどな…ははは…。』
そうだ…オレは良い父親では無い…。
キミをお義母さんに預けて仕事ばかりで何処にも遊びに
連れて行ったりもしてなかった。
これからは…キミとの時間を作ろう。
『いないよ…。』
『パパは世界一だもん!』
まさかの答えだった…。
『ありがとう…。』
ー 数年後… ー
秀美は高校生になった。
オレは…未だに恋愛には踏み切れていなかった。
秀美がオレから羽ばたくまでは…。
毎日家事と勉強と部活を頑張っていた。
『あまり無理しなくても良いぞ?』
『うん、好きでやってるから大丈夫。』
それなら良いんだが…。
『パパも無理しないでよ?』
『あぁ、わかってるよ。』
『それじゃ、朝練あるから先いくね!』
『車に気をつけてな。』
『もう子供じゃないよ~だ!』
『そっか、いってらっしゃい。』
『いってきま〜す!』
いくつになっても親から見たら子供なんだよキミは…。
さて、オレもそろそろ行くか…。
じゃ美代…いってきます。
RRRR……。
『ん?電話?』
『はい北村です。』
『◯△高校の担任山本です…。』
『あ、お世話になってます。』
胸騒ぎがした…まさか!?
『秀美さんが先程倒れまして救急車で…。』
『ど、何処の病院ですか!?』
『末野総合病院です…。』
ガタガタ…。
『もしもし…?北村さん?』
イヤな予感がした…その病院は…美代が亡くなった病院…。
これ以上オレから大事な物を奪わないでくれ…!!
■
■
■
オレは急ぎ病院へ駆けつけた。
『すいません…北村秀美の父親です。』
『あ、少しお待ちください。』
こういう時の少しお待ちくださいは長く感じるものだ…。
『北村さん…お待たせしました。』
『先生から検査結果の説明がありますので…ご案内しますのでコチラにどうぞ。』
検査…オレは不安に駆られていた…。
“大丈夫よ”
あぁ…そうだな…きっと大丈夫だ…。
オレは診察室に通された。
『こちらでお待ちください…。』
そこには笑顔で座っている秀美がいた…。
『パパ来てくれたんだ?』
『あ、あぁ…大丈夫なのか?』
『うん…ごめんね、忙しいのに。』
『お待たせしました。』
『内科医の斎藤です。』
女医さんか…どことなく美代に…。
デスクには…お子さんの写真?
『北村さん?』
『あ、すいません。』
『秀美さんの検査の結果なのですが…。』
『はい…。』
検査の結果、軽い貧血という診断だった…。
『貧血か…よかった…。』
『貧血を甘く見ていてはイケませんよ?』
『え…?』
貧血を放置しておくと心不全や脳卒中…。
感染症へのリスクと様々な合併症があるという…。
『処方箋だしておきますのでお薬もらっていってください。』
『はい…。』
『それと栄養管理は大事ですから鉄分を摂るように心がけてくださいね。』
『わかりました…。』
『それでは、お大事に…。』
『ありがとうございました。』
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帰りの車の中で少し話した…。
『具合大丈夫か?』
『うん、いまは平気』
『そうか…。』
『ねえ…パパ?』
『ん?なんだ?』
『さっきのお医者様さ…写真で見たママに似てたね!』
秀美もそう感じていたのか…。
まあ確かに笑った感じとか話し方も似てはいた…。
『あーいう人ならパパも再婚考えるんじゃない?』
そういって秀美は笑っていた…。
『バカ言うなよ…。』
『そうかな〜…先生もパパのこと意識してたように感じたよ?』
『はいはい、何を根拠に…?』
『女の勘?』
バシッ!
『痛い!』
『アホ、子供の写真飾ってあっただろ』
秀美を家に送り届けオレは会社に向かうことにした。
『それじゃ、会社いってくるから寝てろよ?』
『うん、気をつけてね…。』
『あ、そうだ…鉄分の多い食材買ってこなきゃだな!』
『じゃあ~…鳥のレバーがいいな!』
『今夜はレバニラだな!』
とは言ったもののオレはレバニラ炒めが苦手だった…。
焼肉も焼き鳥も内臓系はなぁ…。
いい年して好き嫌いは良くないか?
“そうね…。頑張ってね。”
『はいはい、わかりましたよ…。』
オレは…ふと気が付く。
なぜ急に美代の夢を見たり声が聞こえるのだろうと…美代がいなくなって17年か…。
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●
ー その日の夕方 ー
仕事も終わり家の近所のスーパーに買い物をする為に車を走らせていた…。
近所ということもあり知った顔もチラホラと…。
み…美代…?
オレは言葉を失った…。
『あら?北村さん?』
美代だと思ったのは秀美の担当医の斉藤先生だった…。
オレは…どうかしていた…。
美代がいるわけがあるはずもないのに。
『お買い物ですか?』
『えぇ…先生に言われたレバーを…。』
『そうなんですね。』
『先生は…近くなんですか?』
って…オレは何を聞いて…。
『はい、わりと近所です。』
『そうでしたか…。』
『あの…ご迷惑でなければお作りしますよ?』
『あ、はい…。』
え?
ちょいちょい…今なんて!?
『あの…。』
『あ、ごめんなさい…私何を言って…。』
斉藤先生は赤面していた…。
いまは女性の方が積極的なのだろうか…?
思えば美代も…。
『実はレバニラ炒めって作ったことが無いのでレシピみたいなものを教えていただけたら…。』
『そうですね…では。』
そう言った彼女は材料と簡単な調理法をメモに書いてくれた…。
『ありがとうございます助かります。』
『いえ…。』
『あの…北村さん?』
『はい?』
『いえ…ではお大事に。』
足早に彼女は去っていった
なんだったんだろう…。
デスクに子供の写真を飾ってるって…。
普通は旦那さんいるよな…。
まあいいや、さっさと買い物済ませて帰るか。
家に帰り夕飯の支度をしていると秀美がニヤニヤとこちらを見ていた。
『な、なんだよ…。』
『別に〜何でもないよ?』
『パパがご飯作るのって新鮮だなって』
『あ〜確かにいつもは秀美が作ってるからな…。』
『まあ味付けの文句は斉藤先生に言ってくれ。』
『え?』
夕方の出来事を秀美に話しながら作っていた…。
『やっぱりそうだよ!』
『何がだ?』
『先生パパが気になってるんだよ〜。』
『バカな事言ってないで皿出してくれ』
『は〜い』
だが数日後、秀美が言ってた事が確証に変わる出来事が起こった。
それは秀美のやつが勝手にオレの携帯番号を先生に教えたのだった。
秀美が1人で診察と検査を受けに行った時に斉藤先生が…。
『検査の結果の連絡は自宅でいいかしら?』
『はい!』
『では、自宅の方に連絡しますね。』
『あ、やっぱり父の携帯で…。』
そう言った時に先生は少し嬉しそうな表情をしたそうだ…。
それから数日が経ち検査結果の連絡を口実に携帯が鳴った。
ヴィ〜…ヴィ〜…。
ん?この番号…誰だ?
ピッ…。
『もしもし?』
“あ、斉藤と申しますが…北村さんの携帯で間違いないでしょうか?”
斉藤?聞き覚えのある声だが…。
『はい、そうですが…。』
“秀美さんの検査結果を…。”
『あぁ…斉藤先生…。』
『あれ?番号教えましたっけ?』
“あ、先日秀美さんから連絡はコチラにと言われたので…。”
あのバカ娘…。
『あぁ…そうでしたか…。』
『それで検査の結果は…?』
“貧血を表すヘマトクリット値が以前より良くなってきています”
『そうですか良かった。』
“もうしばらく通院してお薬は継続して下さい…。”
『わかりましたありがとうございます』
『では失礼します。』
オレはそれで電話を切ろうとしたが…。
『北村さん…あ!あの…!』
『はい?』
『これから少しお時間をいただけますか?』
え…それは…どういう…?
『秀美の病状の事ですか…?』
『あ、いえ…あの…ごめんなさい。』
『あ…今日でしたら…。』
この前あったスーパーの近くに喫茶店があるのでそこで待ち合わせをする事になった…。
この際だ…もしそう言う話しなら…。
キッパリ断ろう…。
その気もないのに…などとオレは勝手な妄想を膨らませていた…。
“私の事は良いからあなたは自分の事を…。”
『キミはそればかりだな…。』
“だって…いつまでも縛り付けられないでしょ?”
『オレは…キミのことは何があっても忘れないよ。』
“いじわるだね…。”
『どっちがだよ…。』
約束の時刻になったが斉藤先生は現れなかった…。
もうすこし待ってこなかったら帰ろう…。
そう思ったとき携帯がなった…。
第三章につづく…。
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