第5話
「着いたよ、ここが私の新しいバイト先」
放課後、私は昨日の内に覚えておいたあやかしかふぇへの道順を辿ってみなちゃんと一緒にあやかしかふぇについた。
昨日は妖怪のカフェと聞いて緊張していたからオシャレなカフェという印象しかなかったけれど、改めて見るとそのオシャレさがより伝わってくる。少し古ぼけた感じのメッセージボードや上の方に丸いステンドグラスがはめこまれた赤褐色の木製のドア、レンガ作りの外観、と洋風な外観なのに名前が少し和な感じなのがちょっとおかしくなってしまった。
「まあ働き始めは来週始めからだから、今日はお客さんとしてになるかな」
「ここがあやかしの巣窟……そして仇敵の酒呑童子がいる場所でもあるわけか」
「別にみなちゃんの仇敵じゃないと思うけど……」
「源頼光様の仇敵なら同じ源の姓を持つ私にとっても仇敵だ。待っているがいい、酒呑童子。必ずやお前を討ち、源頼光様の墓前にその事をお伝えしてやるからな……!」
「まだ言ってるし……はあ、まあいいか。まだ営業時間ではあるから、あまり乱暴な事はしないでね?」
「仕方ない。勝負はその後だ」
好戦的なみなちゃんの様子に私はため息をついてから入り口のドアを開ける。カランカランというドアベルの音と一緒にドアが開くと、店内の様子に私達は息を飲んだ。
「す、すごい……」
「これが……あやかし達のカフェ……」
店内は大盛況だった。けれど、そこにいるお客さん達の中には一人として人間はいなかった。猫耳が生えたギャル風の女の子や小型犬くらいの大きさの動物を愛おしそうに撫でる優しそうな顔の女性、お茶を静かに飲んでいる後頭部が異様に長いお爺さんや青い着物姿の若いお兄さん、とそのお客さんの種類も様々だった。
「この人達、全員が妖怪なんだね……」
「まさに
「妖怪達にとってはここが天国みたいなとこなんだろうけどね」
怖がるみなちゃんの姿に苦笑いを浮かべていると、私達のところに夏葉ちゃんが近づいてきた。
「叶」
「夏葉ちゃん、こんにちは。バイト初日はまだだけど、今日はお客さんとして来たよ」
「そう。隣の人間は友達?」
「うん、源光ちゃん。みなちゃんだよ」
「源……春臣が反応しそう。とりあえず空いてる席に座ってて。すぐに注文を聞きにくるから」
「うん、ありがとうね」
夏葉ちゃんが次のお客さんのところへトテトテと駆けていく。その姿が小さな子供がお手伝いをしているように見えて微笑ましかったけれど、座敷わらしというからには私達なんかよりも歳上なのだろう。
「とりあえず座ろうか、みなちゃん」
「あ、ああ……」
みなちゃんと一緒に空いていたカウンター席に並んで座る。すると、隣でお茶を飲んでいたお爺さんが声をかけてきた。
「ほう、まさかこの店に人間がくるとはのう」
「あ、わかりますか? 私、今度からここで働かせてもらうんです」
「かっかっか、そいつは楽しみだ! 黒兵衛にでもそそのかされたか?」
「前のバイト先が閉店しちゃってへこんでたところに黒兵衛と出会ったんです。ところでお爺さんは何の妖怪なんですか?」
「ワシか? ワシはぬらりひょん、しがないジジイじゃよ」
ぬらりひょんお爺さんがなんてことない様子で言う中、みなちゃんはガタンと椅子を鳴らした。
「ぬ、ぬらりひょん……!?」
「そうみたいだけど、どうしたの?」
「そうか、叶は知らないんだったな……ぬらりひょんは普段は人間の民家に知らぬ内に入り込んではその家の食べ物や飲み物を勝手に拝借していく妖怪だが、妖怪達の総大将としても知られる大妖だぞ」
「へー。お爺さん、そんなにすごい妖怪だったんですね」
「かっかっか、たしかに部下はおる。あくまでも仕事上のだがな。そして今はここで茶を飲んどるだけのジジイに過ぎん。そもそもお前さん達に危害を加えるだけの理由もないしのう」
ぬらりひょんのお爺さんは穏やかに笑うとまたお茶を飲み始めた。その姿はいわゆる
「まあお前さん達のような人間からすればあやかしというのは不可思議でなんだかわからんものに思えるかもしれん。だがな、あやかし達も人間同様に生きていて、人間同様に現代の様々な物に興味を持つ。姿形は違えど、あやかしも人間も同じなのだよ」
「人間もあやかしも同じ……」
それを聞いて私達は周りを見回す。周りは色々な妖怪で溢れているけれど、その誰もが楽しそうに話をしたり注文品を美味しそうにしていたりしていて、たしかにその姿は人間と変わらなかった。
「言われてみれば、たしかに……」
「だ、だが……」
「今はそう思えなくともいい。だがな、こうしてあやかし達と関わった以上、今後も何かしらの形であやかし達に関わる事にはなる。その時には少しでも歩み寄ってやってくれ。人間達と同じであやかし達も日夜様々な悩みを抱えて生きているからな」
「はい、わかりました」
私が返事をする中、みなちゃんは黙ったままだった。そして夏葉ちゃんが注文を聞きに来てくれ、私達は春臣さん達が作ってくれた物を飲み食いしながら閉店時間まで待ち続けた。
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