第2話
「あやかしのカフェ……ってことは、お客さんとか従業員も妖怪なの?」
「そうだな。別に人間の客も来ていいとは思うんだが、来るのはもっぱらあやかしだ。ほら、人間達にとっては映えだのなんだのが人気だろ? 実はあやかし達もそういうのに興味があるようでな。そういう写真を撮って、いんたーねっとってのに投稿しようとしてるやつもいるんだが……」
「ダメなの?」
猫又は首を横に振る。
「ダメってわけじゃねぇ。だが、中には人間に化けられない奴もいて、見た目がその……へんちくりんなのもいるからな。そんなのが人間達に紛れておしゃれなかふぇに行こうものなら、たちまち騒ぎになったり自分達がいんたーねっとに投稿される側になったりする。それを避けるために、オイラがこうしてかふぇを営んで、あやかし達が安心して来られる場所を提供してるってわけだ。因みに、人間に化けはしたが、しっかりと調理師免許や食品衛生責任者、防災管理者に菓子製造許可、他にも多くの資格を取っておいたんだぜ?」
「ほ、本当にスゴいね……」
前に、元バイト先のカフェのマスターからそういう資格を取るのにどれだけ苦労したかという話を聞いていたので、それがどれだけスゴい事かわかっていた。
「だろ? んじゃあ早速店の中に入ろうかね」
「うん!」
私はワクワクしながら入り口に近付く。猫又はドアの下の猫用の入り口から入っていったけれど、私は『Close』の札がかかっているドアを開けた。チリンチリンというドアベルの音が鳴り、コーヒーの香りやお菓子の甘い匂いがふんわりと漂ってくる中、猫又は自慢げな様子で店内を前足で指し示した。
「どうだ? これがオイラのかふぇだ!」
「スゴい……とてもおしゃれな感じ……」
私は周りを見回した。しっかりと光沢のある木で作られたカウンターや高級そうな革が張られた椅子、そして誰かが弾くようなのかピアノが端には置かれていて、ボックス席などもしっかりと用意されていた。壁や床も落ち着いた大人っぽい雰囲気の色で塗られているけれど、掃除が行き届いているのかほこりや汚れ一つ見当たらず、衛生面もたしかにしっかりとしているようだった。
「こんな素敵なところで働くとなると、私で本当にいいのかなって思っちゃうなあ」
「別に構わねぇさ。叶、カフェで働いた経験はあるのか?」
「うん。今日まで別のカフェでバイトしてたよ」
「ソイツは助かるな。経験者なら研修なんかもあまり必要なさそうだしな」
「といっても、基本的に食べ物や飲み物の製造はマスターがやってくれてたから、私は接客しかやったことないよ?」
「充分だ。さて、それじゃあそろそろ他の従業員を紹介したいところなんだが……」
「そういえば、誰もいないね」
私はもう一度周りを見回す。全員バックヤードにいるのか店内には誰もおらず、店内はシンと静まり返っていた。
「うーむ……まあ、営業時間は過ぎてるしな。とりあえず裏に行ってみるか」
「うん」
猫又の後に続いて私はバックヤードに向かう。ドアに近付くと、中から話し声が聞こえ、やっぱりここにいたんだという安心感を覚えながらドアを開けた。けれど、私の目に飛び込んできたのはとんでもない光景だった。
「こ、これは……」
「はあ……いくら閉店後だからといって、これはなあ……」
猫又はため息をつきながら頭を振る。たしかに他の従業員達はいた。けれど、ブランデーをまるでジュースのように飲む和装の男の人やその人に首を巻き付けている同じく和装の女の人、他にもそれを見てクスクス笑う着物姿の女の子や犬耳を生やした男の子などそこには驚きの光景が広がっていた。
「えっと、どうすれば……」
「あー……ちょっと待っててくれ。おーい、お前らー」
「ん? おお、黒兵衛。散歩から帰ったか」
「親分の帰りを首をながーくして待っていたわよ?」
「お前さんはろくろ首なんだからいつだって首は長いだろうよ、冬美。それと
「ふふ……やっぱりここは賑やかだね」
「ただうるさいとも言うがな」
「夏葉も秋風もコイツらの事を止めてくれ。せっかく新しい従業員になってくれそうな奴を見つけてきたってのによ」
その言葉を聞いて、四人の視線が私に集中する。それに私はドキドキしたけれど、すぐに気持ちを切り替えて、私は頭を下げた。
「深江叶といいます。猫又さんに公園で声をかけられて、ここまで連れてきてもらいました」
「かふぇで働いてた経験もあるみたいだ。即戦力にはなってくれるはずだぜ?」
「ほーう、それはありがたいな」
「だねぇ。ふふ、可愛らしい子だこと」
「いい人を見つけてきたみたい。ね、秋風」
「ふん、どうだろうな」
秋風と呼ばれた男の子は不満そうな顔をした。そして猫又の黒兵衛を見ると、私を指差しながら冷たい声を出した。
「俺はこいつを雇うのには反対だ。さっさと連れ出せ」
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