第4話 知らない天井

 不思議な盾は僕を守ってくれたけど元の世界には戻してくれなかった。そして僕がいくら話しかけても答えてくれる事は無かった。


「お前は何者だ」

 牛太郎はさっきと同じ事を聞いてきた。

「僕はマコレル。みんなからはマコと呼ばれている。人間だ」


「確かに普通の人間に見える。だけどさっきのはおそらく、管理者のエージェントだ。お前は管理者の観測対象になっており、なおかつ保護対象になっている様だ。俺はお前に手を出せない。お前はいったいなんだと言うんだ」


 僕は答えようが無かったので、牛太郎の疑問はスルーして

「これから僕たちはどうなるの?」

と問いかけた。


「お前に関しては決めかねている。この子達は予定が決まっているが、彼らが目を覚ましたら一緒に説明しよう」

 そう言うと牛太郎は錫杖を2回地面に突いてシャンシャンと鳴らした。

 すると、牛太郎は僧侶の様な格好をした人間になった。身長は1m80cmくらい。体格はルチャドールの様だ。

 どこからか4人の若い坊さんが現れ、ユカちゃんとヒロを抱えた。

 牛太郎が奥に向かって進むと二人を抱えた坊さんが付いていく。

 僕も残っても仕方がないのでついていった。


 たどり着いた部屋は12畳くらいの大きさでベッドが二つとソファがあった。清潔そうな部屋だったが、飾り気のない殺風景な感じだ。


「そこに座っていたまえ。お茶を持って来させよう」

 牛太郎は坊さんの一人にお茶の用意をするよう指示を出した。

 さっきから勝手に坊さんと呼んでいるが、坊主かどうかはわからない。それっぽい格好なのでそう呼んでるだけだ。


「私がこの姿の時は、私のことをカウールと呼べ。

 私は少し席を外す。

 彼らはもうしばらくすると目を覚ますだろう」

 そう言うと、牛太郎改めカウールは部屋を出ていった。

 姿だけでなく一人称も変わっちゃったよ。



 二人が目を覚ますのを待っている間にちょっと寝てしまったみたい。

 夢を見たんだ。

 その中で僕は魔王だった。


「仕事辞めてぇ」

 執務室で決済書類に目を通し、ハンコを押して許可却下のそれぞれの箱に放り込む。

 この後はミーティングで進捗確認。

 クライアントに報告。

 聖教会との折衝。

 それが終わったら領域の視察。

 そしてここに戻ってきたらまた書類が溜まってるんだろうな。

 うんざりだ。

 何でもかんでも決裁が必要だとか抜かしやがって。

 ミーティングしても自分勝手な発言するやつか、何も意見を言わないやつだけだし。

 これじゃ意味ないと思って報告書だけにしたら事実を誤魔化した様な報告書ばかり出てくるし。

 くらは好き勝手言ってくるだけだし。

 折衝相手はキツイ性格だし。

「魔王なんてやってらんねぇよ」


 なんだが夢の中の魔王はイメージと全然違う。

 これじゃお酒飲んで愚痴を言ってるお父さんじゃないか。



「知らない天井だ」

 僕が起きたのと同時くらいにユカちゃんは目を覚ました様だ。そしてこう言う時の定番のセリフを呟いている。なかなか大物かもしれない。


「えっ、ここはどこ。どうなってるの?」

 ヒロも目が覚めた様だ。主役とヒロインの言葉が逆転してるぞ。


「二人とも目が覚めた様だね。身体は何ともない?」

「あっマコちゃん」

「ここは何処なの?何でこんな所にいるの?」

「ここが何処かはわからない。でも僕らのいた世界と違う所みたいだよ」

「異世界という事?」

「まぁ、そこら辺は君たちを連れてきた本人が説明するだろうから、ちょっと待っててよ」

 僕が言うとユカちゃんが

「あんた何でそんなに落ち着いてるのよ。それと君たちって…マコちゃんも連れて来られたんじゃないの?」

 と訝しげな顔をして聞いてきた。

「いや、僕は連れて来られたと言うよりも付いて来ちゃったって感じかな。ユカちゃんが心配だったから」

 僕が言うとユカちゃんはちょっと頬を染めて、はにかんでいた。

 ヒロはちょっと拗ねていた。


「目が覚めた様だな。ではこちらについて来てもらおう」

 振り向くとカウールが入口に立っていた。





「観測機器正常に作動中」

「ダウンロードファイルの整合チェック完了」

「起動問題無し」

「シークエンス進めます」

「一部記録ファイルに内部干渉あり」

「問題は無いと判断」

「シークエンス進めます」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ちょっと進展あったかな。

うーん、まだかぁ。

まだかなまだかなぁ。

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