第3話 来ちゃった
「きゃあー」
「怪物だぁー」
声のした方に目をやると、身長3mほどの人型の者が立っていた。半裸の筋骨隆々の男。しかしながら、その頭は牛の頭だった。
あれはミノタウロス?
ミノタウロスは何かを探るかの様に僕たちを見回している。
「魔王様の気配がした様に感じたが、気のせいか」
そして、ユカちゃんとヒロを指さして、
「お前とお前、俺と一緒に来い」
と言って近づいて来た。
二人は恐怖の為か動けない様だ。
みんなも怖くて声も出せない様だ。
誰か助けてくれないかと周りを見回すと、周りは時間が止まってしまったかの様になっている。僕たちだけ世界から切り離された感じだ。
僕はユカちゃんの手を握り、ミノタウロスを睨みつけた。
そんな僕にミノタウロスは、
「別に取って食おうというわけでは無い。この二人の聖なる因子を確認したいだけだ」
と見た目に反してはっきりした人間の言葉で言った。
「でもこの二人を連れて行こうとしたよね」
僕はユカちゃんを背中に庇いながら言い返した。
ヒロは庇おうとしなくても僕の後ろに隠れようとしている。
「ここで言い争うつもりは無い。時間も無いことだしな」
ミノタウロスは少し焦れてきたようだ。何事か呟くと錫杖を地面に突いてシャンと鳴らした。
あれ?ミノタウロスじゃ無いじゃん。牛頭馬頭の牛頭…何て名前だったっけ。
僕はどうでもいい事を考えていた。
いつの間にか世界が変わっていた。いや、僕たちが移動させられたのか。
僕たちは神殿みたいな所にいた。
ここに来たのは、僕とユカちゃんとヒロの3人だけだった。
ユカちゃんとヒロは気を失っている。
「何故お前がここにいる」
「そんな事知るもんか。ここはどこだ。二人をどうするつもりだ。何故二人は倒れているんだ。あそこにいた他の人達はどうなったんだ。お前は何者だ」
「ふん。お前こそ何者だ。俺はこの二人だけを指定したのだがな。
正体不明のお前に説明してやる謂れはないが、まぁいい。この二人はこの世界に順応している最中だ。順応すれば勝手に目を覚ます。お前はいきなり適応している様だがな。
他の者どもは狭間の空間から元の世界に戻っている。あの空間の記憶も無くなっている。
俺の事は説明する気はないが、名前だけは名乗ってやろう。俺の名前は牛太郎だ」
つ、つっこまないぞ。
しかし、意外と答えてくれたなぁ。
「それでだ。不確定要素は排除したい。お前はここで消えてもらう」
そう言うやいなや錫杖を振りかぶり、僕に向かって振り下ろして来た。
僕は避けようとしたが間に合わないと思い、身体を固め、目をつぶってしまった。
だって今まで荒事に巻き込まれたことなんて無かったんだもん。
だけどいつまで経っても衝撃は来ない。
僕は恐る恐る目を開けた。
錫杖は僕の頭の上で止まっていた。
錫杖を受け止めていたのは30cmくらいの直径の丸盾だった。空中に浮いて、支える物も無いのに微動だに動かない。
牛太郎は息を吸い込むと一気に火焔の息を吐き出した。
盾は半透明になると同時に大きくなり熱から僕を守ってくれた。
「こなくそ」
牛太郎は虚空から取り出した剣で切り掛かって来た。
盾は剣の形になり、はじき返した。
パリィってやつかな。
「テメェ姿を現せ」
「ふふっ。脳筋野郎め。相変わらずだな。だが断る」
「なんだとぉ」
「この子に手は出させない。これ以上やると言うのなら消滅させるぞ」
そう言うと凄いプレッシャーがのしかかった。
牛太郎は膝をついている。これがこちらに向けられた物だったら、とてもじゃ無いけど耐えられないだろう。
「くっ。わかった。どうしても消さなきゃいけないわけでも無い。攻撃はしない」
牛太郎が地面をタップするとプレッシャーは消えた。
「負けた訳じゃ無いんだからね。無駄な事をするのをやめただけだからね」
口調変わってんじゃん。
「観測対象補足できました」
「時空転移が行われました」
「観測システム復旧60%」
「調査隊は現着済」
「戦闘状況を確認。観測対象守護に関してのみ干渉許可」
「観測システム復旧しました」
「領域確保。バックグラウンドで起動」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
牛太郎お前何やりたいんだよ。
いらんことしてんじゃねぇよ。
俺の登場が伸びちまったじゃねぇか。
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