第8話(閑話休題)
寮へと戻ってきたルルカは早速、ソファへ本日二度目のダイブを決める。
「お腹が空いたのだ……」
「しょうがないわよ。でも、水も電気もあるし、お茶でも飲みましょう」
私がお茶を入れている間にルルカは語る。
「さっき私はプチタイムトラベルなんて言葉を使ったけれど、時空移動の方が正しいのかもしれないな」
また新しいワードが出てきた。混乱してしまう。
「時空移動ってどういうこと?」
「人間も獣人も己が気がついていないだけで、時空を移動しているという説があるんだ。たとえば、寝て起きたときとかね。実際、私たちも寝ている間にこの時間軸、時空に来たわけだし」
「気がついていないだけで時空を移動しているなんて夢のある話ね」
「だろ? しかし、それが時に神隠しの原因たりえるわけさ」
なるほど、一連の行方不明事件も過去に起こったとされる神隠しも、時空移動説が本当ならば説明がつく……ような気がする。
しかし、プチタイムトラベルというのも、また夢があっていいなと私は思う。
「はいお茶。今日は早めに寝て明日の朝一番で正門に向かいましょう」
「うむ、そうだな。あちっ」
※
そういえばお水が出るということは……。
「ねぇルル、一緒にお風呂に入らない?」
「ぶぅぅぅ!」
ルルカは盛大にお茶を吹き出した。
「な、な、なにを言っているんだね君は、突然」
「いいじゃない、もしかして恥ずかしいの?」
「は、恥ずかしいわけないだろこの私が! いいだろう、一緒に入ってやる」
「やった! じゃあ大浴場に行きましょう。今なら貸し切りだわ」
「う、うむ」
着替えを持って寮に隣接された大浴場へ向かうと、予想通り、湯船にはたっぷりのお湯が張られていた。
私が服を脱いでいると、ルルカはなぜか服を脱ぐのを躊躇している。
「どうしたの? やっぱり恥ずかしいのかしら」
「ち、違う。違うがね……」
ルルカが服を脱ぐとフワフワのしっぽがもふっと現れた。
「か……可愛い!」
「はぁ、こうなるから嫌だったのだ……」
「ねぇ、なんでいつも隠してるのよ!」
「私は、気持ちが特にしっぽに出やすいのだよ……だから普段は隠しているのだ」
それにしたって可愛い。考えてみれば獣人の全裸を初めてみたかもしれない。毛並みもフワフワだ……。
「ぎゅー!」
「キャアッ! なんだね君は。真性の変態か!」
「だってもふもふフワフワなんだもん。ルルってば可愛い」
「んっ……」
ルルカは顔を真っ赤にしてしっぽをぶんぶんと振っている。可愛いと言われるのはやぶさかではないのかもしれない。
その後は二人で背中の流しっこをして、湯船にゆっくりと浸かった。ルルカも全裸を見せるのに耐性がついたのか、気がつけば「極楽極楽」とおやじの様に湯船に浸かっていた。
「獣人って体乾かすの大変そうよね。いつもはどうしてるの?」
「どうしているもなにも、専用のドライヤーを使っているがね。ほら、脱衣所にあったのを君も見ただろう」
はて、そんなものがあったか。あとで確認してみよう。
「でもまさか、ルルと裸の付き合いになるとはね」
「へ、変な言い方をするな。あくまで一緒にお風呂を嗜んでいるだけの話だ」
「あれー? もしかしてまだ恥ずかしいのかなー?」
「もういい、出る」
「あ、ちょっと待ってルル……ぷっ、ははっはっはっは!」
「な、なんだいきなり笑いだして」
「だってルル、毛が全部濡れちゃったから別人みたいになっちゃったと思って」
「もう出る!」
ルルカは脱衣所へ行ってしまった。
「あー待ってルル、悪かったって」
私もお風呂を上がりルルカを追いかけて脱衣所へ向かった。
脱衣所へ行くと、ルルカは謎の機械に入っていた。透明で筒状の機械に。
「これが獣人専用のドライヤー? こんなのあったんだ」
「意識していなかっただけだろ。それ」
ルルカがボタンを押すと機械の中でルルカが風に吹かれている。なるほど、風邪をひかないように全身をイッキに乾かすのか。生まれて初めて見たが、これはこれで面白い。また笑ったらルルカに引っ掻かれそうなので、私は私でタオルで体を拭き、寝間着に着替えた。
「さて、私も髪を乾かそう」
「見たまえ」
「こ、これは……!」
全身乾かしたてのルルカはモッフモフになっていた。そして、全裸でドヤ顔をしていた。
「可愛いわルル!」
「ふふん、そうだろう。触ってもいいんだぞ?」
「では、お言葉に甘えて」
ルルカを触るとモフモフを超えて、もはやもっちりしていた。
「最高です」
「うむ。よきにはからえ」
もう一度言うが、ルルカは全裸である。
※
――そんなこんなでお風呂を満喫した私たちは部屋に戻ってきた。
「ルルはベッドで寝てね。私はソファで寝るから」
「そんな、ここは君の部屋だろ。私がソファで寝る」
「ならいっそ、二人でベッドで寝ちゃう?」
「うっ……」
ルルカは一瞬嫌そうな反応をしたが、頬を赤くして「し、仕方ないな」とパイプを吹く真似をした。
二人でベッドに入る。
「うーん、ルルもっふもふね」
「あ、あまり抱きつくな」
「ぎゅー」
「うっ……」
「ねぇルル、一緒に神隠しにあったのが私でよかった?」
「なんだね藪から棒に。よかったに決まっているだろ。親友なんだから」
「もうルルカー!」
「だからあまり抱きつくなって。くすぐったいのだ!」
こうして私たちの、神隠しにあった一日は終わったのだった。
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