第3話(神隠し事変②)
市場が連なる通りに着いた。が、やはりルルカの言う通り人っ子一人いない。
「誰かーいませんかー」
まったく反応がなかった。
どうやらルルカの言う通りアミナリスから人という人が消えてしまったらしい。いや、市場だけではまだなんとも言えないが。
「市場には誰もいないわね。人の足音とか聞こえないの?」
私が言うと、ルルカは折れた片耳をピクピクとさせて、
「まったく聞こえないな。それにしても不思議だな。市場に人影が一切ないのに、商品が並んでいる」
市場を見ると、確かに果物や野菜、魚も新鮮な状態でそこにあった。
「本当ね。どの品物も今並べたばかりみたいだわ。あそこのリンゴ美味しそう」
私は果物屋さんに並んでいるリンゴをひとつ手に取った。
「君、まさか食べる気じゃあるまいね」
リンゴをかじる。うん、普通のリンゴだ。なんなら普通のリンゴより美味しい。
「やめたまえ、窃盗罪だぞ」
「いいじゃない誰もいないんだし。それに私アミナリスに来てから市場に来るの、なにげに初めてなのよね。――ルルもリンゴ食べてみなさいよ。すっごく美味しいわよ」
言いながら、私はルルカにリンゴをひとつ手渡した。
「そ、そうか。あまり気ノリはしないが……んっ!甘くて美味しいじゃないか」
「でしょー! お代は……まぁまた今度でいいわよね」
――二人でリンゴをかじりながら調査を進める。
「次は住宅地の方に向かいましょ。私の友達がいるかもしれない」
「うむ」
私たちは、まず私の友人宅へ向かう。友人宅は中央広場から少し歩いた所にある。
「ところで君、私以外に友人がいたのだね」
「失礼な、たくさんいますよ……たくさん、そりゃあもう……」
「敬語になるあたり、それほどいないようだな」
鋭いところをルルカはついてくる。確かに友達は少ないけれど……。
――私とルルカは友人宅に着いた。まずは呼び鈴を鳴らす。……反応がない。
「やっぱりいないかー」
するとルルカはベランダへ不法侵入し、窓から家の中を堂々と覗き込む。そして、私に向かって首を横に振った。
「私の家に行ってみるか」
「え、ルルの家ってこの辺にあるの?」
「あぁ、今は寮で生活しているがね」
「へールルの家か。行ってみたいな」
「それでは向かうとするか」
というわけで、急遽ルルカの家に向かうことになった。
ルルカの家へ向かう道中、友人宅と同じような事を、つまりは呼び鈴を鳴らしベランダに不法侵入する行為を数か所の家で試したが、結果は芳しくなかった。
「そろそろ着くぞ」
「お、楽しみだなーどんな家な・ん・だろおぉぉぉぉ!?」
そこには今まで見てきた家とはまったく異なる、一言で言えば「お屋敷」があった。
「ルルの実家って、こんな一等地にあったのね」
大学からもそれほど遠くないし、このお屋敷から大学へ通えばいいじゃないかと思ったが「お嬢様」にも色々と事情があるのだろう。多分。
「では、中に入るか」
「う、うん」
ルルカは私の動揺を一切気にしていないようだった。
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